書斎U

□攻防
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私は今、ベッドの上でベッドヘッドにもたれかかっているいる。
けれど本を読んでいる訳ではない。
ましてやWROの仕事の資料に目を通している訳ではない。
もっというなら、私は今、一人でいる訳ではない。

「・・・」
「・・・」

察しの通り、私はユフィといる。
・・・ユフィは私の背中に手を回して抱きついており、私は左手をユフィの背中に、右手はユフィの頭を撫でているが。
オマケに私の足はユフィの身体を間に入れて迎えている。


状況を説明しよう。
私とユフィは付き合っている。
その手始めとして同じ一つ屋根の下で共に暮らして随分経つ。
しかし、まだやった事と言えばキスくらいだ。
フッ、笑うがいいさ。だが、私はユフィを傷つけないように怖がらせないように慎重に事を運んでいるのだ。

・・・拒絶されたくないんだ。

本当はもっとユフィの唇に触れたい、ユフィを知りたい、隅々まで自分という存在を刻みつけたい。
しかし、衝動のまま気持ちをぶつけてユフィを壊したくない、逃げられたくない。
だから必死に自制してきて少しずつその時までの距離を縮めようとしてきたのに、この娘は・・・

『大好きだよ、ヴィンセント』

そんな愛の言葉を囁いて私に抱きついてきた。
時々するようなスキンシップのハグではなく、愛の抱擁だった。
ややぎこちなかったが、逆にそれがいじらしくてワザとやっているのではないかと勘繰ってしまう。

勿論、これがどういうサインなのかは十分に分かっている。
タークス時代に情報目的で女を抱く時にこういう状況はよくあった。
つまりユフィも私を求めてくれている訳だが・・・果たして今がその時なのだろうか?
もっとちゃんした時にちゃんとした所で・・・。

・・・いや、言い訳はやめよう。
私はまだ心の準備が出来てないのだ。
本当に私などがユフィを抱いていいのか、ユフィの人生を独占していいのか。
怖がる自分を傷つけたくなくてここまで引きずってユフィを待たせて・・・本当に私は身勝手な男だ。
だから今回も上手くかわそうと画策しているのだが、私の右手はユフィの髪を一房耳にかけると、頬に手を当てて上向けている。
どうして身体はこうも正直なのか・・・。

「・・・私も、お前を愛している」

期待の眼差しを向けられて応えない訳にはいかない。
それに、キスくらいなら・・・。

ゆっくり顔を近づけるのと同時にユフィの瞳が閉じられ、そのまま唇に触れる。
そう、触れるだけ。
本当はもっと触れていたいけれど、今は触れるだけ。

「・・・」

物足りないと目で主張するユフィの頭を撫でて諫める。
さて、これからどうやって乗り切ろうか―――

「ね、ディープキスって―――どんなの?」
「・・・試してみるか?」

先手を打たれた・・・。
これは少しマズイ。
だが、ユフィはディープキスは初めてだからこれで流せるかもしれない。
―――それにこれからはキスだけでなくディープキスも出来るようになるしな。

「ん・・・」

期待に目を輝かせていたユフィの瞳が閉じられたのを見計らって再びユフィの唇に自分のそれを重ねる。
重ね合わせた唇が震えていて、加虐心を煽られるが、最初から激しくしては驚かせてしまうので何とか自制する。

不安を和らげるように2回ほど優しく舐めて進入許可を得る。
おずおずと開かれたそこにゆっくりと自分のものを侵入させてユフィの口内を探る。
丁寧に歯列をなぞって頬肉や舌などを舐め取る。
その柔らかさと甘やかさにいつしか私は酔いしれ、知らず知らずの内にユフィをキツく抱きしめていた。
逃げを打つユフィの舌を容赦なく捕らえてねっとりと絡みついて吸い上げる。


癖になる、ユフィはこんなにも甘い。


「ふっ、ぅん!んー!んー!」

ドンドンと胸を叩かれてふと現実に戻る。
見ればユフィは苦しそうに眉根を寄せていて今のキスを楽しむ所ではなかった。
やり過ぎたと反省して解放してやると、「ぷはっ」と息を吐いてぐったりと身体を預けてきた。
呼吸を乱して肩で息をする姿が堪らなく可愛くて、もっと乱れさせてやりたくなる。

「・・・大丈夫か?」
「ん・・・へーき」

なら、と顎に指をかけてついっと私の方へと向かせる。
火照ったように赤く染まっている頬と誘うように濡れた瞳、そして蕩けるような甘い吐息。

意識的なのか、無意識的なのか―――。

どちらにせよ、私の中の“何か”を掻き立てるには十分な威力だった。
本能の赴くままにユフィの唇に吸い付いて、今度は遠慮なく己の舌を侵入させる。
ユフィの方からおずおずと触れてこようとしてきたが、待てずに素早くねっとりと絡みついた。
先程よりも濃厚で激しい口付けを施す事で逃げようとするユフィの後頭部を押さえつける。

キュッ、と服を掴まれる音が耳に滑りこんできた。

「鼻で息を吸え」

唇を合わせたままそれだけ言って深く口付ける。
最初はユフィも戸惑っていたが、段々とコツを掴んだらしく、苦しむ様子はなくなってきた。
代わりに私しか映さない恍惚を帯びた瞳を向けられ、私を釘付けにする。
こんな瞳は今までに見た事がない。

お互いに夢中になって見つめ合い、深く絡み合っていたが、ユフィが私の舌を甘く噛んだのを合図に解放してやった。

「はぁっ・・・はっ・・・!」

ポスッと私の肩口で呼吸を乱すユフィの頭を優しく撫でる。
その時、黒髪に紛れて赤みがかった白く可愛い耳がチラリと見えた。
口の端が歪むのを抑えきれずに、耳を隠す髪を耳にかけて何の予告もなく噛み付いた。

「うひゃんっ!?」

不意を突かれて出た素っ頓狂な声が耳に心地良い。
チロチロと焦らすように耳介を舐め、甘噛みをし、耳たぶを揉むようにして唇で挟む。

「ふぁっ、ぁ・・・や、ひゃ、ん・・・!」

身体を震わせて艶のある声で鳴かれて私の中の”何か”がどんどん壊れていくのが分かる。

もっと聞きたい。
もっと鳴かせたい。
もっとよがらせたい。

そんな欲望が腹の底から渦巻き、私の腕から逃れようとするユフィをベッドに俯せにする。
勿論、休ませるのではない。
味わい、食べつくす為だ。
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