萌えcanの
□n番煎汁
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人々が寝静まる真夜中。
長期任務を終えたヴィンセントは帰路を辿っていた。
中々にハードなミッションだったのと、慢性的なユフィ不足でほぼグロッキー状態である。
唯一離れてても連絡出来る電話は、ミッション中は余程の事がなければユフィはかけてこないし、こちらもかける余裕がなかった。
そのせいで症状は日々悪化していき、最後にはさっさと帰る事だけを支えにミッションを終わらせてきた。
(重症どころじゃないな・・・これは手遅れだ)
自嘲気味に笑い、けれど満更でもないヴィンセントは歩く速度を上げて家を目指した。
自分しかいないのではないかと錯覚するくらい静かな町をひたすら歩き、漸くマンションの自分たちの部屋の玄関の前に到着する。
そして懐から鍵を取り出して開けると、なるべく音をたてないようにして扉を開けた。
(・・・ただいま)
心の中で呟いたのは、今眠っているであろうユフィを気遣ってのもの。
小さな声で呟くように言っても起こしはしないだろうが、なんとなく心の中で呟く。
ドアを閉めて鍵とチェーンをかけ、靴を脱ぐ。
そして寝室ではなく先に洗面所に入って着ているもの全てを洗濯カゴの中に入れて下着一枚の姿となる。
シャワーは今日は面倒なので明日の朝に入る事にする。
今はもうとにかく疲れていて、何もかもがしんどくて、とりあえずベッドで横になってユフィを抱きしめながら寝たい。
その考えが今のヴィンセントの思考を独占していた。
(ユフィ・・・)
疲れと緊張の糸が緩んだ事もあってフラフラする足取りで寝室へと向かう。
音もなくドアを開けて真っ先にユフィに視線を送ったその時、ある光景がヴィンセントの目に飛び込んできた。
「スー・・・スー・・・」
ベッドの上でスマホ片手にヴィンセントのワイシャツを着て眠るユフィがそこにいた。
ユフィはミッションなどでヴィンセントが長い間いない時は、こうしてヴィンセントの服を着て寝たりしている。
前に意地悪するついでに聞きだした所、抱きしめられているように感じられて間接的にヴィンセント成分を補充出来るからとか。
「フッ・・・全く」
ヴィンセントは小さく微笑むと、パジャマに着替えてからユフィが握っているスマホをサイドテーブルに置き、ユフィの横に寝そべった。
そしてユフィを起こさないようにそっと抱き寄せて静かに目を閉じる。
(明日の朝、お互いをたっぷり補充するとしよう)
明日の朝のプランを練りながらヴィンセントは眠りにつくのだった。
END