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□ふかふかソファ
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冬の寒さは強烈なものである。
少しでも肌が外気に晒されているとすぐに冷え込んでしまうからだ。
オマケに寒さで感覚がなくなるし、手が悴めば細かい作業がぎこちなくなり、捗らなくなる。
例えば現在のヴィンセントのようにソファに座って本を読んでいる時などは手が悴んでページが上手く捲れないなど。

「・・・寒いな」

無表情で言う彼だが、その言葉は本心から出てきたものであるのに間違いはない。
ストーブなんかは効いてるようで効いてないという有様。
いや、もしかするとストーブの熱気にも勝る寒さなのかもしれない。
こんな時は―――

「ふい〜。出たよ〜」

風呂から上がってモコモコのパジャマに包まれたユフィがリビングに入ってくる。

「・・・ユフィ、ここに座れ」

自分の隣をポンポンと叩いてユフィを招く。
招かれたユフィは「なにー?」と首を傾げながら何の警戒もする事もなくヴィンセントの隣に座る。
素直にやってきたユフィに内心ほくそ笑みながら両手でユフィの頬を包む。

ピトッ

「ひゃっ!?ちべたっ!いきなり何すんだよ!」
「手が悴んで寒いから暖を取ろうと思ってな」
「だからってアタシで取ろうとすんな!」
「固い事を言うな」

薄く笑ってユフィを押し倒し、風呂から上がりたての体を抱きしめる。
その際にユフィの足の甲に自分の冷えた足を押し付ける。

ピトッ

「うひゃっ!?だから冷たいっての!」
「私は温かいから問題ない」
「アタシの方は問題あるっつの!」

抗議するユフィを無視してパジャマの裾から両手を背中の方へと忍ばせ、冷たい両手を押し付ける。

「つ〜め〜た〜い!」

冷たさに震えるユフィをこれまたスルーして裏や表に返しながらユフィから熱を奪い取る。
それをする度に震えるユフィの体がなんだかおかしかった。

「お前は暖かいな、ユフィ」
「そりゃどーも!それより早く風呂入れよ!」
「もう少しだけこのままでいさせてくれ」
「全く・・・後もう少しだけなんだからね」

なんだかんだ言って許してくれるユフィに甘えながらヴィンセントはユフィの温度を堪能した。
どれくらいか経った後にヴィンセントの手足はユフィと変わらない温度まで戻り、離れなければならなくなった。
名残惜しい限りではあるが、このまま寝てしまって二人一緒に風邪を引く訳にはいかない。

「風呂に入ってくる」
「んー」

立ち上がって風呂に向かおうとした時、ユフィに呼び止められた。

「あ、ちょっと待ってヴィンセント」
「何だ?」

チュッ

「・・・」
「・・・鼻も冷たいじゃん。熱さで鼻が赤くなるくらい湯船に浸かるんだよ!」

頬を赤く染めながらもニカッと笑うユフィに面食らって「ああ・・・」としか返せなかった。
不意打ちをされるとは自分もまだまだだなと思った。











それからしばらくして・・・


「上がったぞ」
「んー。ヴィンセント、ちょいここ来て」

風呂から上がると、今度はユフィの方から自分の隣をポンポンと叩いてヴィンセントを招いた。
何をするつもりなのか大体想像がつくが、だからといって乗らないヴィンセントではない。
薄く笑みを浮かべつつユフィの隣に座った。

「どうした?」
「えいっ」

ピトッ

ユフィの冷えた両手がヴィンセントの頬を包む。

「冷たい」
「お返しだよ」

フフン、と悪戯っ子のような笑みを浮かべるやいなやユフィはヴィンセントをボフン!とソファに押し倒した。
そして少し前のヴィンセントと同じように冷えた足をヴィンセントの足の甲に押し付けた。

「ど〜だ〜?冷たいだろ〜?」
「ああ。私が風呂に入っている間にこれだけ冷たくなっていたとはな」
「ヴィンセントが出て来るの遅い所為でこうなったんだから責任取れよー」
「先に布団に入ってても良かったんだぞ?」
「一緒に寝るって決めてたからそんな選択肢はありませ〜ん」

ヒヒッと笑ってユフィの両手がヴィンセントの頬から離れてパジャマの裾から中に侵入してきた。
ユフィの冷たい手がヴィンセントの逞しい腹筋の上を辿り、鳩尾までに辿り着こうとする。
しかし、されるがままのヴィンセントではなく、ユフィとの体制を逆転させてユフィを押し倒した。

「そうはさせると思ったか?」
「あ、ずるいぞ!」

対抗してユフィもヴィンセントとの体制をまた逆転させようとする。
そうしたじゃれあいが繰り広げられ、最終的にはヴィンセントがユフィを自分の体の下に丸め込むように包んで固める形になった。
二人分の体重がのしかかっている所為でさすがの柔らかいソファもギシギシと軋む音を立てる。

「ちょー!もうギブギブ!は〜な〜せ〜!」
「フッ・・・」

白旗を揚げたユフィに対して勝ち誇ったように笑い、ヴィンセントはユフィを解放した。
やや乱れた髪を整えながらユフィが悔しそうに言葉を漏らす。

「くっそ〜」
「まだまだ修行が足りんな」
「次は絶対に負けないなんだかんな!」

ビシッ!と人差し指を突き立てるユフィの指をどけてヴィンセントはソファから立ち上がって言った。

「宣言するのもいいが、そろそろ寝ないか?」
「あ、うん!寝る!」

ユフィはぴょんっとソファから下りるとヴィンセントの腕に絡みついた。
腕に当たる体温と柔らかな感触に、己の中の獣が暴れだしそうになったがなんとか堪える。
そうして寝室に到着し、二人揃ってベッドに横になりかけた時だった。

「ユフィ」
「ん?」

チュッ

「鼻が冷たくなってるからしっかり布団に入って温まるんだぞ」
「うん・・・!」

今度こそヴィンセントが横になると、ユフィは「エヘヘ」と言ってヴィンセントの胸に飛び込んできた。
そんなユフィにしっかり布団をかけてやって寒さから護るようにヴィンセントは抱きしめた。












END

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