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□友情と恋の違い
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休日――チョコボ牧場にて――


「おーっす、チョコ助。元気にしてたか〜?」
「クエーッ!」
「久しぶりだな、チョコリーナ。大会に向けて頑張るぞ」
「クエエ〜♪」

ユフィとエースはそれぞれの愛チョコボに挨拶をして頭や首を撫でる。
それぞれのチョコボも嬉しそうに二人に擦り寄る。

「そんじゃ、特訓するよ」
「頑張ろうな」

そう言って二人は鐙と手綱をチョコボに装備させると、チョコボを連れて走行用コースへと赴いた。
近々ゴールドソーサーで行われる一般人自由参加のチョコボレースが行われるので、二人はそれに参加するつもりなのだ。
参加するからには優勝しようと思い、こうして特訓に励んでいる。
そしてそんな二人の特訓を温かく見守る人間が二人―――ヴィンセントとデュースだ。
二人は走行用コースから少し離れた所に設置してあるベンチに腰掛けてエースとユフィの特訓を眺めている。

「お二人共、楽しそうですね」
「そうだな」

言葉を返してヴィンセントはチョコボに乗ってコースを走るユフィを目で追う。
ユフィとエースのチョコボの早さは同等で、横を並んで走っている。
声は聞こえないものの口が動いていて何かを話しているが、どこか楽しそうだ。
そんな光景に何も思わないでもないヴィンセントだが、静かに今の自分の感情から目を背ける。
正式に付き合っている訳でもない自分がユフィの笑顔を独り占めしたいなどと―――

「ユフィさんって魅力的ですよね」

暗く渦巻く感情に沈みそうになったヴィンセントの意識をデュースの言葉が現実に引き上げる。
見れば、デュースは複雑な気持ちが入り混じったような苦笑をしていた。
ヴィンセントはその苦笑に共感するものを覚えた。

「・・・エースはちゃんとお前を見ていると思うが」
「えっ!?あ、いや、別にそういう訳じゃないんです!ないんですけど・・・」
「エースがユフィに恋愛感情を持たないかと心配なのか?」
「な、何で分かるんですか!?」
「何となく・・・私も似たようなものだからかもしれん。付き合っている訳でもないのにな」

言ってヴィンセントは自嘲気味に笑う。
けれどその気持ちが判ってしまうデュースは胸が切なく痛むのを感じた。
エースと付き合う前の自分を見ているようだった。

「でも・・・ヴィンセントさんの想いを伝えればユフィさんはきっと応えてくれますよ」
「だといいがな・・・」
「絶対に伝わりますって!エースさんが言ってました、ユフィさんはよくヴィンセントさんの話しをするって!」
「ユフィが?私の?」
「だから頑張って下さい!諦めないで、ヴィンセントさんのありったけの想いをぶつけて・・・」

そこで言葉を切るとデュースは自分の言っている事に恥ずかしさを感じたらしく、顔を赤くしてバッと俯いた。

「す、すいません!勝手な事ばっかり言っちゃって!」
「いや、いい。むしろ励まされた」
「そう言っていただけると嬉しいです。でもきっと大丈夫ですよ。
 お二人を見てて思ったんですけど、ユフィさんにはヴィンセントさんのような落ち着いた人が似合うなって」
「そう・・・だといいな」
「そうですよ!ヴィンセントさんはどう思ってるんですか?」
「私は・・・出来る事ならユフィと共にいたい」
「その願いだけでも十分ですよ。私、応援してます」

ニッコリと笑うデュースのそれは優しさに満ち溢れており、エースがデュースに惹かれた理由が何となく分かった。
温かく応援された上にこんなにも優しい笑顔を向けられればエースでなくとも惹かれてしまうだろう。
加えてデュースは可愛い女の子だ、競争率は高かった事だろう。
そんな中でデュースのハートを射止める事に成功したエースは中々の強者である。

「そういえば先程、似たようなものって言ってましたけどヴィンセントさんもエースさんに何か思う所でもあるんですか?」
「まぁ、な」
「何ですか?」
「・・・エースは反則的な奴だとな」
「・・・似たような事考えてますね、私達」
「そうだな」

似たような思考であった事におかしくなって二人は小さく吹き出した。

「フフ、私達気が合いますね」
「ああ」
「それと私、今思ったんですけど」
「何だ?」
「エースさんを信じてるのは勿論なんですが、それでもエースさんがユフィさんの事を好きになる事はないんじゃないかって」
「理由は?」
「お二人のやり取りを見てると、エースさんのユフィさんへの接し方がシンクさんやセブンさんたちと変わらないなって。
 何だか見てて私達兄妹とのやり取りと変わらない感じがするんです。ヴィンセントさんはどうですか?」
「そうだな・・・同じかもしれん。ユフィは男の友達も多いが、接し方がそれとあまり変わらないな」
「失礼かもしれませんが、もしかしたらお二人はお互いの事を異性として認識してませんよね」
「それこそ兄妹感覚か友人で、それ以上でも以下でもないだろう」
「ですよね。それを聞けてなんだか安心しました」

そう言ってデュースはまたニッコリと笑みを零した。
安心したのはヴィンセントも同じで、心配事が解消されて気持ちが軽くなった。
いくらエースとデュースが付き合っているとはいえ、万が一の可能性がある。
それを考えるともやもやしていたが、デュースと言葉を交わした事でそれはなくなった。
今は穏やかな気持ちでユフィとエースを眺める事が出来る。
すると―――

「ねー!特別に二人乗り用のチョコボに乗せてくれるって!乗ろうよー!」

自分たちのチョコボを休ませたユフィとエースが二人乗り用のチョコボの手綱を掴みながら呼びかけてきた。
ヴィンセントとデュースは顔を見合わせて小さく笑い合った後、ベンチを立つのだった。
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