お題倉庫

□システムキッチン
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油を引いたフライパンから白い煙が上がり始めたのを見計らい、卵を割って落とす。
ジュウウウという油と卵が交じり合う音が耳に届いて食欲を掻き立てる。
すかさずに二個目を割って落とし、蓋をする。
パチパチ、と蓋越しに聞こえる油が跳ねる音に耳を澄ませながら、じっと蓋のガラス部分の向こうを注視する。

(今だな)

蓋を開けて油が大きく跳ねる音に構わず、ヘラを挿し入れて半熟目玉焼きを野菜を盛った二枚の皿にそれぞれ移していく。
中々の出来栄えに我ながら感心していると、後ろからドン、という衝撃を受けて少しよろめく。

「ベーコンも焼いてよ」

ほのかな石鹸の香りに口元を緩ませ、無邪気なオネダリをしてきた声の主の方を振り返る。
そこには、黄緑色のバスタオルを巻いた、風呂から上がりたてのユフィがはにかんだ笑顔でこちらを見上げていた。
バスタオルからチラリと覗く、自分が付けた赤いシルシが昨夜情事があった事を物語っている。

「何枚だ?」
「二枚!」
「いいだろう。だが―――」

ヴィンセントはフライパンとヘラを置いて体ごとユフィの方を振り返り、

「そんな格好でいると、お前を先に食べてしまうぞ」

おはようの挨拶も兼ねて小さな唇に自分のそれを重ねた。

「ヴィンセントだってそんな格好でいるとアタシが逆に食べちゃうぞ〜?」

上半身裸にジーパンというヴィンセントの出で立ちを指摘して今度はユフィの方からつま先立ちをしてキスを仕掛けてくる。
しかしヴィンセントのとは違ってじゃれついてくるようなキスで、ユフィらしく可愛らしかった。

「冗談はさておき、着替えてこい。このままでは風邪をひくぞ」

ユフィの頭を撫でてやって着替えるように促す。

「んー」
「ついでに、私のTシャツも持ってきてくれ」
「仕方ないな〜」

満更でもなさそうに言いながらユフィは寝室へ足を向けた。
寝室に消えていく背中を見送ってからヴィンセントはフライパンに火をかけ、冷蔵庫からベーコンを取り出した。
自分の分とユフィの分、計四枚のベーコンを手際よく調理して皿に盛りつける頃にユフィが寝室から出てきた。

「持ってきたよ」
「ああ、悪いな」

差し出された黒いTシャツを手に―――取らず、ユフィが着ているヴィンセントのTシャツに手をかける。

「ちょちょちょちょっ!何脱がそうとしてんだよ!?」
「私のTシャツだからな」
「ヴィンセントのはこっち!これは今日アタシが着るの!」
「ククッ、判っている。冗談だ」
「ホントか〜?」

疑いの目を向けるユフィに「本当だ」と答えて今度こそTシャツを受け取って着る。
その時に丁度、チンッ!とトースターがパンが焼けた事を知らせた。

「パンが焼けたから運んでくれ」
「はいよ〜。イチゴジャムとマーガリン、どっちにする?」
「マーガリンで」
「んー。アタシはイチゴジャムにしよっと」
「コーヒーにするか?牛乳にするか?」
「コーヒー!牛乳と砂糖たっぷりで」
「判った」

ユフィの注文するコーヒーはもう淹れ慣れたもので、掴んだ感覚で牛乳と砂糖を投入していく。
自分からしてみればかなり甘いだろうそれは、ユフィからしてみれば丁度いい甘さらしい。
出来上がったコーヒーをテーブルへ運び、野菜を盛ったベーコンエッグも運ぶ。
最後にユフィがフォークを持ってきて席についた所で手を合わせる。

「いっただっきまーす」
「いただきます」

ユフィはベーコンを、ヴィンセントは目玉焼きの白身を切ってフォークで差し、口に運ぶ。

「ん〜!ベーコン美味しー!」
「喜んでもらえて光栄だ」
「ところでヴィンセントさ、今日本屋行くんだよね?」
「ああ」
「じゃあツーピースの新刊買ってきてくんない?今日発売日なんだよ」
「判った。読み終わったら私にも読ませてくれ」
「オッケー」

こうして、二人の朝は過ぎていくのであった。











END

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