企画!

□怖い夢を見ない為の対策
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今、ヴィンセントは寝間着用のシャツが戻ってくるのを待っていた。
上半身裸状態である訳だが、別に今日はユフィと愛の営みを行ってはいない。
だからユフィがヴィンセントのシャツを着ている事は本日はない訳だが、それでも現在ユフィがヴィンセントのシャツを所持している。
その理由は・・・

「お待たせっ」

シャッ!とまるで猫か何かが素早くベッドの中に潜り込んでヴィンセントの懐に飛び込む。
この者こそがヴィンセントのシャツを奪い、トイレに行っていた犯人・ユフィ=キサラギである。

「これ、ありがと」
「・・・ああ」

返されたくしゃくしゃのシャツを受け取って身に纏う。
余程強く抱きしめていたのか、数え切れない程のシワがヴィンセントのシャツのそこかしこに出来ている。
折角綺麗だったシャツが無残な姿で戻ってきた事に内心苦笑しつつ、ちょっと意地悪してやろうと口の端を歪ませた。。

「怖さは和らいだか?」
「なななな何言ってんのさ!!?べべ別に、怖くなんてなかったし!!」
「では何故私のシャツを持って行った?」
「だから言ったじゃん!ちょっと肌寒いからって!!」
「どういう意味の肌寒さだろうな?」
「もーうっさい!!」

怒ったユフィはヴィンセントの逞しい胸板にゴツっとやや強めに頭突きをしてキツく抱きついた。
少し意地悪し過ぎただろうか、なんて事を考えながら優しくユフィの体を抱き寄せる。
苦手な癖に強がってホラーものなんて見るからこうなる。
ヴィンセントのシャツを持ってトイレに行ったのも、幽霊が出て来るんじゃないかと怯えての事だ。
本当だったらヴィンセント本人にトイレの外で待っていて欲しかったのだが、そこはプライドが許さなかったようで、シャツを借りるに留まった。
その後はご覧の有様である。
ガタガタと小刻みに震え、昼間見たホラーものの恐ろしい場面を思い出したのか、ふるふると頭を左右に振って忘れようとしている。
こうなってしまうと電気を消して寝る事は出来なくなる。
その証拠に―――

「・・・ユフィ、そろそろ電気を消してもいいか?」
「ダメッ!アタシが寝るまで点けてて!!」

電気を消そうと伺い立てをすると即答で拒否をされてしまう。
こうなってしまったらユフィが寝るのを待つしかない。
しかしただ待っているだけでは眠れるのは明け方近くになってしまう事は既に経験済みである。
だが同時にこんな時の為の対処法も既に心得ている。
まずは怖い映像を思い出しているであろう頭を優しく撫でてやる。

「エヘッ」

するとユフィは嬉しそうに笑い、猫のように頬擦りをしてくる。
これによって恐怖が少し和らぎ、眠気を促進する事が出来る。
次に背中を優しく撫でたりポンポンと叩いてやる事によって安心感をもたらせ、恐怖からくる震えを無くす。
さて、後は仕上げだ。

「ねぇねぇ、ヴィンセント」

安心したような声色のユフィが話しかけてくる。
この時を逃さず、けれどもいつも通りヴィンセントは返事をしてやる。

「何だ」
「今度アイシクルに旅行に行こうよ」
「スキーか?」
「それも勿論なんだけど、アイシクルで雪祭りやるんだよ。それが見てみたくてさ〜」
「なら、アイシクルに行くとするか」
「やりぃ!アイシクル行ったら鍋の店に食べに行こうね!」
「ああ。いつもの店にも寄っていいか?」
「ヴィンセントの好きなウィスキーとかが売ってる店?」
「そうだ」
「うん、いいよ!ついでにアタシが飲めそうなお酒も見繕って欲しいな〜?」
「リンゴジュースでいいか?」
「何でだよ!!」

そんなやり取りをしながらユフィは徐々に目を閉じていき、瞼の裏にアイシクルの景色を浮かべながら楽しみを語った。
そうしていく内に声は段々小さくなり、やがて安らかな寝息がヴィンセントの耳に届いてくる。
無事、ユフィは眠ったようである。

「・・・ふぅ」

軽く息を吐いてユフィの寝顔をチラリと見やる。
安心と楽しみの入り混じった幸せそうな寝顔に対してなんだか小さな悪戯心が湧いてきて淡く色づいた頬を突付く。

「うぅ・・・ん・・・」

嫌そうに顔をしかめるユフィに満足し、しっかり毛布を被せてやると電気を消した。

(アイシクルか・・・)

澄んだ空気、サクサクと耳に気持ち良い新雪、そして視界いっぱいに広がる銀世界。
温かい服やコートに身を包み、静かな雪の街を楽しめる事からヴィンセントはアイシクルが好きだった。
それにユフィの露出も抑えられる上に、露出控えめ特有の魅力溢れるユフィを見られるので尚好きであった。

(鍋と酒か・・・)

ぐつぐつと煮込んだ鍋の中に窮屈そうに詰められた肉・ネギ・しらたき・こんにゃく・豆腐・餅巾着・・・。
それらを熱燗を飲みながら楽しみ、締めにご飯を混ぜておじやとして食べる。
程よく体が温まった所でいつもの店に立ち寄り、ウィスキーとアイシクル産の氷とチョコレートを買っていく。
アイシクル産の氷は普通の氷と違い、キンキンに冷えていながらも独特な甘みを孕んでいる。
その氷とウィスキー、そしてチョコレートの組み合わせは最強だ。
それらをユフィと楽しんだ後は共にベッドに入り、そして―――・・・

(・・・・・・楽しみだな・・・)

柄にもなく子供っぽい事を思いながらユフィを抱きしめ、ヴィンセントは眠るのであった。











END

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