書斎U
□すいみん
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(参ったな・・・)
ヴィンセントは内心困っていた。
それはつい先刻のこと。
クラウド・ヴィンセント・ユフィの三人で森の中を進んでいる時にモンスターに出くわし、そのモンスターにユフィは眠らされてしまったのだ。
モンスターは大した事はなかったのですぐに倒す事は出来たが、問題はユフィだ。
エスナを使おうにもクラウドとヴィンセントには魔法を使うだけの余力はなく、アイテムは貴重な万能薬しかない。
「・・・どうするんだ?」
「丁度日も暮れてきたし、野宿にするとしよう。ユフィはそのまま寝かせてやればいい」
確かにクラウドの言う通り、空に浮かんでいた太陽は徐々に沈んでいっており、代わりに月や星が空を彩り始めていた。
それに野宿となれば軽く寝床の準備をして夕飯を食べた後はすぐに寝るだけなので、ユフィを起こした所ですぐに寝かせなければならなくなる。
それならばこのまま寝かせておいた方が良いだろうと思い、ヴィンセントもクラウドの意見に賛同した。
「そうするか」
「ここよりもあそこの方が広いからあそこで寝よう。ユフィを運ぶのを頼んでいいか?」
「ああ」
頷いてヴィンセントはユフィをお姫様抱っこする。
が、思っていたよりも軽かったユフィの重さに内心驚いた。
(普段あれだけしっかり食べていてこの重さなのか・・・?)
野宿以外ではユフィはご飯をしっかりと食べている。
この間もティファの作ったカレーが美味しいと絶賛して2回もおかわりをしたくらいだ。
それなのに抱き上げたユフィの重さはなんてことないくらい軽い。
普段の戦闘などにおいてのエネルギーの消費量が激しいのだろうか?
疑問が尽きぬまま野宿にと決めた場所にユフィを下ろそうとした時だった。
「んん・・・」
「・・・」
「どうした?ヴィンセント」
「・・・ユフィが離してくれないんだが」
ユフィの片手がヴィンセントの服をしっかり掴んでおり、一向に離す気配がなかった。
かと言って無理矢理離そうとすれば眉をしかめて呻き、何だか可哀想で離そうにも離せない。
そんな状況にやや困り気味のヴィンセントにクラウドは苦笑しながら言った。
「無理矢理引き剥がすのも可哀想だからそのままにしてやったらどうだ?野宿の準備は俺がするよ」
「いいのか?」
「気にするな」
フッと笑ってクラウドは野宿の準備にとりかかる。
クラウドが本当の自分を取り戻してからというもの、クラウドは色々な感情を見せるようになった。
取り戻す前までは良くも悪くも無愛想で、今ほど感情表現もあまり豊かではなかった。
いつか自分もあんな風に豊かな感情を見せる事が出来るのだろうかと物思いに耽りそうになった時、ユフィが寝る体勢の悪さに呻き声を漏らしたので体勢を整えてやる。
本当は起きているんじゃないだろうかと思った。
その後、ユフィの上に落ちないようにと気をつけながら夕食を取り、寝ずの番を買ってでた所で冒頭に戻る。
(どうするか・・・)
ユフィは未だに自分の服を離してくれない。
何度も手を離そうとを試みたが、変わらず嫌そうに呻いて逆に力を込められてしまう。
クラウドに助けを求めようにも「おやすみ」と言った三秒後には寝息を立て始めたので当てにする事が出来ない。
どうしようもないこの状況にヴィンセントは深く溜息を吐いて開き直る事にした。
不可抗力でこのような事になってしまった訳だし、責められる筋合いはない。
それにユフィを起こさなかったのもユフィを気遣った為と言えば幾分か納得もしてくれるだろう。
若い娘が男に抱きかかえられながら眠るなど、という思考はもう捨てる事にした。
(それにしても・・・)
昼間は騒がしいくらい元気で眩しい少女だが、今では子猫のように静かに体を丸めて眠っている。
そのギャップがなんだかおかしくて同時に可愛らしくも思う。
加えて、焚き火などの暖気とはまた違った人肌特有の温かさが心地良い。
久しぶりの人肌だからか、それともユフィだからか。
どちらにせよ、ほんのりと冷え込む今夜にはピッタリの温度だ。
「っくしゅ!」
不意にユフィが小さくくしゃみをして震えた。
そして温かさを求める猫のようにスリスリとヴィンセントに擦り寄る。
「・・・・・・さむ、い・・・」
「・・・」
バサリとマントでユフィを包み込んでやり、冷気から守ってやる。
しかしユフィはまだぐずる。
「寒いの・・・入ってくる・・・」
隙間に冷気が入り込んで寒いのだろう。
そうなるとマントごと強く抱きしめなければならないのだが、本当にそれでいいのだろうか?
ヴィンセントはやや躊躇いながらもぎゅっとユフィを抱き寄せてみる。
すると、ユフィは満足したようにヴィンセントに擦り寄って再び規則正しい寝息を立てて眠りに就いた。
「・・・はぁ」
思わず呆れにも苦笑にも似た溜息が漏れる。
注文が多くてワガママだが、ユフィらしいと言えばユフィらしい。
何故だか憎めないのが不思議だ。
「今夜は湯たんぽ代わりになってもらうからな」
柔らかく呟いてヴィンセントは満点の星空を見上げるのだった。
END