お題倉庫

□ペアの食器たち
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ユフィとヴィンセントが住む家の食器棚には色々な食器がある。
ウータイ特有の食器やアイシクル特有の食器、他にも色んな地域特有の皿が細々とある。
これらは二人が任務で各地域に赴いた時に買ってきた食器だ。
とは言っても主にユフィが買ってくるのだが。
そしてその多くがペアの食器だったりする。
ユフィはペアの方が可愛かったから、と言うが実はヴィンセントとペアの食器を使いたいという気持ちの裏返しなのだ。
この事をヴィンセントは感じているもののあえて口には出していない。
わざわざそんな事を言うのも無粋というものである。


しかし、ある日のこと―――


「ぬぁあああああああああああ!!」

夕食後の片付けをしている時に皿が割れる音と共にユフィの悲痛な絶叫が室内に響いた。
驚いて見れば、ユフィのお気に入りの丸まって寝ている猫がプリントされている皿が割れて床に散っているではないか。

「さいあく〜!お気に入りだったのに〜・・・」
「私が片付けるからお前は掃除機を持ってこい」
「うん・・・」

涙目のユフィを皿の割れた範囲から遠ざけて破片を慎重に拾う。
今回割れた皿はペアの食器で、そうなるとヴィンセントの方の皿は片割れを失ったことになる。
そうなってしまった食器が辿る末路はただ一つ。

(あそこの仲間入りだな)

戸棚の二段目、未亡人ならぬ未亡食器ゾーン行き待った無し。
二段目は片割れを失った食器たちが集う棚。
まぁ、だからと言って使わない事はないのだが。

「掃除機持ってきたよ」
「ああ、ありがとう」

ユフィから掃除機を渡されて飛び散った小さな小さな破片を入念に吸い取る。
足に刺さって怪我をしたら大変なので何度も何度も掃除機をかけた。

「これでいいな」

数分くらいして掃除機のボタンを止め、ユフィに掃除機を片付けさせた。
その間に取りこぼしがないか確認して片割れとなった自分の食器を未亡棚にしまった。
ついでに他の食器もしまって夕食後の片付けを完璧に済ませる。
丁度終わったタイミングでユフィが戻ってきた。

「ありがとね、ヴィンセント」
「怪我はしなかったか?」
「うん、ダイジョブだよ。それにしても・・・あーあ、この皿お気に入りだったのにな〜・・・」
「仕方ない、形ある物はいつか壊れる」
「うぅ・・・他の未亡人になった食器と仲良くね、ヴィンセントの皿」
「・・・なんだか生々しいな」
「はぁ〜あ、気分転換にお茶飲も。ヴィンセントも飲む?」
「ああ」

ユフィは悲しみを乗り越える為にお茶の準備を始めた。
今度は絶対に割らないようにと戸棚から慎重且つしっかりと握られて取り出されたのは素朴な桜柄の夫婦湯のみ。
ウータイへの里帰りについて行った時に、ユフィが柄が気に入ったからという事で購入したものだ。
『夫婦湯のみ』という響きから察するに夫婦、或いはその前提の者達が使うのだろうが、ユフィはどこまで考えているのか。
まぁ、どの道そういう風になる日はそう遠くはないのだが。

(だが、もう少しだけこの関係を続けていたい)

「はいよ」
「ああ」

ユフィの湯のみよりほんの少し大きめの青い湯のみを受け取って熱々のお茶に軽く息を吹きかける。
食後のコーヒーもいいが、お茶もまたいいものだと最近知った。

「あ〜お茶美味しい〜」
「少しは慰めになったか?」
「うん、ちょっとはね。てかさ、今度カームで食器市ってのやるんだって。見に行かない?」
「いいだろう」

お気に入りの皿を割った直後に次の皿を探しに行く事を匂わす誘いに苦笑しつつヴィンセントは承諾した。
ユフィらしいと言えばユフィらしい。
きっと気に入った物があれば買うだろうし、ペアの食器もあれば買うだろう。
その時は自分も積極的になって選ぼうとヴィンセントは心に決めた。


少し前まではペアの物を持つ事に何の喜びがあるのかあまり理解が出来なかった。
というよりも、最早それとは縁がないと思って理解する事をやめていたのかもしれない。
けれどユフィと出会い、彼女と共に歩み始めてからその喜びが少しずつ分かるようになってきた。
ペアの物を持つという事は同じものを共有すること。
愛しい存在であるユフィと同じ物を共有出来る喜びをヴィンセントは大切に噛みしめるのであった。











END

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