企画!

□高級ホテルにて 中編
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「お待たせ致しました!」

秘書・エイプリルになったユフィは小走りでヴィンセントたちに駆け寄る。
イリーナへの情報共有は清掃員から秘書に着替えてる途中に済ませた。
情報を貰ったイリーナは厳しい顔付きで頷くとレノたちにも知らせておくと言った。
そしてカードリーダーについて「一体何をしているのかしらね」と含みのある言葉を漏らした。
きっとイリーナが考えているものはユフィと同じだろう。
WROとしては見逃せず、ルーファウスにとっても都合の悪い闇。
プレジデント=神羅は本当に厄介な遺産を残してくれたものである。
これらをなんとかしてヴィンセントにも共有したいがアルミラが邪魔だ。

「遅いわよ、秘書の分際で人を待たせるなんてどういう神経してるの!?」

ヴィンセントの腕にピッタリくっつきながらアルミラが怒鳴る。
ユフィのリミットゲージがぐんと上がった。

「申し訳ございません!急な対応が入ってしまいまして・・・」
「何かあったのか?」
「はい、会社にいるハレクさんからでして。でも、何とか解決しましたので問題はありません」
「そうか、ならいい」
「甘いわよアルウィンさん!こんな小娘にはもっとキツく―――」
「アルミラ様、失礼ですがその辺で。早速中へ入りましょう」

未だ喚こうとするアルミラをツォンが横から口を挟んで止める。
その有無を言わさぬ口調と眼光にアルミラはまだ何か言いたげだったが渋々と従った。

(ナイスツォン!)

上手いことアルミラを黙らせたツォンをユフィは心の中で褒める。
これ以上耳障りなキンキン声を聞かされていたら我慢出来なくて殴っていた所だ。
ユフィは心の中であっかんべーをしながらツォンの誘導の元、予約していたレストランへと入って行く。
そうして案内されたレストランの奥から中年の男性が現れて恭しくお辞儀をしながら五人を迎えた。

「いらっしゃいませ」
「社長方を席へ案内しろ」
「かしこまりました」
「ねぇ、窓から海の景色は見える?」
「勿論でございます」

アルミラの質問に男性は淀みなく答える。
一見すればなんて事のない質問だがユフィたちには別の意味に聞こえた。
アルミラはプレジデント=神羅とは古い付き合いで、このホテルにも昔から宿泊をしている。
なのに今更何故「窓から海の景色は見える?」などという質問をするのか。
嫌な予感がしつつウェイターについて行くと―――

「こちらのお席になります」

四人席に案内された。
そう、四人席に、だ。
四人席に対してユフィたちは五人。
必然的に一人溢れており、また必然的にユフィが除け者にされるのが見えた。

「おい」

低い声でツォンがウェイターを呼び止める。
反応したウェイターだったが、ツォンの威圧のこもった鋭い眼光に怯んだ。

「は、はい・・・!」
「どういうつもりだ」
「あぁ、いや・・・」
「私は五人分の席を予約した筈だ。何故四人席に案内する?」
「も、申し訳ございません!ですが確かに四人席のご予約だったと記憶しております」

冷や汗をかき、視線を彷徨わせながらウェイターは言い訳を述べるがその口調はどこか慣れたもののように聞こえる。
きっと、この男はこの嘘を言い慣れている。
恐らくアルミラから金でも貰って毎度のようにこうしてアルミラの気に入らない女を外す為の席案内でもしているのだろう。
しかしそれをルーファウス、ましてや神羅の社長相手にやらかすとはなんと命知らずな事か。
加えて予約したのがツォンだなんて尚更良い度胸をしている。
逆に言えばアルミラの支配度がルーファウスを上回っているという訳だが・・・。

「もういい、支配人を呼べ」

ルーファウスの氷を思わせる冷たい瞳に射抜かれ、ウェイターの男はたじたじになると慌てて支配人を呼びに行った。
しばらくの間の後、ウェイターが二人の男を連れて再び現れた。

「お呼びでございますか、ルーファウス様」

ウェイターの男を下がらせて一歩前に出たのはホテルの支配人・ガイラ=ジェダ。
背が高く、茶色の髭を上品にたくわえた優しそうな男で、状況を聞き及んでいるだろうに穏やかな表情でいる。
その後ろにはオールバックの如何にも美青年といった風の落ち着き払った若い男が静かに控えていた。
名前はバルダ=ゴンルス。
支配人補佐で、雰囲気はどこかツォンに似ている。
ちなみにヴィンセントとユフィはホテルに来た時にルーファウスの取引相手という事で手厚く部屋まで案内されたので面識がある。

「今すぐ五人分座れる席に案内しろ。客人を待たせている」
「申し訳ございません、他の席は既に別のお客様がご予約されておりまして空いている席はそちらの四人席しかございません」
「ほう」

ルーファウスの冷たい視線にしかしガイラは動じず、涼しげな笑顔を浮かべていた。
この男、完全にルーファウスを舐めきっている。
親の七光りだけが取り柄のバカ息子くらいにしか思っていないのが空気から感じ取られる。
加えて―――

「お座りになられなかったお客様に関してはこちらの方で責任を持って別のお食事処にご案内致します故、どうかご容赦いただけないでしょうか」

話終わるか終わらないかのタイミングでチラリとアルミラに視線を送ったのが分かった。
間違いない、この男はアルミラとグルだ。
ただの面食い性悪女と思っていたがまさか支配人とグルになる程に手を回していたとは。
しかし支配人とグルだと色々話が違って来る。
ルーファウスが長らく手をつけられないでいたこのホテルはきっとアルミラとガイラによって二人に都合の良いように作り変えられているに違いない。
それこそ麻薬の取引やそれに準ずるものをやりやすく出来るように。

ユフィたちがそんな事を考えている中、アルミラが愉快そうに目を細めながら口を開いた。

「あら残念ねぇ、折角楽しくお喋り出来ると思ったのに。ねぇ、秘書さん?」
「え、えぇ・・・」

(嘘つけ!)

白々しい嘘に不機嫌な顔をしてやりたかったがここは我慢だ。
アルミラのボロはヴィンセントたちに任せて自分は別行動を取ろう。
少しでもアルミラとこのホテルの秘密を暴くのだ。

「ふざけるな、この私の顔に泥を塗るつもりか」

ユフィに別行動を取らせるチャンスをルーファウスも潰したくはないが、演技をしておかなければ怪しまれる。
だから態と食い下がるような言葉を言い放った。

「申し訳ございません。ですが今すぐに他の席をご用意するのは困難でして」
「他の客をどかせばいいだろう。私よりも大切な客がいるとでもいうのか?」
「そうではございませんが何分このホテルにも多大な出資をしていただいているお得意様でありまして―――」
「あ、あの!」

ここでユフィが声を上げた事によって視線がユフィに集中する。
ユフィは困ったような笑顔を浮かべながら別行動を取る為の演技を始めた。

「私の事でしたら気にしないで下さい。昼食でしたら他で摂りますので」
「ほらぁ、秘書さんもこう言ってるんだしこの辺にしましょう?これ以上ルーファウス社長のお顔に泥を塗るのは良くないわ」

((((お前の所為たよ))))

四人の心が一つになった瞬間であった。

「それでは僭越ながら別のお食事処へとご案内させていただきます。ルーファウス様たちはどうそごゆっくりお楽しみ下さいませ」

恭しく頭を下げるガイラにルーファウスがささやくように一言。

「後で話がある」

圧を含んでいるそれに、けれどガイラは静かに微笑んで流す。
そうしてそのままユフィはガイラとバルダに連れられて他のレストランへと足を運ぶのであった。
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