倉庫

□共犯
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授業中にペンで汚してしまった手を洗い終わって何となしに長く続く廊下を見る。
すると、ユフィが突き当りを右に曲がるのが見えた。
トイレに用でもあるのかと思ったが、トイレは突き当りを左に曲がった先にある。
右に曲がった所には実験室やら準備室やらの教室しかない筈だが・・・。

妙に思ったヴィンセントはユフィを追いかける事にした。


















「ユフィ」
「うへぁっ!?ヴィンセント!!?」

突き当りを右に曲がったって少し進んで更に左に曲がると、ユフィは一人でそこにいた。
手にお菓子を持っており、驚きと共に開かれた小袋から小さな板チョコが顔を覗かせている。

「・・・何をしているんだ?」
「な、何って・・・非常食の摂取」

さも当たり前だと言わんばかりに少女は言ってのけた。

「菓子類を食べていいのは昼食の時だけだが」
「仕方ないじゃん、七時間授業とか非常食摂取してないとやってらんないよ!」

確かに七時間授業はしんどい。
暗くなっていく空、六時間授業で終わって下校する生徒たちを恨めしげに眺めながらのラスト授業・・・。
憂鬱以外の何者でもない。

「まぁ、な」
「ほらほら〜でしょ〜?だから、いっただっきまーす!」

ユフィは小さな板チョコを摘むと口の中にひょいと放り込んだ。
幸せの一時を噛み締めようとするユフィにちょっとした意地悪を―――

「この事は日誌の規則違反者の欄にでも書いておくか」
「っ!!?」

瞬間、ユフィは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。

「ふ、ふざけんなよ!つか何で!?」
「一応日直だしな。報告はきちんとしないとな」
「うわ〜・・・ヴィンセント最悪。それが彼女にする事かよ」
「甘やかす事ばかりが恋人ではないだろう?」

恨みがましそうにユフィはヴィンセントを睨みつけたが、ヴィンセントからしてみれば楽しさ倍増である。
しかしまぁ、そろそろ可哀相なのでこの辺で勘弁して―――

「だったらこうしてやる」

突然、ユフィはヴィンセントのネクタイを引っ張ってヴィンセントの頭を下げさせると、唇をぶつけるように重ねてきた。
いきなりの事で身構える事の出来なかったヴィンセントはただ目を丸くする事しか出来ず・・・

「・・・ん、ん・・・」

小さく開いていた唇にぬるりと生暖かいものが何かを伴って侵入し、自分の舌にその何かを擦り付ける。
擦り付けられた所から口内に広がる甘い味覚や香りに目眩がした。
交わる吐息に興奮して侵入者を捉えようとするもチョッというリップ音と共に侵入者は逃げてしまった。

「これで共犯だかんね」

してやったりといった表情を赤い顔に浮かべながらユフィはそう言い放つ。
そしてそのまま何も言う事なく踵を返して逃げるように教室へと走って行ってしまった。
後に残されたヴィンセントは呆然と立ち尽くしていたが、始業のチャイムでハッと我に返る。

「・・・・・・やられた・・・」

口内に広がるミルクチョコレートは甘ったるかった。











END

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