萌えcanの

□その2
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洗面所に入ったユフィは早速中を見回した。
タオルはブランド物で、柄は女性が好むそれだ。
ガラス扉の戸棚も女性用のムースや化粧水などの化粧・美容用品が収められており、男物はこれっぽっちも見当たらない。
念の為に化粧水などを注意深く見ると、使いさしの量がリアルで、キャップなどは他の美容用品をなど使った手で触った為か、普通に汚れている。
後ろ髪を引かれる思いでチラリと洗面台の下の扉を開けて覗くが、洗剤などしか置いていない。
音を立てないようにそっと浴室の扉を開いて中を確認するが、女性用のシャンプーなどしかなく、こちらも男性用品は確認出来なかった。
ちなみにバスタブに湯は張っておらず、空のままだった。
イメージ的には薔薇が浮いてそうな感じがしていたがそんな事はなかった。

(さて、と・・・)

あんまり長く物色しているとルインに不審がられてしまう。
ユフィは手っ取り早く服を脱いで綺麗に畳んで袋に入れると、早速件の下着に着替えた。
ルインに渡された下着はやや濃い目の紅い下着で、白のフリルがたっぷりとあしらわれていた。
パンツは所謂『紐パンツ』なるもので、グリーンのビーズのような物が紐に通されている。

(なんだかサンタを連想させられるなぁ)

もうそろそろクリスマスが近い。
クリスマスイブの日はセブンスヘブンでクリスマスパーティーをする予定だ。
ヴィンセントには何を渡そう。
プレゼントの内容を黙々と考えながらユフィは下着を身に着けていく。

(お、可愛いじゃん)

鏡に下着姿の自分を写して確認してみると、自分で言うのもなんだが似合っていて可愛かった。
これは販売されたら買うしかない。
とまぁ、そんな事は置いといて、これからこの姿をルインに見せなければいけない訳だ。

(ええい、女は度胸!)

ユフィは覚悟を決め、リビングへと踏み込んだ。

「あ、あのー、着替え終わりました・・・」
「じゃあ、ここに立ってよく見せて?」

腕で体を隠しつつ、部屋の真ん中に立つ。

「腕、どかしてくれないかしら?」

言われて操られているかのように腕をどかす。
やはり同性とは言え、他人に見られるのは恥ずかしいものがある。
しかしそんなユフィの心境などルインは知る由もなく、腕を組んで顎に人差し指を当てながら360度舐めるように見回している。
そうしてユフィの周りを一周して戻ってくると、クスリと笑った。

「フフ、やっぱりエレンさんの体って私の理想だわ」
「そ、そうですか?」
「ええ。体は程よく締まってて無駄な肉がないし、かと言って全くない訳でもない。足とか特にね」

するりとルインの手がユフィの太腿の上を滑り、ユフィは思わず「ひゃっ!?」と甲高い悲鳴を漏らしてしまう。
だが、ボディタッチはそれだけに留まらなかった。

「お尻も小さ目で可愛いし」
「やっ!る、ルインさん・・・!」
「腰のくびれやラインも綺麗だし」
「ふ、フフフ、くすぐったい・・・!」
「胸も大きすぎなくてグッドよ」
「・・・グッド、ですか?胸・・・」

ユフィは些か不満な表情を浮かべた。
小さくはないがお世辞にも大きいとも言えないユフィの胸は目下の悩みだった。
この胸の小ささもあって自分は子供扱いをされている感があり、また幼く見られている原因なのではと思っている。
そして何より、ヴィンセントがもしも巨乳派であったらと考えると絶望しかない。
ティファのような大きさと形の胸を目指して日々バストアップ運動に励んでいるが、効果は未だ出ず。
今だって目の前のルインの胸の大きさが羨ましいとすら思っている。
ティファにしてもルインにしても一体何を食べたらこんなに大きくなるのだろうか。

ユフィの葛藤を他所に、けれどルインは穏やかな笑みを浮かべた。

「グッドよ。可愛らしいし、そのくらいの大きさのがどんな服も似合うもの」
「うーん、そうですか?どんな服が似合うって言っても、胸が大きくないと似合わない服だってあるじゃないですか」
「ええ、確かにあるわ。でもエレンさんの着たい服の全てがそういう訳じゃないでしょう?」
「まぁ・・・確かにそうですけど」
「胸が大きいとね、まず肩掛けのカバンが使えないのよ。変に胸が強調されてみっともないし。
 それにブラジャーとかサイズが大きくなればなるほど可愛いデザインが少なくなってくるのよ」

(そういえばティファがそんな事言ってたな)

それはティファとマリンと一緒に買い物に行った時のこと。
新しいブラを求めてランジェリーコーナーを見ていた時に、ユフィは可愛いブラを見つけてはあれこれと悩んでいた。
しかし対するティファは、あまり可愛いデザインがないという意味であれこれと悩んでいたりした。
思えば大きいサイズのブラのデザインは地味なものが多かった気がする。
そしてルインの口ぶりからして、彼女もサイズの大きいブラのデザインには色々悩んでいたのだろう。
彼女は一つ溜息を吐き、愚痴を溢した。

「全く、サイズの大きいブラのデザインを地味なものにするなんてどうかしてるわ」
「それは確かにあんまりですね」
「でも私の会社が販売するからには手を抜かないつもりよ。その為にも協力してね、エレンさん」
「はい!」
「本当は崩したくないけど、エレンさんがどうしてもって言ったら私もエレンさんの胸を大きくするの手伝うから」

そう言ってルインは、それはそれはとても自然な動きでユフィの胸を優しく両手で包んだ。

「っ!!?」

反射的にユフィはルインの手を払って胸を覆い隠し、距離を取る。
触られた経験がないので耐性がなく、顔なんか真っ赤だ。

「な、ななななな何普通に触ってるんですか!?」
「フフフ、ごめんなさいね、つい」
「あんまりふざけてる帰りますよ!!?」
「だってエレンさんが可愛いんですもの。ついつい悪戯しちゃうのも仕方なくってよ?」
「『なくってよ?』じゃないですよ!もう!!」

ユフィが叫ぶもルインは「フフフ、冗談よ」と笑うだけでこれっぽっちも反省していない。
冗談などと言っているが、果たしてそれが本当なのかどうかも疑わしい。

(今度からティファに悪戯するのやめようっと)

ユフィも時々、ティファの反応を楽しんで胸を触る事がある。
その時のティファの反応が今のユフィと同じで、これが面白くて可愛くてやめられない。
だからルインの悪戯したくなる気持ちも分かるのだが、実際やられると中々恥ずかしい。
・・・でもやっぱりティファの反応はいつ見ても楽しいのでやっぱりやめるのではなく、控える事にしよう。
「さ、真面目にやりましょう」と仕切り直しを始めたルインに促され、また元の位置に戻る。

「ところでこの下着は何かモチーフとかあるんですか?」
「サンタさんよ。クリスマスが近いからそれに合わせたデザインをする事になってるの」

(やっぱりか)

「そうなんですか、なんとなくサンタさんを連想するなって思ってたんですけど、やっぱりそうだったんですね」
「察しがついてくれて嬉しいわ。モチーフはわかりやすくないとね。ところで着心地はどう?」
「全然悪くないですよ。サラッとしてて肌触りがいいし、着心地も悪くなくて楽ですよ」
「ふむふむ、肌触り・着心地は悪くないっと」

ルインはポケットからペンとメモ帳を取り出すと早速ユフィの感想をメモに記した。
サラサラと記述するその姿はまさに働く女社長のそれでなんだか独特のオーラが出ている。
更にルインはキラリと眼鏡を光で反射させて輝かせると、これまた驚きの質問をしてきた。

「ねぇエレンさん、パンツの紐、解いていい?」
「・・・・・・え?」

ユフィの時が止まる。
が、それは伸びてきそうになったルインの手と共に動き出し、ユフィは慌てて再度距離を取った。

「ま、まままままま待って下さいルインさん!!紐を解くってどういう事ですか!?」
「そのままの意味よ。大丈夫、解くのは片方だけだから」

ルインはお茶目に笑ってみせるが承諾出来る筈もなく、ユフィは全力で首を横に振った。

「か、片方だけでも駄目ですよ!女同士でそんな・・・!!」
「女同士でやるなんてそんなにおかしな事でもないと思うけど・・・そうね、この役目は旦那様に任せようかしらね」
「・・・・・・えっ?」

再度ユフィの時が止まる。
今ルインはなんと言ったのだろう?
『この役目は旦那様に任せようかしらね』?
落ち着いて細かく意味を確かめていこう。
『この役目』の『この』というのは前のセリフである『パンツの紐を片方解く』にかかる言葉であるだろう。
次に『旦那様』、この場における旦那様とはユフィもといエレンの旦那であるクリス、つまりヴィンセントの事を意味する筈だ。
そして最後に『任せる』というのは、ルインには実行不可である事柄をヴィンセントに託す・お願いするという意味になる。
これらの意味や言葉がユフィの中で足し算や引き算をしながら繋がっていき、ルインの放った言葉の意味をわかりやすく変換していく。

『パンツの紐を解く役目はクリス(ヴィンセント)に託そうかしらね』

『パンツの紐を解くのはクリス(ヴィンセント)にお願いしようかしらね』

『パンツの紐を解くのはヴィンセントにお願いする』

『ユフィのパンツの紐をヴィンセントが解く』

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!???」

思わずヴィンセントが紐を解く姿を想像してしまい、ユフィはカッと顔を赤くして声にならない叫び声を上げる。
紐を解く?
ヴィンセントが?
ユフィの?
今履いている下着を?
あの手で?
あの細長くて白くてでも男らしくゴツゴツしてる指で?

あぐあぐと震え、頭の中で様々な心の声が煩く飛び交ってるユフィなどお構いなくルインを注文を追加していく。

「悪いけど、解いた感想を旦那様に書いていただけないかしら?それからこの下着の感想も。勿論、直筆でね」

感想項目を書いたメモをビリっと破り、渡してきたところでユフィはハッと我に返って反論をした。
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