萌えcanの

□その4
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深夜のWROにてルファンの取り調べはルファンが目覚めてからすぐに行われた。
一応厳重に拘束はしたものの、何があって逃げられるか判らない。
WROに帰還したヴィンセントとユフィはすぐに着替えると取調室へと足を運んだ。

「宜しくお願いしますね」

取調室の手前の部屋でリーブが二人に資料とペンを渡す。
二人は静かに頷くと毅然とした真剣な表情で扉を押し開き、パイプ椅子に座ってルファンと向き合った。
ルファンは拘束具に身を包まれており、見るからに動けそうもない。
加えて首には神羅お手製の魔力を吸い続ける首輪が着けられており、紫色の小さなランプが光を発する度に魔力を吸い上げているのを知らせる。

(こいつがルファン・・・)

ユフィは注意深くルファンに視線を送って観察する。
目はフサフサの前髪で隠れててよく見えないが、時折青い瞳がチラリと覗く。
全体的に細身で、多分身長はヴィンセントより少し低いくらいだと思う。
年齢はユフィと同じくらいかそれよりもう少し上か。
取調室の天井の真ん中に吊り下げられたたった一つしかない電球のせいで光は部屋全体に行き渡るどころか机の上を照らすのがやっとで、ユフィやヴィンセント、ひいてはルファンすら満足に照らす事が出来ない。
その為、ルファンが不気味な照らされ方をされていて、不穏な雰囲気を思わせる。
けれど次の瞬間に発せられたルファンの気の抜けるような呑気な物言いがそれらを払拭した。

「わぁ!キミ、ユフィ=キサラギ?」

無邪気な少年のような明るい声音。
ユフィもといエレンを口説いてきたような青年特有な綺麗な声を出していた男とは思えないくらいだ。

「・・・何で知ってるの?」
「そりゃ知ってるよ。だってキミたちは星を救った英雄だもの。キミたちのファン、沢山いるよ」
「・・・」
「そんな怖い顔しないでよぉ。別に貶してる訳じゃないんだしさぁ」
「・・・自分の置かれている状況が判っているのか?」

見兼ねたヴィンセントが間に入って厳しい目線でルファンを牽制する。
けれどそんな事も気にせずにルファンはあっけらかんと答える。

「これから僕の事を取り調べて牢屋にぶち込むんでしょ?そのくらいはバカでも分かるって」
「ならば真面目にしろ」
「はいはい。で、何を話せばいいの?盗品?それともキミたちの正体?」
「・・・どういう意味だ」
「どうもこうもそのままの意味だよ。クリス=カスティーヌとエレン=カスティーヌさん?」
「っ!?」
「・・・」

意味ありげに笑うルファンにユフィは僅かに動揺を見せてしまう。
変装も演技も完璧だった筈だ。
どこかでミスをしてしまっただろうか?
目線でヴィンセントと確認し合うが、ルファンは静かに笑って言った。

「あはは、やっぱりそうなんだ。でも焦らなくても大丈夫だよ。僕も今の今気づいたんだから」
「なんで・・・判ったの・・・?」
「うーん、同業者の勘ってやつ?なんとなく判ったんだよねぇ。
 あ、でも気にしなくていいよ。この事を言いふらしたりしないし、それをするほど僕も無粋じゃないから」
「・・・話しを戻すぞ。盗品はどうした?」
「売られちゃったよ。綺麗さっぱり全部ね」
「売られた?」

ヴィンセントが聞き返すとルファンはそれまでとは打って変わって心底憎々しげに経緯を語った。

「組んでる奴が二人いたんだけどね、そいつら僕がコレクションとして盗んだ物を全部闇に流したんだ。女性から貰った記念品ごとね」
「よっぽど仲が悪かったみたいだな」
「僕が甘かったのとあの二人が心底クズだってのに気づけなかっただけで裏切られるまではそれなりに仲は良かったよ?
 だってコレクションとして盗んでいた物とは別にアイツらの生活費とか他所から盗んでちゃんと渡してたし」
「その二人とはどういう関係だ?」
「親父の古い友人で神羅の科学部門に入れなかった落ちこぼれ科学者だよ。
 で、僕は『仏全(ふぜん)』っていう名前の会社の社員兼工作員だったわけ」
「仏全、だと?」

珍しく驚いたような反応を示すヴィンセント。
ユフィが「知ってるの?」と尋ねると静かに頷いて短く説明をした。

「神羅のライバルだった会社だ。だが、三十年以上前に潰れた」

正確に言うと三十年以上前にヴィンセントが会社の命令で裏工作して潰したのだが言う必要もないのでそこは黙っておく。

「神羅との競争に敗れ、あえなくして潰れてしまった悲劇の会社、仏全!
 会社が潰れた事と憎きライバル・プレジデント=神羅に敗れたショックから社長は自殺!
 けれどその意思は社長の右腕であった僕の父さんが引き継いだ!
 父さんは人脈を利用して水面下で仏全復活・打倒神羅を夢見て着々と力をつけていった。
 やがて僕という子供を授かり、病死してしまった母さんの死を乗り越えて僕に強化手術と工作員の心得を叩き込む決意をする父さん。
 しか〜し!突如として現れたメテオとライフストリームの奔流の衝突によって仏全は神羅と仲良くお陀仏!
 この騒ぎで死んだ社員もいれば逃げた社員もいて、神羅も潰れたにも関わらずこの手で潰す事が出来なくて失意の底に沈む父さん。
 『神』羅と『仏』全なだけにこの世に神や仏はいないのか、父さんは世界で流行っていた死病に罹り、無念の死を遂げる!
 残された息子は強化手術のせいで苦しむ事になり、落ちぶれ科学者との取引で泥棒稼業を開始!
 その内に美術品などにも目をつけるようになり、女の人と性を謳歌しながら怪盗と呼ばれるようになったのであった! 終わり」

まるで語り部のような口調で恐らくは自身とその父親の事について語ったルファンにユフィはポカーンと呆気にとられる。
ヴィンセントもしばし沈黙していたが、頭の中で少しずつ今の情報を整理しつつ言葉を選ぶようにして尋ねた。

「・・・随分、饒舌に喋ったな」
「遅かれ早かれ話さなきゃいけなくなるし、僕としても早くゲロって裏切り者二人を捕まえて欲しいからね」
「ちょっ、ちょっと待って!色々ツッコミたいとこあるけど強化手術って何?アンタ改造手術したの!?」
「したよ。ていうかされた。正確に言うと僕が母さんのお腹の中にいる時からずっとね」

自分の事であるのにまるで他人事のようにルファンはあっけらかんと答える。
そしてルファンの口から発せられた『母親のお腹の中にいる時から』というのが二人の脳裏にある人物を思い浮かばせた。
ヴィンセントが愛した女性ルクレツィア、哀れな狂気の科学者宝条、その二人の子供にして世界破滅を目論んだセフィロス。
ジェノバの影響でルクレツィアは死ぬ事が出来ないが、それでもこの三人との共通点は多い。
決定的な違いがあるとすればジェノバ細胞を埋め込んでいない事だろう。
ジェノバやジェノバ細胞は神羅が厳重に保管していたものだから仏全如きが手に入れられたとはとても思えない。
そしてそれを裏付けるような話しをルファン自らがした。

「なーんか英雄セフィロス二世を作ろうとしたらしいけど決定的な“何か”が足りなくてソルジャーと同等レベルくらいにしかならなかったみたい。」
「・・・それは良かったな」
「でもその決定的な“何か”をキミたちなら知ってそうな感じがするんだけど・・・知らない?」
「アンタは知らない方がいいよ・・・知らなくていい事だってあるんだから・・・」

目を逸らしながら重々しくユフィが言い放つ。
本当は追及したかったが、本能が警鐘を鳴らしたのでルファンはそれ以上聞くのをやめた。
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