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□香水のにおい
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寝室に入ると、ふと甘い香りがヴィンセントの鼻腔をくすぐった。
その香りはヴィンセント好みの香りで、絶妙にほんのりと香っている。
自分に香水の趣味はないので、この家で香水を使うとしたらそれはただ一人―――

「お前が香水を使うとは珍しいな、ユフィ」

ヴィンセントのパートナーであり、恋人のユフィである。
ユフィは丈の短いネグリジェを着ており、スマホを片手に寝転がっている。
こちらに体を向けるようにしてベッドから足を放り出しているので、ユフィの魅力の一つである足が無防備に晒されていた。
更に丈が短いのも相まって太股から先が見えそうで見えないという絶妙なギリギリさ加減に内なる火が燻る。

「お、ヴィンセント。気が付いた?」
「ああ」
「着け過ぎでキツくない?」
「問題ない。いい香りだ」

小さく笑みを浮かべるとヴィンセントはベッドに歩み寄ってユフィの隣に腰掛けた。
ユフィはスマホをサイドテーブルに置いてバッと身を起こすとヴィンセントに擦り寄った。

「どうどう?大人っぽいでしょ?色気たっぷりで襲いたくなったでしょ?」
「誰が誰を襲うんだ?」
「え〜普通言っちゃう〜?そんなこと〜」

途端にユフィは興醒めだと言わんばかりに盛大に溜息を吐くと、ドスンっと再びベッドに横になって拗ね始めた。
流石にからかい過ぎたと反省したヴィンセントはユフィに半ば覆い被さりながらご機嫌取りをする。

「冗談だ、そう拗ねるな」
「ふーんだ、ヴィンセントなんかもう知らない。明日合う依頼人の社長に靡いちゃおうかな〜?」

明日、ユフィは任務でとある会社の社長と接触する事になっている。
その社長というのは青年実業家で年も若く、中々の美青年だとか・・・

「・・・それは困るな」

感情のこもってない声でヴィンセントは呟き、ユフィの白く細い首筋に唇を寄せる。

「・・・痕付けないでよ」
「浮気させない為だ」
「ちょっ、冗談に決まってんじゃん!マジでやめてってば!」
「なら、浮気はしないか?」
「しないっての!つか、する気なんかないし」
「それなら安心だ」
「その代わりヴィンセントもこれからはちゃんと素直に褒めろよな」
「ああ、分かっている」

ヴィンセントは微笑をして今度は項にキスを一つ落とした。
それから後ろから抱きしめるとユフィはその身を委ねてきたので、どうやら機嫌は治ったようである。

「・・・明日その香水を着けては行くまい?」
「そりゃ勿論。お出かけ用とかにちょっと着けるだけだよ。ヴィンセントと出かける時にね」
「私と?」
「そ!このあま〜い香りとアタシの魅力でヴィンセントを誘惑してなんか買ってもらおうかな〜って」
「そんな作戦が上手く行くとでも思っているのか?」
「思ってるから言ってんじゃん。だってヴィンセント、今アタシにメロメロでしょ?」

腕の中でくるりと振り返ったユフィは勝ち気な表情を浮かべていた。
それに対してヴィンセントは笑みを返すが、それは挑戦的な笑みでも微笑ましく思う笑みでもなく、諦めにも似たものであった。
反論をしたい所だが、反論の言葉が喉の奥から出てきてくれない。
それなのにこの現実を肯定してしまう言葉だけがヴィンセントの口から放たれる。

「―――そうだな」

敗北を認めるようにヴィンセントはユフィに口付けをする。
勝利の口付けは気持ち良く甘美なもので、それをもっと要求するようにユフィは上目遣いでヴィンセントを見上げた。
勿論、敗戦者のヴィンセントに拒否権はない。

「ん・・・」

望み通りに深く熱っぽいキスをユフィに施す。
互いの舌がねっとりと絡み合い、くちゅ、くちゅ、と唾液が交じり合う音が二人の耳を犯す。
しかしヴィンセントの方はこれに加えて香水の香りが鼻腔を満たしてくる。
だから、ここまで来て止めるなどという無粋な真似はせず、キスを交わしたままユフィのネグリジェの肩紐をずらして脱がした。

「あ、ん・・・ヤ」

口で嫌だと言っておきながら黒曜石のような瞳は期待で一杯の眼差しを向けてくる。
これも望み通りにと、ヴィンセントはスルスルとユフィの体からネグリジェを脱がしとった。

「―――っ」

ユフィの肌が曝け出されたのと同時に香水の香りがより一層強くなった―――気がした。
そしてそれは瞬く間にヴィンセントを酔わせ、理性を焼き尽くしていく。

「ユフィ・・・!」

ユフィの唇に食らいついて“大人の女”の体になりつつある体をほぐしていく。
その最中、なんだか酒に酔ったような気分だ、という感想が頭の隅を過った。

(ああ、そういえば)

香水の原材料にはアルコールも含まれている事をヴィンセントは思い出すのだった。










END

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