企画!

□高級ホテルにて 前編
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そうして現在、言われた通り架空の会社の社長と秘書に変装したヴィンセントとユフィは役になりきって潜入捜査にあたっていた。
レノの推測で気に入られると言われたとはいえ、所詮推測は推測。
そんな上手くいく筈もないだろうと思っていたが―――予想以上に気に入られた。

「あらぁ、シャウト社?
 ごめんなさい、最近仕事に没頭し過ぎてて他の企業の情報収集が疎かになっていたわ。詳しく教えて下さらない?」

アルミラはそれこそ色気全開でヴィンセントに物理的に急接近すると甘ったるい声で尋ねてきた。
オマケに胸の下に腕を通し、覗き込むように前かがみになって豊かな胸を強調しながら。
ここまで露骨かとヴィンセントもユフィもやや引き気味に呆れていた。
目の前でヴィンセントを誘惑されるのは面白くないが、それでもユフィにはいくらか余裕があった。
なんせ二日前の夜に溺れるように愛し合った記憶があるのだ。
だからこのくらいの事で怒ったりは―――

「健康食品を中心に事業を展開していて―――」
「うんうん、それで?」

ワザと大きく頷いて胸を揺らすアルミラ。
このくらいで怒ったりは―――

「将来のビジョンについては―――」
「まぁ、若いのにそこまで考えていらっしゃるなんて感心するわぁ」

頬を染めて賞賛してみせるアルミラ。
多分話なんて聞いてない。
頬を染めたのだって多分別の理由があっての事だ。
ていうか別の理由がなければ他所の会社の将来の話を聞いて頬を染めるなんて有り得ない。
でも大丈夫、怒ったりは―――

「そこでダイエット食品も手掛けている御社に是非ともご協力いただきたく、ルーファウス氏にご紹介いただいた次第です」
「嬉しいわぁ!我が社は全面的に貴社を支援いたしますわ」

アルミラの豊かな胸がさりげなく、すり、とヴィンセントの胸板を滑った。

(この女、絶対に尻尾掴んで牢屋にぶち込んでやる)

ユフィのヴィンセントにちょっかいかけるだけでなく、ユフィのコンプレックスである胸を嘲笑うかのように大きな胸を擦り付けたアルミラにユフィは怒りの炎を燃やした。
そりゃ確かにヴィンセントは胸の大きさは気にしないし、むしろ自分を構成する一部だからとティファやアルミラには劣る胸を好きだと言ってくれた。
他にも自慢の脚をお気に入りだと言ってくれたし、お尻も形が良くて―――これ以上はやめよう。
けれど、とにかくアルミラはユフィの触れてはならない逆鱗に触れてしまった。
何が何でも許す訳にはいかない。
ユフィの今回の任務に対する意識がより一層高まるのであった。

「ちなみに貴方の会社の規模はどのくらいなの?」
「我が社の社員は私を入れてまだたったの三人です。
 今会社で留守番をしてる営業マンとここにいる秘書のエイプリルが今の私の部下です」
「エイプリル=メッサーです。宜しくお願いします」

ユフィは品行方正で物腰柔らかな秘書、という役作りで、アルミラに対して柔らかい口調で優しく微笑みながら挨拶をする。
しかしそれに対してアルミラは・・・

「ふぅん、秘書ねぇ・・・」

ユフィを頭の天辺からつま先までジロジロと眺め―――フンッと鼻で嘲笑ってきた。

(こいつ・・・)

引き攣りそうになる顔をなんとかギリギリの所で押し留めて聞かなかった事にするユフィ。
後で全力で褒めてもらいたいものだ。
そんなユフィを視界から外すしたアルミラはスルリとヴィンセントの腕に豊かな胸を押し付けながら絡みつく。

「ねぇアルウィンさん?貴方の話もっと聞きたいわぁ。ルーファウス社長を交えて三人で楽しくお喋りしましょう?」
「ええ、では僭越ながら商談に移させていただきます」
「商談だなんて野暮ったい事言わないで?お喋りよ、お・しゃ・べ・り」

細長くとも逞しいヴィンセントの腕を豊かな胸でギュッと挟んで極めつけにウィンクをするアルミラ。
しかしヴィンセントはあまりの化粧臭さと香水のキツイ香りのコンボでそれどころではなかった。
仮にそれらがなかったとしても一切動じなかっただろうが。
さて、そんなものを見せつけられて黙っているユフィではない。
「あの・・・」なんて困った風を装って引き離そうと試みるも―――

「アンタは外に出てなさい。ガキがいていい場所じゃないのよ」

なんてキツく返された。
ユフィはヴィンセントもといアルウィンの秘書として紹介された筈だがこの女の耳には全く入っていなかったようだ。
会社の未来を左右するかもしれない社長たちの大切な話し合いの場に立ち会わない秘書がどこの世界にいる。
ハーレム空間を作りたいが為に滅茶苦茶な事を言っているのに気付いていないのだろうか。

「で、ですが私もいないとすぐに諸々の手配が―――」
「そんなもんはアンタが後で徹夜でもしてなんとかしなさい。ホラ、とっとと出て行きな!」
「アルウィン社長・・・」
「悪いが少し席を外してくれ。部屋で溜まっている仕事をしてもホテルを見て回っているでも構わない。
 何か用があったらすぐに連絡をするから携帯は手放さないようにな」
「かしこまりました」

表向きはアルミラの機嫌を損ねない為、その裏はユフィがホテルの調査をしやすくする為の口実。
最初に出て行けと言われた時に秘書の仕事を理由に食い下がったのも、ヴィンセントを引き離す目的はあったものの演技でもあった。
不自然な退場の仕方をしては怪しまれて警戒をされてしまう。
それにしても中々いいタイミングで退場出来たとユフィは思っていた。
ヴィンセントを目の前で誘惑されるのも我慢ならないし、この女にバカにされるのもそろそろ限界を越えそうだったのだ。
ユフィは「失礼します」と綺麗なお辞儀をして退室すると、扉が閉まるのと同時にどっと疲れたような表情を浮かべた。
そして扉の左右に立って警備をしていたレノとルードに

『何あの女?』

とでも言いたげな視線を送る。

「洗礼を受けたか」
「イリーナはまだこの比じゃないけどな、と」
「早く終わらせて帰りたいよ」

扉の向こうから聞こえる甲高い笑い声に掻き消されるくらい小さな声でユフィは小さく呟くのだった。
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