書斎U

□二人並んで
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ウータイの夕方は暗く、既に何軒かの家々が街頭の明かりを灯している。
ユフィの家もその一つなのだが、その明かりの下でヴィンセントが腕を組んで壁に寄りかかっていた。
紺色の浴衣と下駄を着用している彼は男でありながらとても優雅に見える。
ヴィンセントの前を歩いて行く人の何人かが振り返って見る程だが、本人は全く気に留めていない。
さて、とりとめのない事をフワッと考えていると―――

「おっまたせー♪」

待ちわびていた声が扉が開くのと同時に聞こえてきた。
振り返れば、朝顔の花の模様がプリントされている蒼の浴衣を着たユフィが巾着袋を片手にご機嫌な笑みを浮かべていた。

「えへへ、どーよ?」
「良く似合っている」
「だろだろ?もうアタシにメロメロだろ〜?」
「早く行かないと祭りが終わるぞ」
「おいコラ!無視すんな!」

怒るユフィを適当に宥めながら二人並んで祭りをしている通りへと向かう。
今夜、ウータイでは夏祭りなのだ。












祭りの提灯や屋台の電球などが光を放ち、太鼓や笛などの大きな音が祭りの通り道を賑わせる。
屋台から漂う香ばしい匂いや、クジや金魚すくいなどといったものが行き交う人々を引き寄せていく。

「これも夏の醍醐味だよね〜」
「ウータイでは毎年こうなのか?」
「そーだよ。アタシからしてみれば他でやってないのが不思議」

言いながらユフィは近くの金魚すくいの屋台に足を運び、腰をかがめる。

「おっちゃん、一回やらせて」
「あいよ!一回200ギルね」

ユフィ財布から200ギル取り出すと、金魚すくい用の網と交換した。
ステンレスの器を片手に浴衣の袖を捲り上げるユフィの隣にヴィンセントが腰をかがめる。

「その網ですくうのか?」
「そーだよ。でも、この網ってすぐ破れちゃうから慎重にやんなきゃいけないってわけ」
「出来るのか?」
「あ、何さ!その小馬鹿にしたような笑いは!アタシ三匹取った事あるんだからな!!」
「ほう?ならばお手並み拝見といくか」
「ふーんだ、見てろよ〜!」


結果その1


「あいよ、残念だったね」
「・・・どーも・・・」

慎重にやったものの、網は敗れて金魚は一匹もすくえなかった。

「三匹取った事があるんじゃなかったのか?」
「うっさいな!たまたま今日は調子が悪かったんだよ!!」
「調子がな・・・」
「ムッキー!!」
「どれ、私も一回だけやってみるとしよう。大体要領は掴めた。一回頼む」
「あいよ!頑張んな、兄ちゃん!」


結果その2


「あいよ。もっかいやるか?」
「・・・いや、いい・・・」

盛大に網を破って一匹もすくえなかった。

「要領掴めたんじゃないの?」
「・・・あそこまで網が脆かったのは計算外だ」
「計算外ねぇ・・・」
「うるさい・・・」
「でもまぁ、丁度いんじゃない?金魚鉢に二匹仲良く住まわせればさ。一匹だと悲しいし」
「そうだな」

袋の中に入っている水の中で悠々と泳ぐ金魚を片手に持ち、二人は次の屋台に向かった。
並んで歩く二人の距離は自然と近く、歩幅も一緒だ。
さて、そんな二人が次に寄った屋台は射的屋であった。

「あ、あのモノクロの熊の人形可愛い」
「やるのか?」
「もっちろん!おっちゃん、一回ね」
「あいよ!300ギルね」

300ギルを渡してコルクが七個乗った皿を受け取るユフィ。
銃にコルクを詰めて片目を閉じて構えると、ヴィンセントがそれを止めた。

「待て、片目は閉じるな。しっかり両目を開けて狙いを定めろ。そして持ち方はこうだ」
「こう?」
「いや、もう少しこうしてだな」

手取り足取り教えるヴィンセントと言われた通りにするユフィ。
しかし、周りからは単にイチャついているだけにしか見られていないのを二人は気づいていない。
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