書斎U

□スタンプカード
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「ホイこれ」

突然ユフィから二つ折りの小さな厚紙を渡された。
表紙と思われる面には『マテリアスタンプ』と書かれており、中を開けば定規で綺麗に線が引かれた、四角の塊があった。
一番右端の列の数字が本当なのであれば四角の数は全部で20個。
これがどういった物なのかを察しつつヴィンセントはユフィに尋ねた。

「・・・これは?」
「スタンプカード」
「何の?」
「アタシにマテリアをあげると押されるスタンプカードだよ。マックスまで貯まったらウータイ式肩叩きをプレゼント!」
「いらんな」
「コラー!速攻で切り捨てるなー!」
「労力に対しての報酬があまりにもお粗末過ぎる」
「なんでさ?ウータイ式の肩叩きだよ?」
「普通の肩叩きと変わらんだろう」
「そ、そーかもしれないけどさ!」
「それにお前の事だ、すぐに飽きる」
「うぐっ・・・そんな事ないもん・・・」
「どうでもいいがあまり期待はしない事だ」
「ちぇっ、ヴィンセントまでそう言う」
「『まで』?クラウドたちにも同じ物を配ったのか?」
「うん。そんで今のヴィンセントと同じような事言ってきた」

呆れて物も言えないとはこの事か。
まさかとは思っていたが本当に仲間たちにも同じようにこのスタンプカードを配っていたとは。
それはそれとしても皆同じ反応をするのは想像に難くない筈・・・いや、こういうのに関しては都合良く考えるユフィだ、そこは考えもしなかっただろう。
でなければ今こんな事にはなっていない。
少しの間を置いてからヴィンセントは盛大に溜息を吐くとまたユフィに尋ねた。

「・・・そんな状況で何故私にもこれを配った?お前の期待する反応をしないのは分かりきっていたと思うが」
「そんなん聞いてみなきゃ分かんないじゃん!
 それにヴィンセント、自分だけ仲間外れにされた〜って言っていじけてまた棺桶に引きこもっちゃいそうだしさ」
「それだけはないとハッキリ言い切れるな」
「ハッキリ言うなよ、つまんないな〜・・・あ!そーだ!
 じゃあヴィンセントのやる気が出るように特別にもう一つプレゼントを付けてやるよ!」
「何だ」
「ズバリ!アタシとデート出来る権利だ!!」

ビシッ!という音がしそうな勢いでユフィは左手に腰を当て、右の人差し指をヴィンセントの顔に突き付ける。
しかしそれに対してヴィンセントはたっぷり間を置いてから盛大に溜息を吐くと、緩く首を横に振って言った。

「いらんな」
「なんだよそれ〜!?アタシとデート出来るんだぞ!?」
「それで?」
「それでって何だよ!?シツレーしちゃうな〜もう!」
「それにお前の事だ、とぼけて無かった事にするに違いない」
「ユフィちゃんは誠実な女の子だからそんな事しません〜。なんだったら誓約書書いてやるよ」

ややムキになりながらユフィはスタンプカードのスタンプ欄の上段にボールペンを走らせた。
そしてそこに『私、ユフィ・キサラギはヴィンセント・ヴァレンタインとデートする事を約束します』と簡単な一文を記し、自身の名前を書いてサインをした。
ついでに可愛らしい猫の絵も描いて。
ユフィは誓約書を書いた部分をヴィンセントに見えるように広げると誇らしげに「これでどーだ!」と言い放つ。

「ちなみにマスターマテリアはスタンプ三個、その他は一個だから」
「気が向いたらな」

呆れ気味に台詞を吐いてヴィンセントはユフィに背を向けた。



それが、つい一ヶ月前のこと。



そして現在。
二人はピークを終え、午後の時間に備えて準備中となったセブンスヘブンにいた。

「ユフィ、マスターマテリアだ」
「お!サンキュー!」
「それからスタンプを」
「え?あーはいはい。アンタもマメだねぇ」
「お前が飽きやすいだけだ。前に話した通り、もう飽きているだろ」
「あーあー!聞こえませーん」
「とぼけるのは構わないが報酬はしっかり貰うぞ」
「報酬?・・・あー肩叩きね、はいはい。んじゃそこに座ってよ」
「肩叩きだけではないだろう?」
「え?」

肩叩きをしてやろうとカウンター席を指差すユフィは、頭にハテナマークをを浮かべて首を傾げる。
何のことか分かっていないその様子にヴィンセントはカードを開くとスタンプ欄の上段を指差して読み上げてやった。

「『私、ユフィ・キサラギはヴィンセント・ヴァレンタインとデートする事を約束します』」
「げっ・・・」

そういえばそんなものを書いた気がすると内心焦るユフィ。
しかしヴィンセントは容赦なく追い討ちをかけてくる。

「よもや忘れたとは言うまい?」
「わ、忘れてたなんてそんなまさか・・・」
「忘れていた所でどのみち約束は守ってもらうがな」
「うっ・・・」
「では、日程とプランについて決めるとしよう」
「うぇっ!?ちょ、ちょっと!?」

ヴィンセントにやや無理矢理手を引っ張られ、ユフィは転びそうになりながらもボックス席に座らせられる。
その様子を見て皿を拭きながら眺めていたティファはクスクスと小さく笑い声を漏らす。
座らされた席の日当たりはとても良いが少々眩しい。
加えて仲間だからここにいるが、それを知らない者にとってヴィンセントとユフィは客にしか映らないだろう。
そうなるとボックス席に堂々と座っているのは少々都合が悪い。
それらを解消する為にヴィンセントは花柄のカーテンを閉め、改めてユフィと向き合った。

「都合の良い日はあるか?」
「え、えっと・・・」

ユフィは慌ててポケットからスマホを取り出してカレンダーアプリを開いてスケジュールを確認する。

「16・・・じゃ、ないや・・・21とかなら空いてるけど」
「21か。ならばその日にしよう」
「ヴィ、ヴィンセントは都合いいのかよ?」
「私もそこは空いている」

なんという偶然の一致。
しかしユフィとしては外れて欲しい気もした。
勿論嫌ではないのだが、いざ本当にデートをするとなると逃げたい気持ちの方が勝る。
目の前の男はそんなのは絶対許してはくれないだろうが。

「それで?どこに行く?」
「え、あぁ・・・ぶ、無難に映画、とか・・・?」
「見たいものはあるのか?」
「まぁ、一応・・・ヴィンセントは?」
「私は特にない。お前の見たいものを見る」
「そ、そう・・・映画見た後はどーする?」
「少し早いが昼食にするか?12時ぴったりだと混むだろう」
「そーだね。ご飯食べた後は買い物とかかなー。ヴィンセントは服とか見ないの?」
「ふむ・・・少しだけ見るか」
「だったらアタシがコーディネートしてやるよ!」
「常識的なセンスで頼む」
「どーいう意味だよ!!」
「それより、大まかなプランはこんな感じでいいだろう。何か意見はあるか?」
「アタシも大体これでいいかなー。細かく決めてもつまんないし、後はケースバイケースって事で」
「では、21日はこれでいくとしよう。忘れるなよ?」
「わ、分かってるよ!」
「それから―――」

席を立ち、ユフィの隣に立ってその耳元でヴィンセントは小さく言葉を囁く。
すると、一瞬でユフィの顔は赤く染まり、それから怒鳴り声が上がった。

「ヴィンセンとー!!」
「クククッ・・・」

彼にしては珍しく楽しそうな笑い声を漏らし、ヴィンセントはセブンスヘブンを後にした。
一体何を言ったのやら。
子供のように悔しそうに机をバンバンと叩くユフィを宥めるついでに何事かとティファは聞いてみた。

「落ち着いて、ユフィ。何を言われたの?」
「ティファ〜!ヴィンセントにセクハラされた〜!」
「え?何て言われたの?」
「実はね」

先程のヴィンセントと同じようにユフィも言われた事をティファの耳元で囁く。
その内容にティファは驚くが、すぐに苦笑して、顔を真っ赤にして抱きついてくるユフィの頭をポンポンと優しく宥めるように叩いた。

「ごちそうさま」

もうお腹いっぱいである。









次のうち、ヴィンセントがユフィに囁いたセリフはどれでしょう?

・「休憩は入れなくていいのか?」
・「途中でホテルに寄ってもいいぞ」
・「帰りは私の家に泊まって行くか?」




END

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