私立シルヴェール学園

□文化祭
1ページ/5ページ

「コーヒー」
「ここ保健室なんですけど」

当然といった顔でマグカップをドンッと置くセフィロス教頭にエルオーネは冷ややかに返した。
現在二人がいる場所は保健室で、二人以外には誰もいない。
そしてセフィロス教頭は堂々とエルオーネの仕事机の半分を侵略して書類を片付けている。

「チッ、自分で淹れる」
「露骨な舌打ちしないで最初からそうして下さい。大体、教頭先生は匿われてる身なんですよ?」

セフィロス教頭は誰もが見惚れる美貌の持ち主で特に女性には大人気の男である。
女子生徒のファンがいるのは勿論の事、外部の女性からの人気もかなり高い。
従って今回のような外部の人間も出入りできる文化祭ではセフィロス教頭目当てに教頭室に訪れる女性は少なくない。
それが鬱陶しくてセフィロス教頭は保健室に逃げ込んで来たのだ。

「部下が上司を庇うのは当然だ」
「清々しい程に大きい態度に逆に土下座したくなりますよ」
「褒めても何も出ないぞ」
「褒めてな―――ってそれ私のアルフォ○ト!」

冷蔵庫から迷いなくアルフォ○トを取り出したセフィロス教頭は封を開けて食べ始めた。
褒めて何か出るどころか持って行かれている。

「返して下さい私のおやつ!何で場所知ってるんですか!?」
「お前の考えそうな事などすぐに判る」

鼻で笑ってセフィロス教頭はサクサクとアルフォ○トを貪る。
エルオーネはアルフォ○トを奪還しようと奮闘するが軽々と避けられてしまう。
しかし、次に掴みかかろうとした時に急にセフィロス教頭がアルフォ○トを差し出してきた。

「え・・・?」
「いらないのか?」
「い、いえ!食べます!」

差し出された方をパクっと口に含むとセフィロス教頭は静かにアルフォ○トを離した。
エルオーネはアルフォ○トをサクサクと食べるとそれはそれは幸せそうな表情を浮かべた。
その表情からは『アルフォ○ト美味しい』が全面的に押し出されていた。

「やっぱりアルフォ○トは美味しいですね〜」
「喜べ、それが最後の一枚だ」
「やった!最後の一ま・・・い・・・」

最後の一枚とは即ち、残りは全てセフィロス教頭に食べられたという事だ。
その事実を悟ったエルオーネは唇を戦慄かせて悲しみに瞳を潤ませた。

「ひ、酷い・・・!私のアルフォ○トを・・・!!」
「更に絶望を送ってやろうか?」

残酷なまでに微笑んで壮絶な色香を放ちながらセフィロス教頭は再び冷蔵庫に手をかけた。
その行動が何を意味するのかを察したエルオーネは慌てて冷蔵庫の把手を掴むセフィロス教頭の手にしがみついた。

「やめて下さい!私のマーブルチョコレ○トやマンナンラ○フに罪はありません!!」
「お前自身には罪がありすぎるな。ちなみにマンナンラ○フの味は?」
「葡萄とオレンジです」
「ほう、分かっているな」
「でしょう?本当はリンゴも欲しかったんですけどなかったんです」
「勿論、冷凍庫に入れてあるな?」
「ご心配なく!一つ食べます?」
「オレンジを二つ寄越せ」
「嫌です。葡萄とオレンジ1つずつで我慢して下さい」

強く断ってエルオーネが冷凍庫の扉を開けると、セフィロス教頭の手が素早くオレンジめがけて伸ばされる。
しかし反射的にエルオーネがその手を掴み、ついでに空いてる方の手でセフィロス教頭の空いてる手を掴んだ。
これで封じれたと思いきやそこはセフィロス教頭な訳で、逆にエルオーネの手を掴み返して形勢逆転を果たした。
更にエルオーネの手を片手でガッチリ一つに纏めて封じ、空いた片手でマンナンラ○フのオレンジに手を伸ばす。

しかし、そこで視線を感じたセフィロス教頭はすぐに入り口の方を振り返った。

「あ、私の事は気にせずに続きを」
「黙れ変態」

セフィロス教頭が鋭い目つきで睨みつけるも鮮やかにスルーするその人はブラスカ校長。
この学校の校長な訳だが、そんな人が今、ビデオカメラ片手に保健室のドアの隙間から撮影していたのだ。

「『文化祭の思い出撮影中』という看板を置いてるので問題はありません」
「果たして何人が信じるだろうな?」
「それはさておき、貴方たちは本日の文化祭を見学したいですか?」
「嫌だ」
「行きたいです!」
「では、ここは私が受け持ちますのでエルオーネ先生はセフィロス教頭と楽しんで来て下さい」
「いいんですか?」
「ええ、楽しんで来なさい」
「私の話を聞いていなかったのか?」
「少しくらいハメを外しても罰は当たりませんよ」
「そういう事を言っているんじゃない」
「では、校長の命令という事で」
「職権乱用だな」
「貴方がそれを言いますか。半ば強引に教頭室を作らせた貴方が」
「じゃあ、私たち行って来ますので少しの間だけお願いします」
「ええ、行ってらっしゃい」

こうしてセフィロス教頭の意見を聞かないままエルオーネはセフィロス教頭を引っ張って校内を歩き回り始めた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ