お題倉庫

□座布団
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ウータイに伝わる便利道具・座布団。
フローリングや畳の座り心地などに耐えられない時にお尻の下に敷く物だ。
それだけでなく、半分に折りたためば枕代わりにもなる。
やや固めではあるが、不満はない。
むしろ、リビングに置いておけばいつでもカーペットの上で心置きなく昼寝が出来るので大変重宝するのだ。


そんな訳で休みの日の昼下がりの午後。
ヴィンセントは自室から持ってきた読みかけの小説を手に、座布団を半分に畳んで枕にすると、ごろんと横になった。
眠たくなるような陽気と柔らかな風に誘われて眠ろうかとも考えたが、小説の先が気になる。
負ける訳にはいかない。

「・・・」

体をソファがある方に向けてどっぷりと小説の世界に浸る。
読み耽っている時のヴィンセントにとって時間間隔など最早ない。
だから、どれくらい経った頃だろうか。
今の体勢がキツくなって反対側に寝返りを打つと、いつの間にか座布団の半分にユフィが頭を乗せているではないか。
しかもユフィはこちらに背を向けて何やらスマホで遊んでいる。
一瞬驚きこそしたが、割といつもの事なので、いつものようにヴィンセントはユフィに尋ねた。

「・・・私が使っているんだが?」
「えへへ」

苦笑交じりに溜息を吐くと、ヴィンセントは小説に栞を挟んで床の上に置くと、ユフィを後ろから抱きしめた。
そして片方の手を伸ばし―――ユフィの鼻を摘む。

「むぎゅっ」
「・・・フッ」
「何すんだよ」
「気にするな」
「今すぐ離せコノヤロー」

けれどユフィの言う事を聞かずに鼻を摘んだまま左右に揺らして遊んでいると、ぺしっと手で払われしまった。
ま、そりゃそうなる。
ヴィンセントは払われた手をユフィのスマホに伸ばし、今度はそれを取り上げた。

「あ、おい!」

携帯兼暇潰しを取り上げられてユフィは少しムッとした表情でそれを追いかけた。
ヴィンセントは仰向けになって限界まで腕を伸ばし、ユフィのスマホを遠ざける。
それを追いかけてユフィが仰向けになったヴィンセントの上に転がると、空いている方の片腕でガシッと抱き留められてしまった。

「か〜え〜せ〜!」
「・・・」

ヴィンセントの上でもがくユフィだが、抱き留める力が強くて思うように前に進めない。

「何?そんなにアタシが座布団半分使ってるのが気に食わない訳!?」
「別にそういう訳じゃない」
「だったら離せ〜!」
「ジャンケンでどうだ?」
「は?」
「ジャンケンでお前が勝ったら返そう」
「・・・いいよ。最初はグー!じゃんけんぽん!!」

ユフィはグーでヴィンセントはチョキ
勝者、ユフィ。

「いぇ〜い、アタシの勝ち〜!ホラ、約束通り返してよ」
「三回勝負だ」
「はぁ!?卑怯だぞ!!」
「誰も1回勝負とは言っていない」
「子供か、アンタは!」
「お前がいつもやっている事だ。それよりやるぞ」
「こんにゃろー・・・」

ユフィはピクピクと青筋を立てながらも仕方なくヴィンセントとジャンケン勝負をした。
こんな時こそ勝てれば面白いのだが、こんな時に限って負けてしまうのがお約束。
そんな訳でヴィンセントは見事に負けてしまい、渋々ユフィにスマオを返す事となった。

「最初っからこうなるんだから素直に返してれば良かったんだよ」
「・・・」

ユフィへの意地悪があっさりと終わりを告げてしまい、理不尽にも釈然としないヴィンセント。
そんな彼はささやかな反抗として、ガッシリとユフィを抱きしめたまま横を向く。
向い合って抱きしめている為にユフィは十分な距離を空けてスマホを見る事が出来ない。

「ヴィンセント〜?」
「・・・スー」
「オイコラ、寝たフリすんな」
「・・・」

尚も寝たフリを続行するヴィンセントにユフィは不満を抱かずにいられなかった。

『レッツゴーレッツゴーレッツゴーゴー!!』

「・・・煩い」

音楽アプリを開いて適当に選曲し、音量を大きめにする事でユフィはヴィンセントに反撃した。
予想通りヴィンセントは顔を顰め、暗に止めるようにと呟くが、勿論そんな抗議をユフィが受け付ける筈がない。

「じゃあ離してよ」
「・・・」

お互いに無言のまま、力強い音楽だけが二人の間に流れる。
このままヴィンセントが沈黙を貫くのならば根比べだとユフィは静かに構える。
が、そんなユフィの予想を越えてヴィンセントはそっとユフィの耳元に唇を近づけた。

「―――ユフィ」

ビクッ、とユフィの体が甘く震える。
同時に動悸が早くなっていく。

「な、なんだよ・・・」
「少し前に面白い小説を読んでな・・・ある所にウータイの忍びの女がいて、その女は任務である男と接触する事になった。
 そしてその男から情報を引き出さなければならないのだが、中々引き出すのが難しい男でな。
 そこでウータイの女はどうしたと思う?」

ユフィの弱点でもある、ヴィンセントの声を直接耳に吹きかけるという行為の所為でユフィの頭はまともに働かない。
「さ、さぁ・・・」と返すユフィにヴィンセントは爆弾を落とす。

「セックスで誘ったんだ」

また、ビクッとユフィの体が震える。
今度は疼きからだ。

「これが一番手っ取り早く、且つスムーズに情報を引き出せると思ったからだ。そこで最初に女は―――」

逃げようとするユフィの後頭部を抑えながらヴィンセントは小説もとい官能小説の語りを続ける。
ただでさえヴィンセントの声に弱いというのに、そこに巧みな官能表現を使ってくるものだから体が疼いて仕方ない。
しかもその小説の登場人物である女のモデルが明らかに自分で、尚更想像力が働いて体を熱くさせていく。
勿論、相手の男はヴィンセントに設定して―――。

「女の舌使いは中々のものだったが、男も負けておらず―――」
「す、ストップ、ヴィンセント・・・アタシが悪かったから、もう・・・」
「ここからが肝心な場面だというのに、やめる筈がないだろう?」

ユフィの懇願をあっさり切り捨ててヴィンセントは語りを続行する。
気を紛らわそうと先程までスマホで流していた音楽の音量を上げようとするも、気付けばスマホはユフィの手元にはなかった。
ヴィンセントの声と語りにユフィが体を熱くしている間にヴィンセントが取り上げていたのだ。


結局抗う術を失くしてしまったユフィはその後も語りを聞かされ続け、体を疼かせられるのであった。








END

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