萌えcanの

□注目のチアガール
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「あ、ユフィだ!」
「おっそ〜い!」
「ごめんごめん、ちょっと面倒な事があってさ」
「何があったん?」
「ちょっと隣のクラスのやつが絡んできただけだよ。でもヴィンセントが助けてくれたからへーき!」
「ふ〜ん?良かったじゃ〜ん」
「なんやユフィも隅にお置けへんな〜」

ニヤニヤとからかってくる二人にユフィは「か、からかうな!」と慌てる。
しかしそれは逆効果でしかなく、益々二人はユフィをからかう。
これでは埒が明かないと思ったユフィは話題を切り替えた。

「そ、それよりご飯にするよ!一時間しかないんだから!」
「ユフィ、もう大丈夫なら私はここで―――」
「ま、待ってよ!い、一緒にお昼食べない!?セルフィとリュックもいいよね!?」
「ええよええよ〜」
「アタシも全然いいよ〜」
「ね?どう?」
「・・・アーヴァインも一緒でいいか?」
「もっちろん!」

そんな訳でヴィンセントはアーヴァインとつれてきてユフィたちと昼食を一緒にする事となった。
誘われたアーヴァインはそれはそれは嬉しそうだったという。



楽しい昼食は終わり、後半戦が始まる。
各クラスの代表選手たちがクラス席から立って戦場へと向かおうとする。
ヴィンセントもその一人だったが、向かう寸前でユフィに呼び止められた。

「ヴィンセント!」
「何だ?」
「さっき助けてくれたお礼なんだけどさ」
「気にしなくていい」
「アタシの気が済まないの!だからさ、もしも試合で一点入れる事が出来たらアタシからご褒美をやるよ!」
「ご褒美?」
「そ!例えばほっぺにちゅーとかさ」

ユフィがそれを言った途端、ヴィンセントは驚きに目を見開く。
だが、ユフィの態度は変わらない。

「ま、ヴィンセントからリクエストがあるなら聞いてやらない事もないけど、どーよ?」
「・・・考えさせてもらおう」

驚きの表情からすぐにいつもの冷静な表情に変わり、ポツリと呟いてヴィンセントはユフィの前から立ち去った。
てっきり「くだらない」とか溜息を吐かれてスルーされると思っていたが、意外な答えが返ってきてユフィは内心驚く。
しかし深読みをすればこれは遠回しに遠慮すると言われたのではないだろうか?
もしそうだとしたら、少し凹む。

(いや、そりゃ言われても仕方ないけどさ・・・)

けれどもめげずにユフィは気持ちを切り替えてクラスの応援に臨む。
次の対戦相手はブリッツ部エースのティーダが所属する10組。
勝ち目はないに等しいが、それでもみんな一生懸命応援する。
意外にも善戦をして得点を稼いだ7組だったが、やはり10組がそれを許さず、ティーダを中心とした猛攻によりあえなく敗れた。

「やっぱ10組は強いね〜」
「ブリッツ部に入ってる人が多いからね」

そんな風に同じクラスで同じ応援団のティファと談笑していると、代表選手たちが戻ってきた。
ユフィはヴィンセントを見つけるや否や、真っ先に駆け寄って手を引いた。

「ヴィンセント、疲れてるとこ悪いけどちょっと来て」
「ああ」

一瞬何の用かと思ったが、すぐに察しがついたヴィンセントはユフィに手を引かれるまま校舎裏へとつれていかれた。
校舎裏は人気がなく、しんと静まり返っている。
まさに二人っきりだ。

「ヴィンセント、さっきの試合凄かったじゃん!二点も入れてさ!」

10組との試合における7組の善戦にはヴィンセントの活躍も含まれている。
クラウドや他の仲間からのパスを無駄にする事なくヴィンセントは華麗にシュートを決めたのだ。

「・・・だが負けた」
「確かにそれはそーだけど、でも凄いよ!10組にはティーダがいたんだし」
「やはりアイツは手強かった」
「まぁブリッツ部のエースだからね。でさぁ、試合始まる前にアタシ言ったじゃん?得点入れられたらご褒美あげるって。どう?いる?」
「貰えるならば貰おう」
「そうだよねー、やっぱいらな・・・え?」

ユフィは一瞬、自分の耳を疑った。
今ヴィンセントはなんと言ったのだろう。

「今・・・なんて・・・?」
「貰えるのなら貰うと言っている」
「じょ、冗談じゃないよね・・・?」
「私が冗談を言うように見えるか?」
「そんな事はない、けど・・・」
「それよりお前の方こそあの言葉は嘘だったのか?」
「別に嘘って訳でもないけど・・・いいの?」
「・・・お前が嫌でなければな」

ふいっと顔を逸らすヴィンセントだが、長い黒髪の隙間から僅かに覗く耳が赤い事に気付く。
これは恐らく、照れているのだろう。
そう、あのヴィンセントが、ユフィに照れているのだ。
それが分かるとユフィもそれが伝染したのか、急に照れくさくなった。
けれど同時に嬉しさも込み上がり、勢いをつけてヴィンセントの首に腕を回した。

「エヘッ、じゃあ・・・するよ?」
「・・・ああ」

息を呑み、目を閉じてそっとヴィンセントの頬にキスをする。
いや、押し付けると言った方が表現的には適切かもしれないが、そんなものは関係ない。
キスを終えると、ユフィはすぐさまヴィンセントから離れて背中を向けた。

「こ、これでいいかな!?」
「・・・」
「な、なんか言えよ!!」
「・・・・・・二点入れた」
「へっ!?」
「お前は言ったな、得点を入れたらご褒美をやると。私は二点獲得した。だからもう一つご褒美を貰える権利があるんじゃないか?」
「じゃあ・・・次は何がいい?」
「お前に任せる」
「それじゃあ・・・ユフィちゃんのスペシャルハグで!」

体ごとヴィンセントの方へ向き直り、ユフィはヴィンセントに抱きつく。
が、慣れていないのと緊張しているのとでその抱きつき方はどこかぎこちない。
しかしそれはヴィンセントも同じのようで、ユフィを抱きしめ返す腕がぎこちない。
けれど抱きしめてもらっている事に変わりはなく、ユフィの心臓の鼓動が早くなる。

(ヴィ、ヴィンセントに聞こえてないよね・・・?)

ドクンドクンと耳にうるさいほど聞こえるこの鼓動がヴィンセントにも聞こえていたらどうしよう。
そんな風な心配をしているユフィの事など露知らず、先程よりも強くヴィンセントはユフィを抱きしめる。

「っ!!ね、ねぇ!?そろそろ離れないと・・・誰か来ちゃうよ?」
「・・・」
「誰かに見られたら・・・噂になるよ?」
「・・・私は構わない」
「そ、そっか・・・」
「・・・お前はどうなんだ?」
「・・・アタシも・・・ヴィンセントと噂になってもいい、かな」
「意見が一致したな」

耳元で囁かれる低音がユフィの意識を奪い、ヴィンセントだけを考えさせるように思考を支配する。
ヴィンセントもユフィの事しか考えられなくなったが、それが己の心を満たしてくれるのでそれでいいと思った。






ちなみにこの後、何かしらのセンサーが働いて様子を見に来たセルフィとリュックに目撃されたのはまた別の話。












END
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