書斎U

□ウータイの正月
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1月の始め、正月をヴィンセントはユフィの故郷・ウータイで過ごしていた。
勿論ユフィも一緒である。
面倒な仕事がやっと片付いて一段落ついた年末、ユフィが一緒にウータイに行かないかと誘ってきたのだ。
特に断る理由もないし、正月に食べる『おせち料理』というものに釣られてヴィンセントは一緒に行く事にした。


ヴィンセントのウータイでの正月は思った以上にまったりしており、ゆっくりしていられた。
こんなに寛いだ気持ちでいられるのは何年ぶりだろうか。
この間のDGS事件で過去に決着を付けたとはいえ、その後の事後処理に追われて寛ぐ暇などなかったように思える。
そして、このように寛げるのもユフィが色々気を遣ってくれたお陰だ。
気持ちのいい温泉やご飯の美味しい所に連れて行ってくれたり、美味しい酒も飲ませてくれた。

(感謝しなくてはな)

火鉢の前でそんな事をぼんやりと考えていると、襖が開いてユフィが現れた。

「あ、いた」
「どうした?」
「餅食べる?」
「ああ」
「きなこと醤油どっちにする?」
「醤油で」
「あいよー」

ユフィは襖を閉めて餅を取りに行った。
さっぱりした風味の醤油をヴィンセントは気に入っている。
勿論、磯辺巻きもお気に入りだが、今日は海苔を使う気分ではない。
しばらくすると、「ちょっと開けて―」というユフィの声が襖越しに聞こえた。
襖を開けると、醤油のついた餅が乗った皿ときなこが付いた餅が乗った皿を持ってるユフィがいた。
更に、皿の上には割り箸も置いてある。

「はい、ヴィンセントの」
「ああ、悪いな」

ヴィンセントは醤油が付いた方の餅が乗った皿を受け取ると、ユフィと共に火鉢の前に座って食べ始めた。

「火鉢気に入った?」
「ああ。温かいし、なぜだか和む」
「やっぱ?アタシもおんなじ」

言いいながらユフィはびよーんと餅を伸ばす。
それを見てヴィンセントも餅を伸ばすと、ユフィが笑い、つられてヴィンセントも笑った。
ウータイの餅はよく伸びる上に美味い。
その為、ユフィもヴィンセントも餅はウータイ産の餅以外は認めない姿勢でいたりする。

「そういえば、ゴドー殿は?」
「挨拶回り。んで、その後は新年会」
「お前は行かなくていいのか?」
「堅苦しいものじゃないから別にいいんだよ。それに新年会つってもただの飲み会だし」
「そうか」
「それよりさ」

ユフィは片手をヴィンセントの前に差し出す。
が、ヴィンセントは首を傾げた。

「この手は何だ?」
「お年玉」

そういえば、ウータイには子どもにお年玉という名のお小遣いのようなものをあげる風習があった。
つまり、ユフィはそれを要求しているのだろう。

「・・・子どもにやるものだと聞いたが?」
「いつも子ども扱いしてんだからいーでしょ?」
「こんな時ばかりそれを利用するな」
「させてもらいます〜」
「はぁ・・・全く」

言いながらヴィンセントは懐からマテリアを取り出してユフィの手の上に落とした。

「・・・何これ?こんな定番の寒いギャグはいらないんだけど」
「マスターマテリアなのだが・・・お気に召さなかったか」
「さっすがヴィンセント!ありがとね〜!」

ユフィは途端に上機嫌になって素早くマテリアを懐にしまった。
こういう事は本当に早い。
相変わらずだと苦笑し、また餅を伸ばす。
その時、ふとユフィの口元に付いているきなこが目に入った。
それを見るなり、一瞬にしてヴィンセントの中に悪戯心が生まれた。
小さく口の端を歪ませると箸を皿の上に乗せて指を伸ばす。

「・・・ユフィ、きなこが付いてるぞ」
「え?ホント?」

確かめようとするユフィよりも早く口の端のきなこを拭い取ってペロリと舐める。
すると、その一連の動作を見ていたユフィの顔がみるみる内に赤くなっていった。
面白くなったヴィンセントは、固まるユフィにもう一度手を伸ばしてきなこを拭う振りをする。

「も、もういいよ!自分でするよ!」
「遠慮しなくていい」
「す、するに決まってんだろ!?餅もう食べないなら皿持ってくから!!」

ユフィは捲し立てると、さっさとヴィンセントの皿を回収して自分の皿ごと片付けに行った。
部屋に残されたヴィンセントは少しの間を置いた後、クスリと小さく笑った。

「今年もこんな調子だろうな」

取り留めもない事を考えながらヴィンセントは再び火鉢で暖を取るのであった。











END
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