企画!

□お悩み相談!
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「シェルク、仕事は慣れたか?」
「はい」

ルーイ姉妹の朝の食卓での会話はいつも淡々としている。いや、朝と限らず四六時中だろうか。
別に喧嘩をしている訳でもなく、姉妹としてのお互いへの愛がない訳でもない。ただそうなってしまうのだ。
オメガ騒動でシャルアは大切な妹のシェルクを取り戻す事に成功し、シェルクは自分の時間を姉妹の時間を取り戻そうと決意した。
が、いきなりどうすればいいのかも分からず、躓いてしまっている。

「今日の夕飯はハンバーグにするつもりだが、他に何か食べたい物はないか?」
「いえ、特には…」

上手く会話を続ける事が出来ず、すぐに終了してしまう。
勿論、シェルクにそのつもりはないが、どうやって続かせればいいのか分からないのだ。
ついでに言うと甘え方も分からない。
十年以上ディープグラウンドにいた所為でそういった会話が苦手になったと言って逃げるのは簡単だが、逃げ続ける訳にもいかない。
ちゃんと『ディープグラウンドのシェルク』と決別して『普通の女の子のシェルク』にならなければ。
でなければ時間を取り戻したとは言えない。
そして、自分を取り戻す為に多くのものを犠牲にして闘ってくれていた姉のシャルアに報いる為にも―――。





(しかし、どうすればいいのでしょうか)

WROの情報課で仕事をしながらシェルクはひたすら考えていたが、何も良い案が思いつかなかった。
というよりも思いつき方が計算地味てて何だか嫌だ。
もっとこう、普通に普通に―――。

「シェルクー、お昼行こう」

思考の渦に沈みかけたシェルクを、明るい声が現実に引き上げる。
声の主を振り返れば、そこには明るく笑うユフィの姿があった。
オメガ騒動の時は昏睡状態のシャルアを巡って一悶着あったが、今ではすっかり親友だ。
面白いアニメやマンガを紹介して貰ったり、美味しい物を食べに行ったりしている。
お昼休みだってこうしてご飯に誘いに来てくれている。

「ええ、いいですよ」
「今日は信号の向こうの喫茶店で食べない?」
「いいですよ。それと―――」

相談に乗って欲しい、と言おうとしたシェルクの肩をユフィの手がガシッと力強く掴んで遮った。

「ちょっと相談に乗って欲しい事があるんだけどさ、いい?」

有無を言わせぬ真剣な顔つきで迫ってくるユフィに内心驚きながらもシェルクは「は、はい」と返した。
けれど、ちゃんと自分の意見も言っておく。

「私の相談にも乗ってくれますか?」
「シェルクも何か悩みがあるの?」
「はい、少々…」
「そっか、いいよ。このユフィちゃんにまっかせなさい!」

ドンッ!と自分の胸を叩くユフィに頼もしさを覚えながらシェルクはユフィと共に喫茶店へと向かった。











さて、喫茶店へと向かった二人だが、注文したのはスパゲティやハンバーグなどではなく、デザートだった。
ユフィは『期間限定』という言葉と美味しそうだったからという理由でストロベリーパフェを、シェルクは大してお腹が空いていないという理由で生クリームやフルーツが贅沢に乗ったスペシャルコーヒーゼリーを注文した。
仕事の疲れを吹き飛ばすほどの甘さが二人の疲れを癒す。
そして『普通の女の子』らしい行為をシェルクは内心楽しんでいた。
自分は今、『普通』の中にいるのだと。

「それで、相談とは何ですか?」
「あぁ、うん……実はさ、ヴィンセントの事なんだけどさ」
「喧嘩したんですか?」
「ううん、そーじゃないんだ。むしろ逆。仲良くやってるんだけど…」
「けど?」
「なんだろう、仲良くやってる止まりっていうか」
「失礼ですが今どこまで進展してるんですか?」
「一緒にご飯食べたりデートしたりする感じかな」
「なるほど。お互いの家に遊びに行ったりはないんですか?」
「それが今回の本題なんだよ〜」

ユフィは盛大に溜息を吐くとパクッとクリームの付いた苺を食べた。
苺の甘酸っぱさとクリームの甘さが素晴らしいハーモニーを奏でるが、それでもユフィの顔は浮かない。

「つまり、まだ一度もお泊りをした事がないと?」
「うん、そーいうこと」
「提案した事は?」
「まだ。ていうか、それを今日しようと思ってるんだけど…正直ちょっと迷ってるんだ」
「何故ですか?彼に何か不満でも?」
「不満はないよ、モチロン!むしろアタシの方に不満持たれてるんじゃないかって思う時がたまにあるけど、そうじゃなくてさ…その……」

しどろもどろになりながら言葉を探すユフィの顔が段々赤みがかっていく。
視線を彷徨わせ、軽く頬を掻いたりなんかして何だか可愛いらしい。
少しからかいたくもなったが、シェルクはユフィの言葉を待った。

「なんていうかさ、ね?こう…がっついてるとか思われたくないっていうかさ。家に行ったり呼んだりってのは何か起きてもおかしくない訳じゃん?でさぁ、えっと…」
「その『何か』を期待して家に行きたいと思われたくない、そういう事ですね?」
「う、うん、まぁ…うん、その通り、デス…」

ズバリ言い当てられたユフィは自分の気持ちを落ち着かせる為にやや早口でパフェを口に運んだ。
味が分かっているかどうかは定かではない。

「別に問題ないと思いますよ。少なくともそのような提案をしても彼がユフィに対して不快感を示す事はないでしょうし、男女の間柄としては普通の事だと流石の彼も理解するでしょう」

シェルクは適当に言ったのではなく、彼女なりにヴィンセントを分析してそう言った。
実際、ユフィがヴィンセントの家に行きたい、または自分の家に招いた所であのヴィンセントが拒否するとは想像しにくい。
むしろユフィの方からどんどんアクションを起こさないと二人は中々進展しないとシェルクは踏んでいた。
過去の出来事からもヴィンセントは恋愛に対してはかなり慎重になっている。
ユフィと付き合うのにだってどれだけ時間がかかった事か。
その当時の事でティファたちと一緒にやきもきしたのは言うまでもない。
今回のだってヴィンセントから言い出してもいいものだが、ユフィを怖がらせないように嫌われないように慎重になっていて、じっくりと時期を見極めようとしているのだろう。
ユフィを大切にしているのはいい事だが、大切にしすぎて受け身になりすぎるのもどうかと思う。

さて、シェルクに軽くアドバイスを受けたユフィだが、まだ悩んでいる様子で、納得がいっていないようである

「う〜…でもヴィンセントって堅物なイメージあるじゃん?そういう事に対しては厳格っぽいっていうかさ」
「彼は堅物でも厳格でもなくて、ただ面倒なくらい慎重なだけですよ。もしも自分の浅はかな行動でユフィを傷つけてしまったらと考えて慎重になりすぎてるんです。そこはユフィの方が良く知っていると思っていますが?」
「う、うん…まぁね」

ユフィは頬を朱に染めながら照れたように頷く。

「でしたら臆する事はありません。いつもの貴女らしく思いっきりアタックするのみです。それでもしもヴィンセント・ヴァレンタインが遠回しに拒んできたとしてもそれはユフィを嫌っているのではなく、慎重になっているだけです」
「信じちゃうよ?いいの?」
「私を信じるよりもヴィンセント・ヴァレンタインの事を信じてあげて下さい。ユフィはヴィンセント・ヴァレンタインの恋人なんですから」
「恋人……エヘッ、そーだよね!アタシはヴィンセントの恋人なんだからアタシがヴィンセントを信じなくて誰が信じるんだよって!そうだよそうだよ!ありがとね、シェルク!」
「いいえ、礼には及びませんよ」

やっといつものユフィらしく明るく前向きになったのを見てシェルクもつられて柔らかく微笑み、クリームの乗ったコーヒーゼリーを一口食べた。
やはりユフィはこうでなくてはと、ユフィとの友達歴がまだ浅いながらもシェルクは思った。
これで悩みは解消されたと思われたが、ユフィの笑顔はすぐに難しいものへと変わった。
まだ何か悩みがあるようである。
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