萌えcanの

□その4
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「それで?お前が泥棒稼業を始めるきっかけとなった強化手術による悪影響とはなんだ?」
「ん〜?へっぽこ科学者たちがヘボすぎたせいで定期的に魔晄が必要な体になっただけだよ。
 胎児の時から魔晄を使った強化実験してたから体の組織の半分が魔晄がないと働かないんだよ。
 それを裏切り者二人に治療してもらってたんだけど、今思えば真面目に治療してもらえてたかどうかも怪しいけどね。
 犯罪者の分際でこんな事を聞くのもなんだけどこのWROではそういうのの治療とか出来る?」
「・・・アタシの友達でアンタと同じように定期的に魔晄を浴びないと駄目な子がいたよ。もう治って元気に働いてるけどね」

ユフィの言っている友達というのはシェルクの事だ。
彼女も当初は魔晄を浴びなければいけない体だったがWROの医療技術を持ってなんとかそれを治す事に成功した。
成功した時のシャルアのあの笑顔は今でも忘れられない。

「へ〜、じゃあ僕もそれで治るかな?」
「分かんないけどやってみて損はないと思うよ」
「治療を受けれるか受けられないかはお前の態度次第だがな」
「裏切り者の手を借りずに体質も治せるなら喜んで優等生を演じるよ。なんだったらある程度の情報提供もするよ」
「ある程度、か」
「そこは見逃してよ。さっきユフィちゃんが言ったように世の中には知らなくていい事もあるんだよ。
 それと同じで世の中には言わなくていい事や言っちゃいけない事だってあるんだから」
「泥棒をしているだけの癖に随分危ない橋を渡ってきたみたいだな」
「泥棒なんかしてる時点で十分危ない橋渡ってるでしょ。それに情報収集は大切だしね」
「じゃあ、カームのセレブ街にいたのも情報収集の為?」
「ううん、あれは復讐の為」
「復讐?」
「さっき言ってた裏切り者、あれデベット夫婦の事だよ」
「えっ!?」

ユフィは驚きに目を見開き、ヴィンセントと顔を見合わせた。
やはりデベット夫婦はルファンと繋がっていたのだ。
いや、正確に言えば繋がりが“あった”と言うべきだろう。
どちらにせよ、クロである事に変わりはない。

「ま、デベットなんてのは偽名で、本当の名前はダグラス=グドゥラフとミアン=カトーネだけどね」
「ダグラス=グドゥラフとミアン=カトーネ・・・」

デベット夫婦の本当の名前をユフィは反芻し、紙に書き留めていく。
ルファンの言っている事が真実であるならば重要な証言だ。

「ここまで言えば分かると思うけどあの二人は夫婦じゃないから」
「お前に泥棒をやらせて金を稼いでいる間にあの二人は優雅な暮らしをしていたという訳か」
「そーいうこと。オマケに雑用とかさせられてさぁ。疲れるったらないよ」
「雑用?」
「家事だよ、家事。僕が泥棒をしてない時は家政婦に変装してあの二人の世話をしてたんだよ」
「ま、待てよ!家政婦ってレイクーンの前の?」
「うん。多分近所のおばさんたちから聞いてると思うけどあの二人と喧嘩して解雇された家政婦ってのは僕の事だよ。
 最初にも言ったけど、あの二人、僕のコレクションを一つ残らず全部売っぱらったからね。その事で喧嘩して袂を分かったんだ」
「だが復讐する為に潜伏していたのだろう?お前はどこにいて何をしていたんだ?」
「また家政婦になってアイツらの世話しながら告発の材料集めてた」
「家政婦って・・・レイクーン?」
「うん」
「本当なのか?」
「嘘ついてどーすんのさ。僕にメリットないでしょ」
「先日の日曜日にホームパーティーがあった時、私はお前の首に油性ペンで線を着けた。だが、それがなかった。
 勿論、油性ペンだから簡単には落ちないしそれなりに特殊な液体を使っている。だから数日かそこらで消える筈がない」
「ホームパーティー?・・・・・・あぁ、そういえばあるとかって聞いてたなぁ」
「聞いてた?誰に?」
「レイクーンから」
「・・・は?」

まるで意味が判らない。
ルファンがレイクーンに変装していたのにレイクーンからホームパーティーの事を聞いたというのはどういう事なのか。
どれだけ考えても理解する事が出来ず、頭に疑問符を浮かべるユフィ。
だがそれを察したルファンがその疑問に答えるべく口を開く。

「意味が判らないって顔してるね。いいよ、教えてあげる。ユフィちゃんの顔、すぐに色んなのに変わるから見てて面白いし」
「いいからさっさと吐け、レイクーンとは何なんだ」

自分が密かに楽しく思いつつも癒やしとなっていたユフィの表情についてルファンが口にしたのがヴィンセントの癇に障った。
流石のルファンもヴィンセントの急な苛立ちに驚きを隠せない。

「急に怒らないでよ、ちゃんと喋るからさぁ。レイクーンはねぇ・・・うーん・・・まぁ、拾った?感じ?」
「疑問形で言われても困るっての・・・」
「えっと、とあるセコイ金持ちの金を盗んだ時にレイクーンがその金を寄越せって言ってきたんだよ。
 自分が先に目をつけてたんだぞって。あの時の事は今でも忘れられないな〜。
 目を血走らせててさ、ドブネズミみたいな格好でいるもんだからちょっと怖かったよ。
 あまりにも女の子として憐れな姿だったから二人に黙って拾って身なりを整えてやって密かに色々仕込んでやったの」
「泥棒の技術をか?」
「うん。それにプラスして生きる為の術とかもね。ま、本人は泥棒に使うんじゃなくて主に寄生する為に応用してるみたいだけど」
「寄生って?」
「メイドとして金持ちの家に仕えるんだよ。給料とかいいし。
 で、その金持ちに飽きたり雲行きが怪しくなったら金目の物を盗んでドロン。そして次の寄生先を見つけるってわけ」
「中々質が悪いな」
「言っとくけど僕の所為じゃないよ?本人の生まれ持った性分ってやつだから」
「でもそんなレイクーンがよくアンタに協力しようって気になったね。
 アンタがデベット―――ダグラスたちを破滅させようと目論んでるってのにさ」
「技術を教えてやった恩があるからね。ま、持ちつ持たれつってやつかな」
「でもアンタって変装の達人なんだからレイクーンを利用する必要ってあったの?」
「そりゃ勿論、ダグラスたちを油断させる為だよ。自分たちで解雇したとは言え、僕のこと警戒してただろうし。
 それに入れ替わりのおかげで告発材料も集めやすくなったしね」
「ねぇ、アンタがさっきから言ってる告発材料って何?」
「んー、どーしよっかなー」

ルファンは目の前のユフィを見据えた後、チラリとヴィンセントに視線を送った。
鋭く、牽制するような目線。
ユフィにおかしな事を要求しようものなら間髪入れず殴ってきそうなほどの勢いだ。
番犬さながらの居住まいに思わずからかいたくなるが、罪を重くされたら嫌だ。
でも簡単には教えたくないのでルファンはヒントを出す事にした。
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