お題倉庫

□バスタオル
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ザァアアアアとシャワーから降り注ぐ熱い湯水をヴィンセントは目を閉じてただひたすらに浴びる。
呼び覚まして暴走するだけ暴走して満足した内なる獣が鎮まっているのを感じていると、ふと背中に痛みを感じた。
突き立てられたような、刺されたようなそんな痛み。

(ユフィか・・・)

痛みの原因である犯人を思い浮かべて口元が歪む。
情熱的に求め合い、溶け合った時間。
お互いが一つになったその瞬間にユフィは無我夢中でヴィンセントの背中にしがみついた。
快楽の大波に耐えるように、置いていかれないように、必死だった。
背中に刻まれたその証にクスリと笑みが溢れる。
きっとユフィは、またこの背中に出来た傷の事を気にするだろう。
気にしていないと言うか、少しからかってやるか、さてどちらにしようか。
ユフィの反応をシミュレートしながらシャワーを止め、風呂から出る。
バスタオルで体を拭き、別のタオルを腰に巻いてユフィを起こすのを覚悟でドライヤーで髪を乾かす。
髪を濡らしたまま戻るよりかは乾かして起こした方がマシだ。
あらかた乾いた所でドライヤーをしまい、ユフィ用のバスタオルを取り出そうとしてヴィンセントの手が止まる。

「・・・」

バスタオルは単色のものしかなく、その上どれも味気がなく洒落っ気がない。
更に色は赤だの黒だの青だの色気のあるものではなく、また可愛らしさの欠片もない。

「はぁ・・・」

つくづく自分の至らなさに呆れを覚える。
ユフィを自宅に招いて事に及ぶようになったのはつい最近の事だが、その度に気の利いたバスタオルを用意出来ていればと後悔する。
こんな色気のないバスタオルをユフィに渡すのがなんだか申し訳ない。
今度こそユフィに似合うようなバスタオルを買わなくては。
ヴィンセントはとりあえず青のバスタオルを手にとって部屋に向かった。











ドアを静かに開けて中に入ると、スマホをいじっていたユフィがこちらに気が付き、スマホを置いて起き上がった。

「やっと戻ってきた」

はにかむように笑って、戻ってきたヴィンセントをユフィは歓迎する。
きっと頬は赤く染まっているのだろうが、暗闇でそれが見えないのが残念だ。
そんな気持ちを心の隅で思いつつ躊躇いがちにバスタオルを渡してベッドの縁に座る。
ヴィンセントが顔を背けてくれている間にユフィは体隠しをシーツからバスタオルにチェンジした。
そしてそれらを終えた上でヴィンセントに尋ねる。

「ね、抱きついていい?」

シャワーを浴びてきたヴィンセントに対してユフィは汗をかいた後のまま。
しかしそんなユフィを嫌がりもせず、ヴィンセントは「ああ」と即答してユフィを受け入れた。

「エヘ、ありがと!」

許可を得たユフィは喜んでヴィンセントに抱きつき、ヴィンセントもユフィを腕の中に迎え入れる。
そして触れるだけのキスを数回して、お互いに強く抱き合う。
情事の時とはまた違った充足感が二人を包み、それがまたなんとも言えないくらい心地良い。
が、ヴィンセントの心にはバスタオルの件がわずかに引っかかっていた。

「・・・すまない」
「へ?何が?」
「今は暗くて見えないが、バスタオルが・・・」
「バスタオルがどうかしたの?破れてんの?」
「いや、そうではない」
「じゃぁ何?」
「・・・色が地味だ」
「ふーん、何色?」
「青一色」
「あ、そーなんだ。でもいいよ、アタシはヴィンセントが使ってるバスタオルがいいんだから」

ユフィはより一層ヴィンセントに抱きついて頬ずりをする。
そんな可愛らしい事を言ってくれるユフィが愛しくて、だが尚更申し訳なくなってヴィンセントは首を横に振った。

「・・・私の気が済まない」
「じゃあどうするつもりなのさ?」
「今度お前用のバスタオルを買っておく」
「いらないよ、アタシ用のなんて。ヴィンセントが使ってるこのバスタオルで十分だってば」
「だが―――」
「それにどうせ買うんだったらアタシとヴィンセント両方が使えるバスタオル買おうよ」
「両方が使えるバスタオル?」
「そ。二人で使うバスタオルを買うんだよ」

二人で使うバスタオル。
これからも一緒に使っていくバスタオル。
ユフィの言わんとする事を察したヴィンセントは口元を緩め、ユフィを深く抱きしめた。

「・・・なら、どのようなバスタオルにする?」
「んー、そーだなー。やっぱ吸水性が高いやつがいいよね〜。色とか柄はお互いに納得出来るものがいいから現地で即決めかなぁ」
「他に欲しい物は?」
「へ?」
「他に二人で使う物で欲しいのはあるか?」

暗がりで判らないが、ユフィが喜ぶ気配が確かにした。
そしてそれを機にユフィはあれこれと喋り始める。

「えっとねえっとね!やっぱ食器とか日用品とかあと他にも沢山ある!」
「ならばそれも見に行くか」
「うん!でもヴィンセントに家に置くと色々邪魔になっちゃわない?アレだったらアタシの家にでも―――」
「いや、その必要はない」
「そう?」
「ああ。お前さえ良ければ、一緒に住む家を探してそこに置けばいいのだからな」
「・・・!」

ユフィは喜びで一杯のオーラを放つとヴィンセントを押し倒すほど強く勢い良く抱きついた。
突然の押し倒しに流石のヴィンセントも少々驚いたが、ユフィのとても嬉しそうな反応に頬を緩める。


買い物に行く日が待ち遠しいと思う二人なのであった。











END

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