書斎U
□小さな不安もなんのその
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とある夜、ヴィンセントはユフィを抱きしめて寝ていた。
けれど最初に抱きついて来たのはユフィで、寒いからと言って抱きついて来たのだ。
ヴィンセントとしても嫌ではなく、むしろ嬉しいので拒む事なくユフィを腕の中に迎え入れて今に至る。
心地良いユフィの温もりに心から安らぎを覚えるヴィンセントだが、ふとした事が頭に思い浮かんだ。
(もし私がいなくなったとして・・・ユフィは探してくれるのだろうか・・・)
何となく、そんな事が浮かんでこれまでの事を思い返す。
旅が終わった後の頃に関してはユフィもウータイの復興で手一杯だった為、ヴィンセントどころではなかったのだろう。
しかし星痕症候群の事件が終わった後にユフィは勝手にヴィンセントのメアドをゲットして頻繁に電話をかけたりしてきた。
当時は疎ましく思っていた事さえあったが、恐らくは繋がりを持とうとしてくれていたのだろう。
その後のオメガ事件の後に関してもユフィは散々ヴィンセントの事を探し回っていたようである。
あの時はこんな自分を心配して探してくれているユフィの存在にどれほど癒やしを覚えた事だろうか。
(杞憂だな)
自惚れだと言って笑ってくれていい。
それでもこれら全ての事を考えて言うと、きっとユフィは探してくれるだろう。
たとえ地の果てにいようが地下深くの棺桶の中にいようが追いかけて来るに違いない。
そして首根っこを掴まれて光の中へと連れ出して行くのだろう。
そんな光景が容易に浮かんでヴィンセントは小さく吹き出し、そのまま穏やかな微睡みに身を任せる事にした。
が―――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」
ふと、とある用事を思い出して微睡みから一気に目が醒めた。
自分の携帯に手を伸ばして時間を確認する。
「・・・まだ大丈夫だな」
静かに携帯を閉じてベッドから抜け出し、手早く寝間着からレザースーツ&マントに着替える。
暗闇に目が慣れているのですぐにサイドボードの引き出しから財布を取り出す事に成功。
後は携帯をしまえば―――
「・・・どう・・・・・・したの・・・?」
もぞり、とユフィが身動ぎをして、ふにゃりとしたような言葉を発した。
恐らくは夢見心地で寝ぼけているのだろう。
そんなユフィに心和ませながらヴィンセントは傍に寄って優しく頭を撫でてやった。
「・・・大丈夫だ、寝てていい」
「ん・・・・・・」
ユフィは閉じかけていた瞼を完全に閉じ、再び夢の世界へと旅立った。
「さて・・・」
ユフィに布団をかけ直してからヴィンセントは静かに家を出て行った。
「・・・・・・ん、あれ・・・・・・ヴィンセント・・・?」
朝方、隣にいる筈の恋人の姿がなく、ユフィは寝ぼけ眼を擦りながら布団から起きた。
もしかしてと思って静かに気配を探ってみても家の中にいる気配はない。
「あー・・・やっぱどっか行ったのかな」
かなり朧げではあるが、ユフィは夜中に目覚めた事を覚えていた。
とはいってもそれは夢だと思っていたし、何よりヴィンセントが何と言っていたかも覚えていない。
一つ覚えている事と言えば頭を撫でてもらったくらいか。
その時の感触を思い出しつつユフィはベッドから降りて朝食を摂る事にした。
朝ご飯は食パンとベーコンエッグとヨーグルトとコーヒー牛乳。
今日は休日で余裕があるのでついでにりんごを剥く。
「へー、離婚したんだ。やっぱりね〜」
新聞で芸能記事を読みつつパンをかじる。
ユフィの朝の休日模様は大体こんな感じである。
ここにヴィンセントがいれば他愛のない話しをしたり今日の予定をのんびり話し合ったりするのだが、そんな彼は今いない。
けれどこんな事は珍しくもないのでユフィは気ままに朝の時間を過ごしていた。