私立シルヴェール学園

□気になること
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「そういえば、ユフィが今度の土曜日にデートするみたいだよ〜」

昼休みの屋上でサンドイッチを食べていたヴィンセントにアーヴァインが衝撃の事実を告げた。
それにより、ヴィンセントの思考は一瞬で停止して意味を理解するという事をやめた。

「え?誰と?」

おにぎりを食べていたビビが機能停止したヴィンセントの代わりに尋ねる。

「エリート高校のエリート中のエリート男子らしいよ。それも女子に人気の」
「お見合いとかそういうのじゃなくて?」

ユフィは伝統あるキサラギ家の一人娘で、正統なる跡取りでもある。
そんなユフィだからお見合いといった浮いた話しが持ち上がってもなんら不思議ではないのだが、今回は・・・

「違うみたいだよ〜。なんでも親しい間柄みたい」
「・・・」
「それで?ヴィンセントはどうするの〜?」
「・・・どうすると言われても・・・」
「僕、今度の土曜日暇だよ〜」
「僕も空いてるよ」

意味有り気に笑いかけるアーヴァインとビビ。
しばしの沈黙の後、機能を再開させたヴィンセントは決断を下した。













そして運命の土曜日。
三人はユフィの親友のセルフィとリュックの情報を元に、変装をして待ち合わせ場所に張りこんだ。
ヴィンセントとアーヴァインはメガネをかけ、ビビはいつもと違う帽子を被っている。
正直、ビビの変装はこれで大丈夫なのかと心配になるが、その変装をしようとしたビビを信じる事にした。

「あ、来たみたいだよ〜」

その言葉に反応してヴィンセントは素早く静かに角から様子を伺った。
珍しくオシャレをしているユフィが一人でスマフォを弄って暇潰しをしている。
そんなユフィと接触したいのはやまやまだが、今はじっと我慢する。
すると―――

「お待たせ、ユフィ」

デートの相手がやって来た。
金髪でやや幼さが残るものの、綺麗に整った顔立ちはまさに美少年と呼んでいいだろう。
確かにこれは女子が黙っていない。

「うわ〜、中々の美少年だね〜」
「あれがエリート高校のエリート中のエリートの男の子かぁ」
「エースっていう名前なんだって〜」

エース。
ヴィンセントはその名前を心に深く刻みこんでエースたる少年をじっくり観察した。
身長はユフィより少し高めで、見た感じは温和で人当たりの良さそうな好青年である。
エリートのエリートと聞いた為に気取ったような男を想像していたが、そういった雰囲気は全くない。
しかしまだ油断は出来ない。人は見かけによらないというものがある。

「おっそ〜い!遅刻は減点だぞ!」
「ごめん、兄妹たちを誤魔化すのにちょっと手間取ったんだ」
「前日に何とかするもんじゃない?」
「まさかの当日に冷やかして来たんだ。まさかああ来るとは思わなかったよ」
「随分手の込んだ事するね、アンタの兄妹」
「本当に。それより行こうか」
「うん」

苦笑いを浮かべた後、美少年―――エースはユフィを連れ添って街への道を歩き出した。

「なんていうか・・・仲いいね〜」
「人は見かけによらないと思っていたがそうでもなかったな」
「追いかける?」
「勿論だ」

伊達メガネをかけ直すと三人はユフィたちと一定の距離を保ちつつ尾行を開始した。

















前を歩く二人は楽しそうにお喋りをしていて恋人同士のように見えなくもない。
けれどそれを見つめるヴィンセントの表情は複雑だ。

「・・・」
「まだ付き合ってるって決まった訳じゃないんだから悲観しなくてもいいと思うよ〜」

ヴィンセントの心境を察したアーヴァインがフォローを入れる。
親友のフォローは嬉しいのだが、今はあまり素直に受け取れない。

「・・・だが、ユフィにはああいうタイプがいいのかもしれない」
「そうかな〜?ビビはどう思う?」
「う〜ん、確かにいいのかもしれないけどどっちかって言うと友達止まりで終そうかな」
「ホラ、ビビもこう言ってるんだし、もう少し気を楽に持とうよ」
「そう、だな・・・」

ヴィンセントは力なく小さく笑ってみせた。
いつもの静かな頼もしさは鳴りを潜めているが、こんな時こそ親友が支えねばならない。
頑張ってフォローを入れていこうと心に決めるアーヴァインとビビだった。
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