萌えcanの

□不思議の国のユフィ
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「よーし、誰も追ってきてないなー?」

丘の上から屋敷を見下ろしてユフィは木にもたれかかるように座る。
父親が余計な気を回してまたお見合い相手を呼んだので、嫌になって抜け出してきたのだ。
一体これで何度目だろうか。
自分はまだそういうのはいらないというのに。

「そりゃ確かにザックスと仲良くしてるエアリス姉とかクラウドと仲良くしてるティファ姉見たらそういうのも悪くないかなって思うけどさ。
 でもやっぱりアタシはまだそういうのはいいかな〜。まだ自由でいたいっていうか、ピンと来ないっていうかね〜」

誰に言うでもなくぼやいてユフィは溜息を吐く。
恋愛経験もなければ二人の姉のようにそういった事に興味のないユフィにとっては煩わしい以外の何者でもない。

「ま、ゆっくりお昼寝でもするとしますか」

穏やかな陽気と気持ちの良い風に包まれながらユフィは静かに目を閉じた。








ふと、膝の上の温度が気になって意識が浮上する。
眠る前にはなかった温度。
心地の良い温かさでそれでいて重く、柔らかい。
バタバタバタと、動物が足で耳の裏を引っ掻く音が聞こえる。

(猫かな?)

ユフィは猫に懐かれやすく、よく猫が寄ってくる。
そしてユフィ自身も猫が好きなので寄ってくる猫は大歓迎だ。
今日は一体どんな猫が寄ってきたのだろうとワクワクしながらそっと目を開けると、白いフワフワの毛が目に入った。
更には細長い白い耳が―――

「・・・うさぎ?」

明らかに猫の特徴とは違うそれにユフィはポツリと呟く。
すると、ユフィの膝の上で寛いでいたウサギは『やべ、起きた』と言わんばかりにハッと驚くと、ぴょんとユフィの膝から降りた。
そして文字通り脱兎のごとく素早く走り出す。
その際に、ウサギの首にマテリアのペンダントが着けられているのをユフィは見逃さなかった。

「マテリア!?」

マテリアとは未知の宝石の事で、専用の機器に取り付けると魔法のような力が発動出来る代物だ。
他にも、とある面倒な工程を経る事によって全く同じ種類のマテリアが分裂して新しく生まれたりする。
そんな未知数な部分と、何よりもキラキラ光っていて綺麗という理由でユフィはマテリアが大好きだった。
部屋にはマテリアのコレクションがあるし、面倒ながらもマテリアの分裂だってやっているほど。
そんなマテリアがウサギの首にぶら下がってるだなんて勿体無い。
それも真っ赤なマテリア。
あまり手に入らない貴重なマテリアだ。

「おい待て!そのマテリア、アタシに寄越せよ!」

おおよそ良家のお嬢様とは思えない言葉遣いだが、今はユフィとウサギ以外に誰もいないので咎める者もいない。
ユフィは持ち前の運動神経の良さを発揮して瞬く間にウサギとの距離を縮めていった。
そして間合いを読み、頃合いを見計らって飛びかかる。

「おりゃー!」

地面を蹴り、手を伸ばして思い切りウサギに飛びかかる。
が、手を伸ばした先、自分とウサギが着地する先には大きな暗闇。
否、大きな穴があった。
それも底が知れないくらい暗く深い穴が―――。

「わぁあああああああああああああ!!!!??」

深く暗い大穴の中へとユフィはウサギ諸共真っ逆さまに落ちていくのだった。














どのくらい落下しているのだろうか。
穴から落ちてからというもの、底は一向に見えてこない。
なんだか落ちているのか浮いているのかも分からなくなってきた。
眠くなってきて欠伸を漏らしてしまうが、見ればウサギの方もなんだか眠そうにしている。
このままほんの少し眠ってしまおうか。
ほんの少しだけ、ほんの少しだけと自分に言い聞かせつつ静かに目を閉じる。
緩やかで穏やかで甘美な睡魔がユフィを包んでいく―――

「ばーくしょっ!!」

が、おっさん特有の大きなくしゃみで睡魔は消え失せてしまった。

「うわっ!?」

びっくりして目が覚めるのと同時に穴の底に到着し、ユフィはふわりと地面に降り立つ。
何が何だか分からなくてキョロキョロしていると同じく着地したウサギが一目散に駆け出すのを視界の端に捉えた。

「あ、おい!待てってば!」

ユフィも駆け出してウサギを追いかける。
狭い通路を走り通り、とある部屋に入ってユフィは戸惑った。
人形用なのではないかと思われるくらい小さなイスとテーブル、部屋そのもの。
そして困った事に、隣の部屋に通じているであろう扉をウサギが通って行ってしまった。
それこそ犬・猫・ウサギサイズの扉で小柄のユフィではとても通る事は出来ない。
どうしたものかと思案していると、不意に小さな扉から大きないびきが響いてきた。
いや、扉ではない、金色のドアノブからだ。

「うそ・・・生きてんの・・・?」

しゃがんでユフィはドアノブを覗き見た。
如何にもオヤジという顔つきで、どこか貫禄がある。
察するに、落下中に聞こえた大きなくしゃみはこのドアノブがしたものだろう。
折角の睡眠を邪魔された事と大いなる好奇心からユフィはドアノブのノブを思いっきり握ってみた。
すると―――

「いってぇええ!?何しやがる!!!」

ドアノブは一気に目を覚まし、顔を振ってユフィの手を振り払うと眉を顰めて睨んだ。

「うわ、生きてるよ。そんで可愛くない」
「余計なお世話だ!ていうか何だオメーは!?」
「アタシ?アタシはユフィって言うの。アンタは?」
「俺様はドアノブのシドだ。んで、ユフィはここに一体何の用なんだよ?」
「さっきここを白いウサギが通って行ったんだけど、なんとかして通れない?」
「あーあれだ、そこのテーブルの上に飲み物あるだろ?それ飲めば小さくなれるぜ」
「マジ?そしたらこの扉通れる?」
「おうともよ!でも、城には近づくなよ。あそこには面倒な女王がいるからな」
「どのくらいめんどい?」
「この俺様でも寝たふりこくくらい面倒だ」
「うへぇ、気をつける」

ユフィは嫌そうな表情を一瞬浮かべるが、「それよりも」とパッと表情を明るくしてテーブルの上の瓶を手に取った。
青く透けている液体が瓶の中を満たしており、電気に照らすとキラキラと反射して美しい。
なんだか飲むのが勿体無いが、ウサギが持っていたマテリアの為ならば仕方あるまい。
覚悟を決め、ユフィは瓶を傾けて液体を飲み始めた。
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