萌えcanの

□その3
1ページ/4ページ

訪れた運命の日曜日。
ブレスレットを着け、下着の入った手提げを持ってヴィンセントと共に家を出る。
下着の入った手提げはルインから借りた下着を返す為の物だ。
紳士淑女然とした笑みを浮かべながら最初にルインの家を訪ねる。
インターホンを押して呼べばルインはすぐに出てきた。

「おはようございます、ルインさん」
「おはよう、エレンさんと旦那様」
「下着、洗っておきましたので返しますね」
「ええ、ありがとう。メモもこの袋の中に入ってるのかしら?」
「・・・メモは私が持っている」

ヴィンセントは苦虫を潰したような顔でポケットからメモを取り出し、ルインに渡す。
メモを渡す瞬間、ルインがメモを掴んだその時、ヴィンセントはメモを掴む指に力を込めていた。
しかしルインは負けない。
無言の抵抗(物理)によるメモの引っ張り合いは最終的にルインの勝利に終わる。
ルインはゲットしたメモを早速開くと、内容を読んでクスリと笑った。

「フフ、素晴らしい感想をありがとう、旦那様」
「何が書いてあったんですか?」
「お前は読むな」
「ごめんなさい、いくらエレンさんのお願いと言えどこれだけは見せられないわ」

ルインはニコリと笑うとさっさとメモと手提げを家の中に持って入った。
実はメモの内容についてはユフィはヴィンセントに一切見せてもらっていない。
今こうして目で尋ねても無言で逸らされて教えてもらえそうにない。
ユフィからしてみれば片想い相手が自分の下着姿についてどんな感想を持ったか気になるところ。
しかし逆にヴィンセントからしてみれば感想を知られてユフィに嫌われたくないというのが本音だ。
別にやましい事を書いた訳ではないが、見られたくないものは見られたくない。
男のプライドというものだ。

「お待たせ。行きましょう」

家に鍵をかけて出てきたルインがユフィの隣に並び立つ。
今日のルインは普通のTシャツにフード付きパーカー、普通のジーパンとかなり地味目の服装だ。
ルインにしては珍しいと思っている中、ルインがヴィンセントに言った。

「旦那様、今日のホームパーティーはエレンさんの傍についてないと駄目よ」
「・・・つまり?」
「すぐに分かるわ。ただ、どうしても他に目移りするなら私がエレンさんを貰っちゃうけど?」
「誤解を生むような言い方はよしてくれ。私は妻一筋だ」
「やだ、アナタったら・・・!」
「私の前で堂々と惚気けるだなんて妬かせるわね。当てつけかしら?」
「金曜日に妻と随分盛り上がったと聞いたが?」
「あれでもまだ足りないわ。時間があればもっとエレンさんを―――」
「あ、あの!もう行きませんか!?」

段々話があらぬ方向に行こうとしているのをユフィは食い止め、二人を連れてデベット家へと向かった。
デベット家には既に参加者が集まっており、かなり賑わっている。
出来上がった料理の良い匂いだってしてきた。

「あらいらっしゃい、カスティーヌさん、ローズロードさん」

デベット夫人がにこやかに笑って三人を迎える。
それに対してユフィも笑顔で返す。


IMG_3487


「こんにちは、デベットさん。今日はお招きいただきありがとうございます」
「フフフ、さぁ上がって。パーティーはもう始まってるのよ」

庭へと通されて賑やかなパーティーの仲間入りをさせられる。
普段と変わらずお喋りをしているおばさんや、夫婦同士で交流している者、子供と楽しくご飯を食べている家族など様々だ。
ユフィは密かにヴィンセントと目で会話すると自身の服の袖を引っ張り、ブレスレットを曝け出した。

「あら、綺麗なブレスレットね、エレンさん」
「ありがとうございます。実は主人からのプレゼントなんです」

「美しいブレスレットですね。よく似合ってますよ、カスティーヌさん」

ユフィとルインの会話に割って入る男の声。
振り向けば、オールズ夫妻が揃ってこちらにやってきていた。
その瞬間、ユフィとヴィンセントの目がキラリと光って観察モードに変わる。

「御機嫌よう、オールズさん」
「御機嫌よう、カスティーヌさん。今日も美しいですね」
「フフ、ありがとうございます」

ユフィが応対している間にヴィンセントがオールズを観察する。
紳士的な態度とは裏腹にユフィを見る目は品定めする男の目で、顔に張り付いている笑顔なんかは偽物のそれだ。
察するに他の女と浮気してるくらいの事はしてるだろう。
そして何より夫人と微妙に距離が空いており、纏う空気もなんだかぎこちないように見える。
夫人とは仲が悪いというユフィの情報も頷ける。

「それにしてもこんな綺麗なブレスレットをプレゼントなさるなんて、何かの記念ですか?」
「妻と出会った記念、というものです」
「まぁ、仲がいいんですね」

ヴィンセントがオールズ夫人と会話している間に今度はユフィが観察をする。
やはりロリックスの腕時計はしておらず、おめかし程度のペンダントしかしていない。
また、ヴィンセントを見る目がどこか熱っぽくて女を感じさせる。
振る舞い方も女をアピールしていて、欲求不満なんじゃないかと思うほどだ。
オールズ夫人とは他の家の奥さんを交えて喫茶店にお茶しに行く事が何度かあったが、たとえイケメン店員がいたとしてもこんな風に振る舞う事はなかった。
それが時計を失くしたのを境にこんな風に露骨になったという事は、ルファンに何か吹き込まれたか、旦那の浮気を知って自分も浮気をしてやろうと覚醒したのか。
どちらにせよ、この変わり様は異常である。

(それとヴィンセントに色目使うなー!)

ユフィは心の中で思いっきり叫んだ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ