お題倉庫

□古いビデオテープ
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『やっぱ胸の大きい子か?ん?』
『それはお前だろ』
『じゃあ小さいのがいいのか?』
『別にそういう訳でもないが・・・』
『じゃあさ、強いて言うならどっちよ?』
『・・・・・・大きい方』

チラリとユフィは自分の小さくはないが大きくもない普通の胸を見た。

『だよなだよな!流石同志よ!』
『やめろ』
『じゃあ尻はどうよ?大きいのと小さいの、どっちがいい?』
『小さい方だな』

ユフィは自分のお尻を少し触ってみたが、やや小さ目であった事に少し安堵した。

『そこは小さいのがいいんだな』
『何でもかんでも大きいのがいいお前とは違うんでな』
『なにを〜?大きいのを舐めるなよ〜!って、あら。ビールなくなっちった。もう一本飲もっと。ヴィンセントは?』
『私もなくなった』
『ほ〜い』

男は返事をすると、少しして机の上に大量のビールを持ち運んで来た。
ヴィンセントも一瞬驚いたように表情が動いたが、すぐにそれは呆れ顔へと変わる。

『・・・誰もこんな大量に持ってこいとは言っていないが?』
『いいじゃんいいじゃん!今夜は飲み明かそうよ!』
『はぁ・・・お前という奴は本当に・・・』

溜息を吐きながらヴィンセントは二本目のビールの缶を開けた。
断っている事を言っていない辺り、飲み明かすつもりなのだろう。
現在のヴィンセントであればシドたちが薦めてきても大量に酒を飲む事はあまりないが、どうやら昔の彼は違うらしい。
昔はノリが良かっただけなのか、単に現在の彼は大人の酒の嗜みを楽しんでいるのかどちらなのか。
とにかく、映像のヴィンセントは撮影者の男と楽しく雑談をしている内にどんどんビールを飲み干していく。
やはりザルなのは昔からのようだ。
しかし大量に飲んでいる所為か、段々ヴィンセントは饒舌になっていく。

『やっぱさぁ、デートいくならどこ行くよ?』
『洒落た街の二番街もいいが、ジュノンも捨てがたいな』
『あそこ田舎だぜ〜?いくら会社が手を入れようとしてるからってよ〜』
『たまには田舎の空気だって吸いたくなる。それにあそこで見れる夕陽は格別だ』
『コスタとの違いは?』
『賑やかそうでないかの違いだな。私は静かな方が好きだ』
『お前の彼女になる子は大変かもな〜。それよかさ、プロポーズの言葉とか考えてる?』
『彼女もいないのに考えてる訳ないだろ』
『でもいつか出来た時に慌てて作るよりかは用意しておいた方がいいと思うぞ〜?』
『そうか?』

ヴィンセントの言う通り、今ここでプロポーズの言葉を考える必要はない。
だが、この撮影はあくまでもヴィンセントのファンへ贈るものなので、サービスのつもりなのだろう。
もっともユフィはプロポーズの言葉も愛もヴィンセントから貰ったので満足しているが、これは少し聞いてみたい。
今と昔でどれだけ台詞が違うのか検証してみる事にした。

『ほらほら、目の前に好みの彼女がいると思ってプロポーズの台詞の練習してみなって!』
『なら・・・―――お前とこうして付き合うのも随分長くなるな。最初は不安だった。
 タークスという職業に就いている以上、危険が降りかからないという保証もない。
 何よりもお前をちゃんと幸せに出来るかどうかさえ自信がなかった。
 楽しい事や喧嘩する事など色々あったが、今こうしてお前が傍にいてくれる事が何よりも嬉しい。
 まぁ、何だ・・・今なら自信を持って大きな声で叫べる。私は―――』

瞬間、ブツッという音と共にビデオの再生が強制終了された。

「ああっ!!」

ユフィ自身はボタンを押していない。
それどころか手に持っていた筈のリモコンが消えていた。
そこでようやっと気づいた気配に目を向ければ、真後ろにリモコンを持ったヴィンセントがいるではないか。

「うわっ!ヴィンセント!!いつからそこにいたんだよ!?」
「・・・少し前からだ。それよりこれをどこで?」
「神羅屋敷」
「・・・そういえば没収したな、アイツから」
「それよか折角いいとこだったんだから消すなよー!」

ユフィがヴィンセントからリモコンを奪おうとすると、素早くリモコンを高く挙げられ、後ろから抱きしめられた。
バタバタと暴れて抜けだそうと試みるが、がっしりとしたヴィンセントの腕はびくともしない。

「は〜な〜せ〜!」
「残念だが鑑賞会は終わりだ」
「別に見たって減るもんじゃないじゃん。巨乳が好きなヴィンセントさん?」
「・・・何?」
「このビデオの中で昔のヴィンセントは言ってたんだかんね!どっちかっていうと胸が大きい子が好きだって!!」
「・・・」

ヴィンセントはリモコンを遠くに置いて額に手を当て、細く長く溜息を吐いた。
どうやら発言に覚えがあるらしい。
それを見てユフィは唇を尖らせてイジケ始める。

「そりゃアタシの胸は大きい方じゃないけどさ・・・でも小さくはないし」
「私が一度でもお前の身体に不満を言った事があったか?」
「ないけどさぁ・・・でもやっぱ気にするじゃん?」
「若気の至りだ。昔はそうだったとしても今は違う。お前の全てを私は愛している」
「そ、そういう事をさらっと言うなよ・・・」

ユフィは顔を赤らめると、その身体をヴィンセントに預けた。
どうやら機嫌を良くしたようなので、オマケに優しく頭を撫でてやる。

「でもヴィンセントのプロポーズの台詞気になるから見せてよ」
「ダメだ」
「いいじゃん、ネタにしてからかったりしないからさ〜」
「絶対にやるからダメだ」
「絶対にしないって!」
「悪いがそこだけは信用出来んな」
「しないってば!!」
「ダメだ」
「じゃあさ、あそこ飛ばしていいからその後の見せてよ。内容的にはまだまだありそうだったからさぁ」
「それもダメだ」
「ヴィンセントのけちっ!」

何と言われようともヴィンセントは絶対に譲らなかった。
随分昔の物であるとはいえ、このビデオの内容をヴィンセントは覚えていた。
ただでさえこのプロポーズの台詞だけでも目を覆いたくなるのに、この後更に酷い展開が待っている。
言わばこれはヴィンセントにとっては黒歴史映像のようなもの。
自分の尊厳の為にもこれ以上の上映をする訳にはいかない。

「ホントはアタシに見られたらマズイものでも映ってるから見せたくないんじゃないの〜?」
「フッ、どうだろうな?」
「え・・・?う、嘘だよね?」
「嘘だ」

瞬間、ユフィの世界が反転してヴィンセントがユフィを見下ろす形となった。

「ちょっ、何でこうなるんだよ!?」
「お前があまりにもしつこいからだ。このビデオの事がどうでもよくなるよう身体に言い聞かせなければな」
「ま、待ってよ!まだ昼間、んん・・・!」

その後、『秘蔵!!』のビデオはヴィンセントによって完膚なきまでに処分されるのであった。











END
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