お題倉庫

□雨漏り
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スーパーで買った食材が入っている袋を抱え、一軒の古いアパートへ。
やや錆び付いている階段をカンカンとリズムよく登って奥の扉まで進み、インターホンを鳴らす。
部屋の主がいなければ貰った合鍵で開けるのだが、今日はいる筈。
そして数秒待つとすぐに扉が開いた。

「よっ!」
「来たか、上がれ」

元気良く挨拶するユフィにヴィンセントは小さく笑みを返して中に招き入れた。
ユフィは中に上がるなり手を洗うと買ってきた食材を次々と冷蔵庫にしまっていった。
ヴィンセントと付き合い始めてからはしょっちゅう泊まりに行ったりしているので色々遠慮がないのだ。

「今日のご飯はカツ丼!」
「そうか」

とても短い一言ではあるが、そこには楽しみが含まれているのをユフィは知っている。
今日は腕によりをかけようと思った。












夜になり、就寝の時間がやってきた。
寝間着に着替えた二人はベッドに潜り込み、ほぼ密着する形で眠りに就く。
元々一人用のベッドに二人で寝るのだから密着するのは当然だが、恋人同士なので問題はない。
まぁ、ヴィンセントが眠るユフィを前にして頭を悩ます夜は多々あるのだが、この話はまた後で。

しかし、どれくらいの時が経った頃だろうか。

「・・・?」

今日も今日とてユフィの寝顔を眺めつつ本能を抑えていると、足元に場違いな冷たさを感じた。
気になって見てみれば―――雨漏りで滴り落ちてきた雨水が布団の上に落ちてきているではないか。
窓の外に目を向けると、ザァザァと雨が激しく降り注いでいた。

「ユフィ、起きろ」
「んん・・・どしたの?」
「雨漏りだ」
「へ?雨漏り?」
「ああ。こうなってはもうベッドは使えない。床で寝るぞ」

言ってヴィンセントは立ち上がり、とりあえず雨漏りによる布団の水浸しを回避する為に鍋を取りに行った。
が・・・

「ヴィンセント〜、あと3つ追加」
「何?」

嫌な予感がして振り返れば、ベッドの真上だけでなく、部屋のあちこちから雨漏りが発生していた。
ヴィンセントは深く溜息を吐いたが、ベッド以外の他の雨漏りは床に落ちているだけなのが救いだった。




ポタッポタッポタッと天井から雨の雫が滴っては鍋やボウルの中に落ちていってその量を増していく。
そんな静かな音に聞き入りながらユフィとヴィンセントは壁に寄りかかってその光景を眺めていた。
ユフィはすっかり目が覚めてしまい、暇なのでヴィンセントに話しかけた。

「なんでこんなボロいアパート住もうと思ったの?」
「住める所ならどこでもいいと適当に決めた。結果はご覧の有様だがな」
「今度からはちゃんと調べてから決めろよな」
「そうするとしよう。壁も薄いしな」

苦笑してヴィンセントはそっと薄い壁に触れた。
つい先日、ユフィと男女の一線を越える時が訪れたのだが、隣人の絶え間ない笑い声の所為でムードが台無しに。
結局一線を越える事は見送りとなったが、勿論二人は諦めていない。
どこか旅行に出かけてそこで、というのが今の所のプランだ。
ユフィの家で、という案もあったがユフィの隣にはWROの職員が住んでいる。
別に職場で頻繁に会う人物ではないのだが、やはり気持ち的にも無理だという事になった。
ユフィはヴィンセントの肩に頭を乗せて静かに尋ねる。

「でもさ、真面目な話、引っ越ししないの?ここからWROまでちょっと遠いし不便でしょ?」
「ああ」
「だったら尚更引っ越した方がいいんじゃない?任務でお金は十分稼いでるんだし。あ、もしかして浪費家とか?」
「それはない」
「だよね。ヴィンセントが浪費してる所なんて想像つかないし。住みたいなって思ってる部屋とかないの?」
「一応考えてはある」
「ふーん、どんなの?」
「ここよりも広く、なるべく本部に近い」
「ふんふん」
「端の部屋で周りに職場の人間が住んでいない」
「ふんふん」
「それからいくつか部屋がある・・・部屋は3つほしいな。寝室には大きなベッドを置こうと思っている。二人分寝れるくらいのな」
「ふんふ・・・ん?」
「二人で座れるソファも置いて、二人分の椅子とテーブルも置く予定だ。二人で住むから冷蔵庫も大きのが必要になるな」
「そ、それって・・・」
「後は・・・そうだな、お前はどう思う?」
「え、えっと・・・!」

ユフィの鼓動が煩く高鳴る。
喜びにはしゃぐ思考を無理矢理抑えつけて必死にヴィンセントに応えようとする。

「て、テレビは大きいのがいいんじゃない?広い部屋に小さいテレビは寂しいし、大きい方が一緒に見れるし。
 あと食器棚も必要なんじゃない?一人暮らしならキッチンの戸棚とかで十分だけどそれ以上ならそうもいかないよ」
「ああ、そうだな」
「それから、えっと、後はなんだろ・・・後は住んでみて足りないものがあったら調達すればいいんじゃない?」
「それもそうだな。後は部屋を探すだけだ・・・一緒に探してくれるか?」
「も、勿論!明日すぐ行こうよ!休みなんだしさ!!」

ユフィは力いっぱいヴィンセントの腕に絡みき、満面の笑みを浮かべていった。
暗がりで判らないが、その頬はきっと赤く染まっている事だろう。
より一層身を寄せ合いながら二人は明日を迎えるのであった。











END

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