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□着れなくなった衣類
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秋、それは衣替えの時期。
夏の日差しは今ではすっかり穏やかなものになり、温風はほんのりと冷たい風になりつつある。
これからやってくる冬という身も凍える季節に備えてヴィンセントは衣替えをしていた。
夏物の服をタンスから取り出し、行李に入っている秋・冬物の服と入れ替えるのだが・・・

「・・・縮んでるな」

取り出したグレーのセーターは縮んでおり、明らかに今のヴィンセントには小さすぎるサイズとなっていた。
こうなってしまってはもう着れないだろう。
やや残念に思いながら床に置こうとした所にユフィが入ってきた。

「ヴィンセントーって、あれ?衣替えしてんの?」
「ああ。お前はもう済ませたか?」
「うん、アタシはこの間やったからだいじょーぶ!てかそのセーター、小さくない?」
「縮んだ」
「・・・雑な洗い方したでしょ?」
「・・・」

原因を探る為に過去の記憶を手繰り寄せる。
あれは春頃の事だったろうか。
もうセーターはいらないと思い、他の洗濯物と一緒に適当に洗ってしまったのだ。
そのまま干して取り込んで何も気にしないまま畳んで行李にしまったのである。
一回くらい大丈夫だろうと思ったのだが、その考えが甘かったのだと痛感するばかりである。

「一回くらいなら大丈夫だと思ったのだがな」
「駄目に決まってんでしょ。あーあ、折角似合ってたのに、それもう無理だね」
「新しいのを買わなくてはな」
「そんなヴィンセントにろーほー!明日ユニシロでセールやるんだって。行こ?」
「ああ」

新しいセーターを買うのに丁度良い。
ヴィンセントは縮んだグレーのセーターを床に置いて次の服を取り出しす。
と、床に置いたセーターをユフィが手に取って尋ねてきた。

「このセーター貰っていい?」
「・・・別に構わないが縮んでるぞ?」
「ヴィンセントには小さくて着れないけどアタシには着れるサイズじゃん?いいでしょ?」
「お前がいいならそれでいいが」
「サンキュー!」

「やった!」と嬉しそうにユフィはヴィンセントのセーターを抱きしめる。
ある意味で自分のお下がりのようなものなのに、それでも嬉しそうにして着てくれるユフィに口元が緩む。
オマケで頭を撫でてあげてから次々と服を取り出していく。
去年着た服を今年も着るのだとしみじみする反面、着れなくなってしまった服に心の中で別れを告げる。
今回別れを告げる服は色褪せていたり、着古してボロくなっている服たちだ。

「結構着れなくなった服多いね」
「少し買わないと駄目だな」
「じゃ、明日ユニシロ行くついでに他の服屋も寄ろっか」
「そうだな」

夏服を行李にしまい、秋冬物の服をタンスに持っていく事で本日の作業は終了した。









そしてその日の夜・・・

「ふい〜、いい湯だった」

風呂から出たユフィが麦茶片手にソファに座ってくる。
鼻腔をくすぐる石鹸の香りに誘われて何気なくユフィの方を見ると、今日あげたセーターをその身に纏っていた。
やはりユフィにはサイズが大きくダボダボで、手が隠れるので腕まくりをしている程だったが、悪くない格好だった。

「着心地はどうだ?」
「ん?」
「セーターだ」
「いい感じ!今日ちょっと冷えるからさ、温かいよ」
「そうか」

嬉しい答えが返ってきて満足気に薄く笑うヴィンセント。
今度、態と着れなくなった服を作って着せてみようかと思うのであった。











END

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