書斎U

□大好きな手
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なんとなしにガントレットを外して左手を眺める。
歪な左手。
罪の証の一つである左手。

「・・・やはり早いな」

あまり長くはないが鋭い爪を見て小さく呟く。
つい先日、試しに切ったばかりなのにもう伸びていた。
これも再生能力が早い故か、はたまた改造された時に何かされた影響なのか。
どちらにせよ煩わしい事この上ない。

「何してんの?」

部屋のドアを開けてユフィが入ってきた。
ユフィはヴィンセントの左手に驚きもせずに自然な流れでベッドに乗る。
まぁ、三年も仲間をしているのだから今更驚くも何もないが。

「どしたの?左手が疼く的な?これから生徒を守る為に妖怪退治に行く?」
「・・・何の話しだ?」
「そーいう漫画があるんだよ。訳あって左手が鬼の手で、その鬼の力を使って生徒たちを守るっていう話し」
「生憎、そんな大それたものじゃない。ただ何となく見ていただけだ」
「ふーん」

適当に返事をしながらユフィはヴィンセントの左手を掴む。
何の躊躇いも無しに掴んでくるそれは紛れもなく正常な人間の手。
更には女性の手でもあり、少し力を入れれば折れるのではないかと思えるほどに細い。
そんな手が自分の手に触れているのを見て、穢れてしまうのではないかと心配する。

「まーた暗い事考えてんでしょ?」
「何故?」
「眉間に皺寄ってるよ。痕になってもしらないかんな〜」

言いながらユフィはヴィンセントの左手を自分の頬に当てて微笑む。
そんな姿に心を和ませながら頬を撫でてやると、ユフィは嬉しそうに頬ずりをしてきた。
まるで猫のようだ。

「気味悪くないのか?」
「え?」
「左手だ」
「全然。つか今更じゃん」
「改めて考えてみてもか?」
「うん。慣れてるし大好きだから関係ないよ」
「大好き?」
「そ。強いし頼りになるし優しいからね」

まさかそこまで好意的に評価されているとは思わなかった。
ユフィはこういう事に関しては嘘を言わない子だ。
だから信じていいのだろうが・・・つまりは自惚れてもいいのだろうか?
もしもそれが許されるのならもっと自惚れたい。

「・・・好きなのは左手だけか?」
「うっ・・・」

尋ねられたユフィは恨めしそうな目でヴィンセントを見た。
しかし、ヴィンセントは目で答えの催促をする。

「・・・大好きだよ・・・ヴィンセント自身も・・・//」
「そうか」

嬉しさで口元が緩む。
右手でユフィを抱き寄せ、左手で細心の注意を払いながら頭を撫でる。
されるがままのユフィは満足そうだ。

「・・・ありがとう、ユフィ」
「え?」
「いや」

罪の証を持つ自分を罪ごと愛してくれるユフィにヴィンセントはこの上なく感謝していた。













END






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