私立シルヴェール学園
□出し物決め
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総合の時間。
所謂クラスで何かする時間だ。
現在は時期が時期なだけにどのクラスも文化祭の出し物について教室で盛り上がっている。
G組もそのクラスの一つなのだが、彼らは体育館で話し合いをしていた。
「だから!やるならコスプレ喫茶だって!」
「ベタすぎるし絶対、嫌!女子用に、変な衣装用意してるの、知ってるんだからね!」
男子代表ザックスVS女子代表エアリスがバスケットコートのセンターラインを挟んで揉め合う。
本来ならばこういう喧嘩が生じた場合は担任が止めに入る筈だが、当の担任のシャルアはニヤニヤしながら傍観している。
「じゃあ執事&メイド喫茶なら問題ないだろ!?」
「女子のメイドのコスプレには、ガーターベルトも付いて来るって聞きましたけど?」
「な、何で知ってんだよ!?」
「キスティス」
「ええ」
キスティスはポケットから白いレコーダーを取り出すと、再生ボタンを押した。
(※再生台詞のみ先頭に名前が表示されます)
ザックス『第一回!こっそり俺達で文化祭の出し物決めちゃおうぜ会議開催!』
ギップル『つってもコスプレ喫茶でいくんだろ?ダメだった時の代行案は執事&メイド喫茶だし』
ティーダ『メイド服をどんな風のにするか話し合うンスよね』
クラウド『議題名と内容が合ってねぇ!!』
ザックス『こまけー事は気にすんなって!んで、どんなのにする?ミニスカ?ロンスカ?』
レノ『ロンスカだろJK』
ヴィンセント『・・・女子高生?』
アーヴァイン『違うよ〜。JKってのは“常考”って意味だよ〜』
ジタン『古風な感じのメイドでいくか』
ゼル『お、いいなそれ。フリフリすぎんのも逆に萎えるしな』
ギップル『でもメイド用のカチューシャは絶対な。アレだけは譲れない』
レノ『ガーターベルトも忘れんなよ、と』
ザックス『ガーター着けさせてもロンスカなんだからわかんねーだろ?』
ギップル『判ってねーなーザク公』
レノ『見えねーオシャレと同じで見えねーエロスだ。
想像してみろ、古めかしいロンスカのメイド服の下に潜むガーターベルト。
おしとやかに見えて実は破廉恥な一面を隠しているそれにロマンを感じねーか、と』
ザックス『深い・・・!』
ジタン『お前やっぱ最高だな』
レノ『だろ?、と』
ティーダ『でもどうやって着けさせるンスか?』
ルード『さりげなく紛れ込ませておくんだ。エプロンと服の間に入れるとかな』
レノ『そんで後は雰囲気で押す、と』
ティーダ『なーるほど!』
ザックス『んじゃ、後はどう交渉してもっていくかだな』
バラライ『切り出しとしては―――』
スコール『・・・』
クラウド『どうした?』
スコール『・・・何か違和感が・・・』
ここでカチッと停止ボタンが押される音が鳴り、録音音声の再生は終わった。
女子の目が怪しく光、男子の間にやや気まずい沈黙が走る。
「これは、何かなー?」
「・・・」
笑顔じゃない笑顔で尋ねるエアリスに対して冷や汗をかきながら目を逸らすザックス。
「とりあえず、コスプレ喫茶も執事&メイド喫茶もなし、ね」
「じゃあ他にいい案は?」
「それは・・・」
「金稼ぐんだったら飲食店とかの方がいいと思うぞ」
「却下。妥協させようとしても、ダメ」
「なら、ドッチボールで勝負するのはどうだ?それで勝った方の提案を受け入れる」
「いいわよ、受けて立つわ」
勝手に勝負を受けたエアリスにティファとユウナが駆け寄って耳打ちをする。
「大丈夫なの?エアリス?」
「相手は男子だよ?」
「大丈夫大丈夫!そう簡単に、当てて来たりしないわよ。それより早くゲームを始めましょう」
「シャルア先生、審判お願いしゃーす!」
「いいだろう」
ザックスがシャルアに審判をお願いしてドッチボールは開始された。
何だかんだ言って少しは手加減してくれる筈だと踏んでいたエアリスだったが、結果はそんな事はなかった。
「きゃっ!」
「あっ!」
「わっ!?」
男子はバンバン当ててきた。
それもガチで。
女子内野は既にリノアとエアリスの二人しかいない。
「どうしようエアリス!もう私たち二人だけになっちゃったよ!」
「困ったわね。まさか、ここまで本気でやってくるなんて・・・」
「やい男子!どんだけコスプレ喫茶やりたいんだよ!?」
「そーやそーや!どんだけ執念燃やしてんねん!」
「ていうか本当にコスプレ喫茶やりたいの〜!?」
ユフィ・セルフィ・リュックの三人娘が声を荒らげる。
だが、男子全員は誰一人として目を合わせようとしない。
が、ポツリポツリと野望の声が漏れてくる。
「・・・ティファのチャイナ服姿見たいから」
「・・・リノアの『ふしぎの国のアリス』の衣装姿が見たい」
「・・・ガーネットのバニーガール姿見てーんだもん」
「・・・ユウナの魔女のコスプレ見たいじゃないスか」
「今本音言ったな!!?」
「ていうかさりげなくコスプレ内容指定してるってどういう事や!」
「勝ったチームの言う事は聞くもんだろ、と」
「ずるっ!男子ずるっ!」
「最悪や!」
「信じらんない!」
「でしたら、私たちもずるをしましょう」
叫ぶ三人娘とは対照的に比較的落ち着いた声が響く。
その声の主はシャルアの最愛の妹のシェルクであった。
シェルクの両隣にはキスティスとエーコの新聞部メンバーもいる。
意図が読めずユフィが聞き返した。
「ずるって?」
「今から出す提案の中で説明します」
「さっき他の人達とも相談した事なんだよ!」
「私達女子勢は出し物として『売り子』を提案するわ」
「『売り子』?」
ザックスや男子たちが首を傾げる。
キスティスが続ける。
「ブリッツや野球の試合場の観客席でよく飲料とか売ってるでしょ?あれをやるのよ。
あれと似たような感じで手作りのお菓子や物を売るのよ」
「勿論、二人一組の男女ペアで」
「もれなく軽いデート気分が味わえるよ〜!」
男女ペア、デート気分。
そのワードを聞いて男子勢の空気が一気に変わった。
判りやすい男たちである。
ボールを持っていたアーヴァインの手からボールが落ち、転がってきたそれをエアリスが迷いなくアーヴァインに向けて投げる。
「アーヴァインアウト!」
「アーヴァイン!」
「ごめ〜ん」
ザックスが咎めるとアーヴァインは謝罪をしながら素早くボールをスコールに投げて外野へと抜けた。
「お前ら、耳を貸すな!好みの衣装を着させるんだろ!?」
「カッコイイようでそうじゃないぞ、ザックス」
クラウドが静かにツッコむがそんなものは綺麗に流す。
気を取り直してリノアのアリス姿を想像しながらスコールがボールを投げようとすると―――
「いいわね、売り子。楽しそう!」
「ね〜!スコール、私達が売る分が売り切れたらお祝いのハグハグしようね!」
売り子する事を前提にご褒美の話しをするリノアだが、それはスコールには効果てきめんだった。
その証拠にスコールは気合を入れてボールを床に叩きつける。
ボールは跳ね返り、ユウナの足元に転がってくると、ユウナはそれをスコールに当てた。
「スコールアウト!」
「ちょっ、スコール!!」
「悪いな」
しかし悪びれた様子も見せずにスコールは言うのであった。
このままではマズイと感じたザックスは皆に自分たちの野望の事を煽ろうとするが、シェルクの言葉がそれを遮る。
「私達女子勢が勝利した場合、文化祭当日に無料で記念撮影が出来ます。例えばツーショットとか」
途端に男子たちが一斉に腕を組んで仁王立ちを始めた。
しかしそこに戦う意思は見えない。
どちらかといと、いつでもボールの一撃を受けるという姿勢である。
「アイツらは本当に正直者だな」
「つーかただのバカだろ」
「それが男の性ってもんよ」
「ああはなりたくない」
壁に寄りかかって傍観しているルーファウス・サイファー・雷神・ツォンが呟く。
彼らは今回の勝負事のあまりのアホらしさに勝負から抜けていた。