倉庫

□ポケットの中のメモ
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昼休み


「ヴィンセントってポケットに何か入れてないの?」

机に頬杖ついてるユフィが突然そんな事を言ってきた。

「何だ?急に」
「何となく」
「・・・特に何も入っていないが」
「ホントに〜?真偽を確かめるべく、家宅捜査を開始するであります」

ユフィはビシッと警察の真似事をして敬礼すると、ヴィンセントのブレザーのポケットに手をツッコんだ。
その周りではセルフィたちがユフィと同じように敬礼をしている。
つくづくノリの良い友人だと思う。

「ん〜・・・何もなし」
「ホンマに?」
「うん、輪ゴム一つない」
「輪ゴム?」
「ユフィ捜査官、菓子類やメモ類はないでありますか?」
「一切見当たらないであります、リュック警部補!」

いちいちビシッと敬礼するユフィたち。
しかし残念そうな顔をされてもこっちは困るだけなのだが。

「ユフィ捜査官、夢や希望などといったものは入っていなかったでありますか?」
「アーヴァイン巡査部長、残念ながらポケットにあったのは残酷な現実と空虚だけであります」
「・・・失礼だな」
「え?じゃあ夢とか希望あんの?」
「・・・」

冗談半分とはいえ、聞かれても困る。
ヴィンセントが返答に困っているとビビが助け舟を出してくれてその場は何とかなった。

「ヴィンセント困ってるからその辺にしてあげなよ」
「はっ!ビビ長官が言うなら仕方ないであります」
「僕長官?なんか嬉しいかも・・・あ、もうそろそろ時間だよ」

言われて時計を見ると、長身の針が五時間目が始まるチャイムを告げる時間の五分前を指していた。
各々は広げた弁当やお菓子を片付け、合わせていた机を元に戻すと席に座っていく。
この時、ヴィンセントはユフィに探られたポケットの中が何となく気になって手を入れて探った。
すると手に紙のような何かが当たるのを感じた。

(メモか何かか?)

取り出して折り畳まれた紙―――メモを広げると、そこにはユフィの字で『帰りにコロッケ食べたい』と書かれていた。

「・・・」

チラリと隣の席に座るユフィに目をやると、ユフィはこれから始まる授業に対して早くも離脱する姿勢でいた。
その前にと、机を叩いて夢の世界へ旅立とうとする彼女の意識をこちらへと向かせる。

「ん〜・・・何?」
「食べたいなら帰りにそうしたらどうだ?」
「?何が?」
「これだ」

ピラッとユフィが忍ばせたであろうメモを見せる。
するとユフィは合点がいったようにあーっと返事をした。

「だって一人だもん」
「セルフィやリュックはどうした?」
「セルフィは学園祭実行委員で忙しくてリュックは学園祭の部活の出し物の準備」
「そして帰宅部のお前は一人という訳か」
「ヴィンセントだって一人の癖に」
「だが、お前であれば一人で買う事も躊躇いはないだろう?」
「まぁそーだけどさ。ただ今日は一人で食べたい気分じゃないなーって」
「それで私を誘った訳か」
「そーいうこと。でも悪い話しじゃないでしょ?惣菜屋美味しいし」
「ふむ・・・串カツはあるのか?」
「あるよ。何で?」
「今日はそれが食べたい気分だ」
「じゃあ買ったら一口頂戴」
「お前のコロッケも一口くれるならな」
「よし、交渉成立!ちゃんとお金あるか確認しとけよ〜?」

からかい混じりにユフィは笑う。
それで目が醒めたのかやる気になったのか、夢の世界に旅立つ姿勢から授業を受けるに相応しい姿勢になった。
しかし、ノートの隅に落書きを始めたので真面目に受けるかどうかは定かではない。

(二人で買い食いか・・・)

今まで二人で帰る事もあったが、買い食いする事はなかった。
あったとしてもセルフィやアーヴァインたちも一緒の事が多い。
けれど今回は初めて二人で一緒に買い食いするので、なんだかくすぐったかった。
早く授業が終わってくれないかと、ヴィンセントには珍しく授業中に頻繁に時計を確認するのだった。



そして今回の事がきっかけで、ユフィは捜査と称してヴィンセントのポケットを探る度にメモを入れるようになった。
そういう時は決まって帰りに何かしたいというユフィからの誘いなので、ヴィンセントは必ずポケットを確認するようにした。
また、ユフィが入れたメモが紛れないようにとヴィンセントのポケットの中は常に空の状態になるのだった。










END

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