企画!

□トラベリング・アイシクルロッジ
1ページ/2ページ

「ねぇ・・・ヴィンセント・・・」

ぐつぐつと熱が篭もる中、ユフィの悩ましげな瞳がヴィンセントに注がれる。
プルンと弾けそうな唇からは柚子の仄かな香りが漂う。
しかしヴィンセントはまるで取り合わないと言った風にその真紅の瞳を閉じて静かに首を横に振った。

「・・・ダメだ」
「なんでぇ・・・アタシ、もう子供じゃないんだよ。それはヴィンセントがよく知ってるでしょ?」
「そうだな、よく知っている・・・お前の事は何もかも知っているつもりだ」
「だったらさ・・・いいじゃん」

スルリとヴィンセントの腕に絡みついて柔らかな二つの果実で挟む。
挟む、なんていっても完全に挟める程大きくはないが、それでもそこそこの大きさのあるそれが当てられるだけでヴィンセントには十分な効果があった。
いつも以上にやや高めの体温、温まった事で柔らかくなっている体、甘酸っぱい柚子の香り・・・。
極めつけは甘えるように細められた黒曜石の瞳と甘く紡がれる魅惑の唇。
一体どこでこんな甘え方を覚えたのか。
誘惑されそうになるヴィンセントだが、それでも意志を強固なものにしてユフィの申し出を断った。

「ダメなものはダメだ」
「・・・イジワル・・・・・・」
「前科があるからな」

ポケットからスマホを取り出すとヴィンセントはとある数枚の画像をユフィに見せた。
そこにはユフィが酔っ払ってクラウドやナナキやケット・シーに絡み、シドとバレットと大笑いし、ティファに甘える姿があった。
しかも、その周りや背景は必ず何かしら散らかっていたり壊れたりしている。
ユフィの手に持っている物も画像ごとによって異なる。
そこから導き出される答えにユフィは苦々しい顔をしてパッとヴィンセントから離れた。

「はいはい、アタシが悪ぅございました」
「しっかり反省をするんだな」

言ってヴィンセントは涼しい顔で熱燗を一口喉に流し込んだ。
この店の熱燗はいつ飲んでも美味い。
対してユフィは不貞腐れながらぐつぐつと音を立てる鍋からネギと白菜と肉を取って柚子ポン酢が入っている器に浸す。
柚子の甘酸っぱい味が胃と心に染み渡る。

「あ〜あ〜、鍋美味しいな〜。熱燗なんかよりもよっぽど美味しいな〜」
「・・・お前がもう少し酒に慣れてきたら飲ませてやろう」
「もう随分前からお酒飲んでじゃんか。大丈夫だって言ってんじゃん」
「もう一度先程の画像を見ても同じ事が言えるか?」
「それはちょっとハメ外し過ぎただけだってば!ヴィンセントがちゃんと注意して見てればそんな事にはならないよ!」
「他人任せの時点でもうダメだ。諦めるんだな」
「ちぇっ。すいませーん、雑炊用のご飯お願いしまーす!」

腹立ち紛れにユフィは雑炊を注文する。
ムスッと頬を膨らませる姿は漸く“女性”に熟してきた彼女を“少女”に戻す。
表情も性質も変わるユフィを見て楽しむのはヴィンセントの楽しみにして特権だ。
楽しんでいる事を悟られぬように、追加された締めの雑炊を口に運んだ。












お腹いっぱいにご飯を食べ終わった2人は満足しながら店を出た。
しかし外に出た瞬間、魂まで凍りついてしまうのではないかという程の冷気が2人を迎える。
ヴィンセントはあまりの寒さに顔をしかめ、ユフィは咄嗟にヴィンセントの腕に抱きついて震え上がった。

「さ〜〜む〜〜い〜〜!!」
「折角温まったというのにこれではな。雪祭りを見るのはやめるか?」
「ダメ!絶対に見るの!」
「全く・・・風邪を引いても知らないからな」

なんて言いながらもヴィンセントの表情は満更でもない、という風だった。
ヴィンセントは、寒さで震えるユフィの手を取るとスルリと自分の手ごとコートのポケットの中に引き入れた。
一瞬驚いたユフィだったが、「えへへっ」と笑うともう片方の手で思いっきりヴィンセントの腕に抱きつく。
お互いの暖を共有出来て2人は今、とても温かかった。

「お〜!見てよヴィンセント!すっごくキレーだよ!!」

会場に到着すると、ライトアップされた様々な雪像が二人を迎えた。
モーグリやチョコボ、モンスターや建物を象った雪像の完成度は高く、ライトも加わってより輝いて見えた。
これにはユフィだけでなく他の観光客も感嘆の声を上げている。

「早速写真撮らなきゃ!」

ユフィはポケットからスマホを取り出すと早速撮影を始めた。
撮影にはあまり興味のないヴィンセントは代わりにじっくりと雪像を眺めてその目に焼き付ける。
それにしても本当に様々な雪像が精巧に作られている。
大雑把ではあるがミッドガルを再現したものもあれば、ウータイのダチャオ像を細かく再現したもの。
中にはカオスを象ったものが・・・

(ん?)

ヴィンセントは一瞬、自分の目を疑った。
目にゴミが入ったかと思って軽く擦ってからもう一度見る。
しかしそれはあった。
銀色に美しく輝く夜の月を背にかなりの完成度でそこにそびえ立っていた。
むしろ羽の部分とかどうやったんだと聞きたいくらいに。

「・・・」
「うわっ!あのシヴァ、すっごい丁寧に作られてる!気合い入ってんね〜」
「・・・」
「ヴィンセント?どーかしたの?そっちに何か面白いものでも―――」
「帰るぞ」

ユフィがカオスの雪像を見る前にヴィンセントは踵を返して強引にユフィを引っ張って歩き始めた。

「ちょちょ、ヴィンセント!?どーしたんだよ!」
「・・・何でもない」
「何でもないなら帰る事ないじゃん!!」
「・・・体が冷えてきた。だから帰るぞ」
「ホントにそれだけ〜?なんか隠してるだろ」
「・・・ウィスキーを一口だけ飲みたくないのであれば話すが?」
「えっ!?飲ませてくれんの!?」
「お前が素直に宿に戻るのならな」
「戻る戻る!ウィスキー飲ませて!!」

思った通り食いついたユフィに内心安堵の息を吐く。
カオスの雪像をユフィが見たらきっと大笑いするだろう。
仮に笑わなかったとしても茶化してくるのは間違いない。
カオスという存在自体は1つの生命体ではあるが、あれは長い事ヴィンセントの体に宿っていた。
そして変身する時もヴィンセントの体を媒体として変身している。
そうなると必然的にヴィンセントの要素が残る訳で・・・。
言うなれば超かっこいい自分の雪像が置かれているようなものである。
自分に自信のある者であれば誇らしげに思うかもしれないが、生憎ヴィンセントはそのタイプではない。
もう恥ずかしさでいっぱいだ。
それにしても誰があんなものを作ったのやら・・・ヴィンセントは呆れと驚きで頭が痛かった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ