お題倉庫
□片方だけの靴下
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「うーむ・・・」
3種類の片方しかない靴下を前にユフィは腕を組んで唸っていた。
洗濯物を畳む上で必ず発生する、靴下の片方消失事件。
靴下神経衰弱を経た後に必ず発生するであろう事件。
今回もまた起きてしまった。
「どこに行ったのかな〜」
目を瞑って靴下が落ちているであろう場所の候補を選出する。
洗面所、廊下、洗濯機の中、洗濯物を放り込むカゴの周り、ベランダの窓の前と外、ソファやカーペットの下・・・。
ざっと思いつくだけでもこんな所か。
「仕方ない、探しに行くか」
ユフィは腰を上げ、消えた片方の靴下の捜索に向かった。
まず最初は洗面所だ。
洗濯カゴが置いてあった場所を確認する・・・が、見当たらず。
それも当然だ。洗濯機を回す時にちゃんとこの辺は確認したのだから。
次に洗濯機の蓋を開けて中を確認する・・・が、こちらも見当たらなかった。
時々取りこぼしをしてしまうのだが、今回はなかったようである。
「ないか・・・」
まるで探偵のように腕を組んで注意深く床を見つめ、廊下に出る。
廊下からリビングへとゆっくり歩いている途中、靴下の爪先部分がユフィとヴィンセントの寝室から顔を出しているのを見つけた。
「あー、あん時に落ちたのか」
ユフィは洗濯カゴを運ぶ時にうっかり壁にぶつかった。
普段、二人の寝室は開け放しているので、その時にポロッと靴下の片方が寝室の入り口に落ちてしまったのだろう。
他に靴下が落ちていないかを確認してからユフィは片方だけの靴下を回収し、リビングへと向かった。
リビングでは、洗濯物を取り込んで中に放り込んだ時に靴下などが滑ってソファの下に潜り込む時がある。
それを見越してソファの下を探ると―――
「あ、あった!」
またもや靴下を発見。
やはりこんな所に滑り込んでいたか。
他にも注意深く中を見て、靴下がない事を確認してから今度はベランダへと向かった。
「んー、入口付近にもベランダにも落ちてないか。あと一足どこに―――」
「ただいま」
玄関からヴィンセントの声が響いて、ユフィは「おかえりー」と言いながらヴィンセントを出迎えに行った。
ヴィンセントは本屋に本を買いに行っていて、出かけていたのだ。
ちなみにユフィが購読している雑誌の購入も頼んでいたりする。
「雑誌あった?」
「ああ」
「買ってきてくれてありがと!それよりさ、ヴィンセントの靴下が片方ないんだけど」
「私の靴下が?」
「片方だけしまったとか覚えない?」
「・・・・・・あるな」
ヴィンセントはしばしの沈黙の後に頷くと、靴を脱いで真っ直ぐ部屋へと向かった。
そして靴下を入れている段のタンスから片方だけの靴下を取り出す。
それはまさにユフィが探していた片方の靴下だった。
「あ〜、やっぱり!」
「すまない・・・」
「何で片方だけタンスにしまってあるのさ?」
「つい最近、長期任務から帰ってきただろう?入れ違いでお前が任務に出ていた日だ。
その時に着替えを洗濯に出したのだが、一つだけ出し損ねたのを後で気づいた」
「はー、なるほど。次からは気をつけてよ?」
「ああ。それと少しいいか?」
「うん?何?」
「この靴下の片割れを知らないか?」
ヴィンセントはタンスから片方だけの黒い靴下を取り出してユフィに尋ねる。
ユフィは目をパチパチと瞬かせるとゆっくりと首を傾げた。
「・・・ないの?」
「少し前からな」
「は〜!?どこやったんだよ〜!」
「分からない。どこかで見かけてないか?」
「見かけてないけど・・・ベッドの下とかに潜り込んだんじゃないの?後は荷物の中とかさぁ」
「もう一度見てみるとしよう」
その後の二人の捜索も虚しく、ヴィンセントのもう片方の靴下が見つかる事はなかった。
END