萌えcanの

□不思議の国のユフィ
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「・・・ん?んん??」

青い液体を飲んだ瞬間、ユフィを取り巻く世界がみるみるうちに大きくなっていた。
人形用だと思っていたテーブルやイスは今や巨人サイズとなっており、座りに行くのも困難なくらいだ。
シドの方を振り返ってみれば、こちらも先程とは違って大きくなっている。
ドアのサイズだって今の自分には二回りかそれ以上の大きさだ。

「どうなってんのこれ!?世界が大きくなったよ!」
「世界が大きくなったんじゃなくてオメーが小さくなったんだよ」
「あ、そうなの?まぁいいや。それよりそこ通してよ」
「おう、いいぜ。くれぐれも気をつけろよな」
「うん、ありがと!」

シドが気前良く開いてくれた扉をユフィは軽い足取りで通り抜けた。
これでウサギを追いかける事が出来る。

(シド、良い奴だったな〜)

シドの気前の良さとぶっきらぼうながらも初対面であるユフィに向けた優しさに感謝しながらユフィは再び走り始める。
見た事もない草木や花に目もくれず、ただひたすらウサギを探す。

「ウサギー、出てこいウサ吉〜」

少し走るのが疲れたユフィはのんびりと歩き始め、ウサギの名を呼ぶ。
全くどこへ行ったのやら。
マテリアのペンダントを着けていた辺り、きっと飼い主がいる筈だから野生ではないだろう。
そう、野生では―――

「待てよ?飼い主いたらゲット出来ないじゃん、マテリア。どーしよ・・・」

ペットにあんな貴重な宝石を着けるくらいだからそう簡単には譲ってくれないだろう。
かと言って黙って取り上げる事も躊躇われる。
しかしあの真っ赤なマテリアは諦めがたい。
どうにかして手に入らないものだろうか。
黙々と思案していると、分かれ道に差し掛かった。
分かれ道の真ん中には看板が置いてあって、『お茶会』『←あっち』『こっち→』と書かれていた。

「どっちだよ・・・」


IMG_3293


こんな意味不明な看板を設置したやつを殴ってやりたい。
そんな怒りを心の片隅に残しつつ、ユフィは悩んだ。
右に行くか、左に行くか。
果たしてウサギはどちらに行ったのか。
間違った方向に進んだ時、後戻りするのは面倒だ。
しかし、いつまでも悩む訳にはいかない。

「もういいや、左に行こ」

ユフィは自分の勘を信じて左の道を進んだ。
相変わらず見た事のない木や花が続くが、そんな中をユフィは鼻歌を歌いながら歩いて行く。
そんな時、ふと一軒の家が視界の端に映った。
奇妙な彩りの家で、広い庭には赤のチェックのテーブルクロスが敷かれた大きなテーブルが置かれていた。
そして、そのテーブルの前にはとても楽そうな大きいイスが置かれており、そこには一人の美青年が座って本を読んでいる。
整った顔立ち、切れ長の目、紅い瞳、一つに結われた黒く長い髪。
羽の付いた緑の帽子を被っており、極めつけには紅茶が置いてあって、絵に描いたような美しい風景だった。
思わずユフィが見惚れていると、青年がこちらの視線に気づいて紅い瞳を向けた。

「・・・見ない顔だな。どこから来た?」
「へ?アタシ?」
「そうだ」
「あー、えーっと、信じてくれるかどうか分かんないけど、ウサギを追っかけてたら穴から落ちてここに来たんだよ」
「そうか。名前は?」
「アタシの名前はユフィだよ。ねぇ、アンタはウサギがどこに行ったか知ってる?」
「知りたいか?」
「うん、すっごく知りたい」
「ならば、私と話をしてくれないか?客人は久しぶりだ」
「いいよ」

ユフィは庭に入ると青年の傍に歩み寄った。
座ろうとイスを探すが、青年が座っているイス以外にそれらしい物は見つからない。

「今イスを出そう」

青年は自分が被っている帽子を取って縦に一振りする。
すると、帽子からヴィンセントが座っているイスの色違いのイスがボンッと出てきた。
予想だにしなかった光景にユフィは驚きに目を見張り、はしゃいだ。

「凄い凄い!!今のどーやったの!?マジック!?」
「大した事ではない。紅茶は飲むか?」
「あ、うん。飲む」

ユフィがイスに座ると、青年は指をパチンと鳴らしてユフィの目の前に紅茶を出した。
これも何かのマジックなのだろうか。

「アンタ凄いねー。そういえば名前は?」
「ヴィンセント=ヴァレンタイン。『帽子屋』と呼ばれている」
「帽子屋?帽子売ってんの?」
「売ってはいない。そう呼ばれているだけだ」
「ふーん。でもヴィンセントか、オシャレな名前だね。いつもこうやって紅茶飲みながら本読んでるの?」
「『いつも』ではない。『ずっと』だ」
「へ?どういうこと?」
「前にハートの女王に暇潰しの相手をしろと言われ、くだらない話をしたら私自身の時間を止められた」
「・・・ちなみにどんなくだらない話をしたの?」
「マグロとサメが泳ぎの競争をしたらどちらが勝つか、という話だ」
「うわっくだらな〜」
「ちなみに結末はマグロもサメも本能のまま泳いだため、ゴールに辿り着く事はなかった、というものだ」
「それ、時間止められただけマシじゃない?ていうか何でくだらない話なんかしたのさ」
「暇潰しにはくだらない話が一番だろう?」
「いや、違うでしょ」

意味不明だと言わんばかりにユフィは切り捨てて紅茶を一口飲む。

「ていうかヴィンセントの時間を止められる女王って何者?」
「彼女はこの世界のルールだ。彼女が決めた事がこの世界の全てとなる」
「ふーん、確かにそれはめんどくさそう。あのウサギ、女王の所に行ってないだろうな・・・」
「・・・そのウサギはどんなウサギだ?」
「真っ白のフワフワで、人の膝の上で寛ぐちょっと図々しいウサギかな。首に真っ赤なマテリアのペンダントぶら下げてんの」
「あのウサギか・・・あれは女王のペットだ。手を出さない方がいい」
「え〜!?アレ女王のペットなのかよ〜!サイアク〜・・・」
「女王のペットでなければどうしていたんだ?」
「ダメ元で飼い主の人にマテリアを譲って貰おうかな〜って」
「お前もウサギと大概似たようなものだな」
「うっさい!収集癖が騒ぐの!」
「物欲の間違いじゃないか?」
「腹立つな〜アンタ、そんな事言うならアタシもう行くよ」
「冗談だ、あまりにもお前が面白いから、ついからかってしまった」
「フンだ、謝ったって許してやんないよ」

頬を膨らませてプイッとそっぽを向いてしまったユフィにヴィンセントは内心笑いを堪える。
だが、恐らくアレの話をすれば一気に機嫌が治るだろうと踏んである話を持ちかけた。
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