企画!

□高級ホテルにて 前編
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コスタ高級リゾートホテル・プラチナビーチ。
プレジデント=神羅の時代からある高級ホテルで、主な利用層は金持ちや有名企業の社長が殆ど。
サービス・施設など全てが常に最高水準であり、プレジデント=神羅の威光を象徴する建物の一つでもある。
メテオ騒動後は世の中の情勢もあって一時休業していたがルーファウスが新生神羅を立ち上げたことと、富裕層からの厚意による寄付によって運営を再開する事となった。
一つの大きなホテルが復活するとそれに倣って他の一般向けのホテルも次々と運営を再開して多くの人の心を癒し、笑顔を取り戻させる。
そうして、邪悪な微笑みをも取り戻させて―――。









ホテル・プラチナビーチ最上階。
そこは神羅の社長専用の宿泊部屋で、あらゆるサービスが充実しているホテル最高の部屋だ。
恐らく親父はここに女でも連れ込んだり仄暗い会合を行いつつ贅沢の限りを尽くしていたのだろうとルーファウスは推察する。
いや、推察なんかしなくてもこの部屋に蔓延っている淀んだ空気がそのような事があったと物語っている。
恐らくは血生臭い事もあっただろう。
それに一時期は世界を支配していた親父が建てたホテルだ、血生臭い事件を起こしても隠蔽するのなんて赤子の手を捻るようなもの。
むしろそんなのは日常茶飯事であっただろう事は想像に難くない。
全く物騒な親父だ。
お陰でその怨念や淀んだ空気が自分を同じ道に引きずり込もうとしている。
ねっとりとしていて甘美で危険な闇の世界―――。

「ツォン」
「はっ」
「今度この部屋の改装をする。親父のセンスは悪趣味で仕方がない」
「承知致しました。後程、手配致します」
「床や壁の模様替え、この部屋にある全ての家具を一新しろ。デザインはお前に任せる」
「かしこまりました」

傍で控えていたツォンは軽く頭を下げると早速手帳に部屋の改装をメモした。
親父のお古なんぞはいらない。
親父の七光もいらない。
自分は自分の力で輝き、この世界を支配下に置く。
その為にも親父の気配が残るものは全て処分する。
この部屋も、このホテルも―――。


コンコンコン


「失礼致します」

丁寧なノック音の後にルードが入室してきた。

「社長、ラミアクイーン社の社長がお見えです」
「通せ」
「かしこまりました」

ルードは軽く頭を下げると扉の方を向き直り、ドアを開けると「どうぞ」と言って訪問者を通した。
その向こうから現れたのは、肩まで伸びたブロンドの髪、濃い化粧と真っ赤な口紅、豊満な肉体を強調するようなラインの紫色のドレスを着た女性だった。
真珠のイヤリングやダイヤのネックレスが女性をどれだけの地位にいる者かを物語っている。
ルーファウスは黒の革張りのソファから立ち上がると彼女を迎えた。

「御機嫌よう、ルーファウス=神羅」
「御機嫌よう、ミス・アルミラ。遠路はるばるようこそ我がホテルへ。
 お疲れになっただろう、そこのソファに座るといい。何か飲み物でも?」
「そうね、今は遠慮しておくわ。ところで私に用事って何かしら?もしかして私に会いたくなったとか?」

女は艶めいた眼差しをルーファウスに向ける。
だがルーファウスはそれを軽く躱して話を続けた。

「日頃から当ホテルを利用している事への感謝と、貴女に会わせた人間がいる」
「私に会わせたい人間?」
「そろそろ来る頃合いだろう―――」


コンコンコン


またノック音がしてルードが顔を覗かせる。

「社長、シャウト社の社長がお見えになりました」
「通せ」
「かしこまりました」

ルードはまた頭を下げると先程と同じようにドアを開けて「どうぞ」と言って訪問者を通した。
そうして大きな扉をくぐって現れたのは、黒の長髪を後ろで綺麗に纏めた、ルビーのような瞳を持った顔立ちの美しい男性と、白いスーツに身を包んだロングヘアの小柄の女性だった。

「初めまして、シャウト社代表・アルウィン=テイラーです」

女―――アルミラの視線は男に釘付けになった。











※※※※


時は遡って数日前・・・


「潜入捜査?」

渡された資料をパラパラと捲りながらユフィが聞き返すとリーブは「そうです」とデスクの前で頷く。
WROの局長室にはユフィとヴィンセント、そしてタークスのレノが集められていた。
もっとも、レノは客人という立場を利用してか応接用ソファでだらしなく足を投げ出して座っているが。

「最近、巷で薬物事件が横行しているのは貴方たちも知っていますね?」
「確か定番の覚せい剤とかの他に変な薬物が出回ってるんだっけ?」
「モルボルの体内に存在する、臭い息の源である『デンジャラスバッグ』を元に開発された危険ドラッグ、
 キキキアチョの頭髪から抽出される興奮成分を過剰に盛った事によって通常時以上の性欲と興奮を得られる『大興奮剤』。
 ただしあまりの興奮状態から暴力的になりやすく、また幻覚の副作用が働いて暴走状態となる為、新しく指定された危険ドラッグ。
 その他諸々、新しく出回っているドラッグの数はおよそ10種類」

ユフィと同じように軽く資料を捲っただけで資料に記載されていた薬物などの種類や詳細を間違える事なく軽く説明するヴィンセント。
相変わらずの記憶力と要点の捉え方に感心しつつヴィンセントの説明に続ける形でリーブは言葉を発した。

「それら危険な薬物の出処が分かりましたね」
「ラミアクイーン社でしょ?アタシら諜報部が血眼になって情報をかき集めたんだからサ」

ラミアクイーン社というのは大手の化粧品メーカーで、他にもランジェリーなどを取り扱っている老舗の会社だ。
女性に人気のある会社ではあるものの、黒い噂の絶えない会社でもある。
そして今回、薬の売人を逮捕したところそれがラミアクイーン社の関係者である事が発覚し、またラミアクイーン社が関わっているような事を匂わせたのだが・・・。

「ええ、そうでしたね。ですがその後、ラミアクイーン社を家宅捜索した所、薬物らしい薬物は見つかりませんでした」
「嘘だー!?ラミアクイーン社の関係者がモロに売人やってたじゃん!」
「ですがあれは末端に過ぎません。アレを捕まえても尚も薬物事件が横行するのを見るに麻薬組織があるのは間違いないでしょう。
 そしてその組織の元締めがラミアクイーン社であることも間違いはないでしょう」
「でも証拠がないんだよね?」

「そこで俺たちの出番って訳だぞ、と」

ソファでふんぞり返っていたレノが横から口を挟んでくる。
相変わらずの気怠げな顔で、けれどもどこか隙のない空気で話し始めた。

「実はラミアクイーン社の社長がウチの高級ホテルに昔から泊まっててな。
 見た所、薬物を持ち込んでいるような様子はねーんだがガサ入れしてみる価値はあるぜ、と。
 なんせプレジデント前社長と古い付き合いらしいからな、と」

ニヤリと意味深に口角を上げるレノにヴィンセントもユフィも納得したように頷く。
世界一の企業を築き上げたプレジデント=神羅の闇は深く、死して尚その闇は廃墟・ミッドガルを中心に世界中に潜んでいる。
あらゆる悲劇の中心には必ずプレジデント=神羅の巨大な影と思惑がある。
勿論それは彼のみではない、彼の後ろに隠れて悪事を成していた者たちもいる。
今回のラミアクイーン社の社長も恐らくはその一人だろう。

「アンタらがそんな情報を暴露するなんて意外だね。キチョーな金蔓なんじゃないの?」
「社長が頑固なカビ汚れに用はねぇんだとよ。まぁ、それとは別にアレを切りたくなる気持ちは判るがな、と」
「そんな強烈な女なの?」
「ケバいミーハー女。しかも面食いのおまけ付きだぞ、と」
「うへぇ」
「面食いという事はお前やツォンたちも餌食になったのか?」
「ツォンさんは顔は通ったが会社の社長じゃないのがネックでキープ枠。
 ルードはあのザ・殺し屋っていう外見が好みじゃないらしい。
 そんで俺は顔は良いもののチャラいからダメだつって落選したんだぞ、と」
「へーそりゃ可哀想だったね」
「だろぉ?憐れな俺を慰めてくれよ、と」
「んじゃ飴玉あげるから元気出しな」

ユフィはたまたまポケットに入っていた飴をレノに向かって放り投げた。
宙を舞って飛んできた飴をレノは難なくキャッチすると味を確認する事なくソファの横にあったゴミ箱に叩きつけた。

「ちなみにそんなかに混じってたイリーナはなんか言われたりしたの?それともスルー?」
「陰湿な嫌がらせをされてたぞ、と」
「その後イリーナどーしたの?」
「ボクシングジムで一時間ほどサンドバッグ相手にストレス発散してたぞ、と」
「うわ、相当じゃん」
「それより私達はどうすればいい?タークスのフリでもしてレノたちに混ざればいいのか?」

脱線していた話をヴィンセントが軌道修正する。
内心「よくやったと」褒め称えつつリーブは作戦を説明した。

「いえ、ヴィンセントとユフィさんには第三者を装ってもらいます。
 プレジデント=神羅の息子にして現在のお気に入りであるらしいにも関わらずルーファウスを警戒していて、中々本性を見せないようなんです。
 そこでヴィンセントには架空の会社の社長になってもらい、別の角度から彼女の粗を炙り出してもらいます。
 ユフィさんはヴィンセントさんの秘書の役を装いつつ、ケースバイケースでホテルの人間に成りすまして彼女の周りや部屋を探って下さい」
「でも秘書って常に社長の傍にいるから離れてホテルの従業員に成りすますの難しくない?」
「言い忘れてたけどなぁ、忍者娘。イリーナは自分より若くてキレーな女だからという理由で陰湿な嫌がらせをされたんだぞ、と」
「それただの僻みじゃん!」
「でもこの僻みを利用すればお前とヴィンセントが引き離された時にお前は自由行動が出来るぞ、と」
「だが、私が社長に扮した所で御眼鏡に適うかは難しいんじゃないか?」
「アンタのその顔や外見はあの女の好みドンピシャだぞ、と」

ヴィンセントはみるみるうちに眉間に皺を寄せて不快感を顕にした。
言葉でしか聞いていないとはいえ、大体想像出来る相手に好みがドンピシャなんて言われても嬉しくはないのだろう。
それにヴィンセントにはユフィという大切な恋人がいる。
ユフィ以外の女性に好みだと言われても別に嬉しくはないしどうでもいい。
それよりもユフィに嫉妬して危害を加えようとするのはいただけない。
なるべく被害が及ばないように気を配らねば。

「くれぐれも宜しくお願いします。健闘を祈ってますよ」


※※※※
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