お題倉庫

□おおきなテレビ
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融け合う程に絡みあった後の情事はとても気怠くて、充足していて、心地が良い。
肌と肌を寄せ合い、お互いの体温を感じながら眠るのがユフィは大好きだった。
しかし、そんな空気を読まずしてユフィの喉がどうしようもなく乾きを訴えてくる。
ここは我慢して眠る事に集中しようとしたが・・・一度自覚してしまうとそうもいかなくなる。
ましてや扉1つ隔てたすぐ向こう側に冷たくて美味しい水や飲み物が沢山あるのだ。
それらを我慢してやり過ごす事など出来ようか?

(いや、出来ない)

ユフィは決意を固め、ゆっくりと気怠さの残る体を起こした。
しかし飲み物を飲みに行くと言っても裸のままで行く訳にもいかない。

(えーっと、ヴィンセントのTシャツは、と・・・)

夜目の効く目で床を見回し、Tシャツを探す。と、自分の服の上にヴィンセントのTシャツが脱ぎ捨てられていたのを見つけた。
それに手を伸ばそうと上体をかがめようとしたその時、がしっとユフィの手首を何かが掴んだ。

「ん?」

気になって振り返れば、ヴィンセントの手がユフィの手首をしっかりと掴んでいた。
見た所ヴィンセントは目こそ瞑っているものの、寝息は立てていない。
気配に敏感だからユフィが起き上がったのに気づいて起きたのだろう。
悪い事をしたと内心反省しながらユフィはヴィンセントに語りかける。

「水飲んでくるからさ、離して?」
「・・・」
「すぐに戻ってくるからさ。ね?」
「・・・」

まるで子供に言い聞かせるようなユフィの語りかけにヴィンセントは渋々といった感じでユフィの手首を離した。
ユフィは「ありがと」と呟いてヴィンセントの頬にキスを1つ落とすと、改めてTシャツを着て部屋を出た。
静かに扉を閉めてキッチンに向かい、ガラスのコップを取り出す。
そして冷蔵庫から麦茶を取り出して惜しみなくコップに注ぎ、それを勢い良く飲む。

「ぷは〜、美味しい〜」

冷たい麦茶が乾ききっていた喉を癒やし、潤す。
いつもの普通の麦茶なのに喉が乾いていたのもあって今は特別美味しく感じられる。
一杯だけじゃ足りなく、ユフィはもう一杯分コップに麦茶を注いで飲み干した。

「は〜美味しかった」

麦茶をしまい、コップを流し台の上に置いて寝室へと引き上げる。
その時、ふと、テレビが視界に入って歩き出そうとする足を止めた。

(そーいえばこういう時間ってよくテレビショッピングやってるよな〜)

今朝読んだ新聞のテレビ欄にも現在の時間にテレビショッピングがあるのを見かけた気がする。

(ちょっとだけ見よっと)

なんとなく好奇心にかられてユフィはテレビの方へと足を向けた。
ペタリ、とカーペットの上に座り込み、リモコンの電源を押してテレビを付ける。
大きな音が響きそうになったのですぐに音を1にまで消して視聴をする。
現在、番組内では若い男女がミキサーについてトークを繰り広げていた。

『次に紹介するのはこのミキサーだ!』
『まぁマイク!ミキサーを紹介するだなんて正気?ただの普通のミキサーだったら許さないわよ!』
『ハハッ!大丈夫さジェニファー!このミキサーはただのミキサーじゃないぞ!
 なんとこのミキサー、フードプロセッサーとジューサーを兼ねてるんだぜ!!』
『まぁ本当!!?』
『使い方は至って簡単!容器を取り替えて調理に合ったボタンを押すだけさ☆』
『本当にそれだけ!?』
『ああ!他にも取り付けられている刃はミスリルを使った優れものでね、何を刻もうとちょっとやそっとじゃ傷まないのさ!』
『ワァオ!!最高じゃない!!』
『だろう?これさえあれば毎日の料理も楽しくなるぞ!』

(ティファこれ買うかな?)

近い内にセブンスヘブンに行く予定があるから今度話そうか。
軽快なトークを聞きながらユフィはぼんやりとそんな事を考えた。
そして襲ってくる眠気にうとうとしながらテレビを消して今度こそ寝室に戻ろうとした時、テレビが次の商品を紹介し始めた。

『マイク、実は私も貴方に紹介したものがあるの!』
『おやジェニファー、それはなんだい?』
『見て!コーヒーメーカーよ!』
『ただのコーヒーメーカーじゃないか』
『あら、見た目はそうでも性能はそうじゃなくってよ?なんとこのコーヒーメーカー、なんやかんやコーヒーゼリーも作れるのよ!』
『ワオッ!?それは本当かい!?』
『ええ!謎の科学の力を駆使して作られた一級品なんだから!!』
『それは凄いな〜!是非とも今すぐ作ってみてくれ!』
『いいわよ〜!』

なんだか胡散臭そうなコーヒーメーカーの紹介が始まったが、面白そうなのでユフィは視聴を続けた。
でもやっぱり眠気には勝てなくて、次第に意識を手放してしまうのであった。















朝方になって、自分のものでない体温と寝息が間近にあるのに気が付き、ユフィはそっと目を開けた。
するとそこにあったのは、ヴィンセントの整った寝顔だった。

(あれ?アタシ・・・いつ部屋に戻ったっけ?)

昨日の記憶を辿るが、胡散臭いコーヒーメーカーの紹介の所で記憶が途切れてしまっている。
だからリビングで寝落ちしたのは間違いないが、ヴィンセントが目の前にいるという事はベッドに運んでくれたのだろうか?
しかしそれにしてはベッドが柔らかくない。まるで床のような硬さだ。
不思議に思ってそろりと視線を下向ければ、それは昨夜と変わらない白のカーペット。

「あれぇ・・・?」
「起きたか?」

低い声が囁いて目を向ければ、眠たそうな紅い瞳がこちらを見ていた。

「あ、ヴィンセント。おはよー。何でここで寝てるの?」
「それはこっちのセリフだ。中々戻ってこないと思って見に来たらテレビを着けたまま寝ていたんだぞ」
「あはは、ごめ〜ん。なんとなくテレビショッピング見たくなっちゃってさ。そんでいつの間にか寝ちゃってた」
「・・・」

ユフィを責めているような、拗ねているような視線がユフィに注がれる。
しかしユフィはそれを愛嬌たっぷりの笑顔で返してみせた。

「ごめんってば。ね、許して?」
「・・・起きた後にもう一度ベッドに行くのならな」
「朝から元気じゃん」
「やはり許さない」
「じょーだんだってば!サービスするから許してよ」
「・・・いいだろう」

ヴィンセントは承諾と共にユフィを強く抱き寄せて再び眠りに就いた。
ユフィもユフィで起きた後の特別な時間を楽しみにしながら静かに目を閉じた。



その後起きるまでの間、ユフィは自分がテレビショッピングで胡散臭いコーヒーメーカーを紹介してる夢を見たとかなんとか。














END

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