お題倉庫

□入りきらない洗濯機
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「うわ、もういっぱいだよ」
「・・・これ以上は無理だな」

許容量ギリギリまで服が放り込まれた洗濯機を前にユフィとヴィンセントはそれ以上の投入をやめ、大人しく洗剤と柔軟剤と投入して蓋を閉めた。
つい数日前まで二人はWROの任務で出張に出ていて、その日数分の着替えを持って行っていた。
しかし任務を終えて帰宅してみれば雨が降り続き、天気に恵まれなかったのだ。
コインランドリーは近くにはなく、部屋干しはユフィがあまり好きではない為、晴れる日を待った。
そして今日、朝から大きな太陽が空に浮かび、絶好の洗濯物日和となったので喜び勇んで洗濯をしようとして冒頭に戻るのである。

「こりゃ一日で全部は干しきれないね〜」
「間違いなくハンガーやピンチが足りなくなるだろうな」
「とりあえず仕事着を優先して洗濯したけど出張で着た服を洗濯出来ないのがな〜。変な臭いとか染みつかないよね?」
「盛大に汚したものはないから大丈夫な筈だ」
「だといいけどさ〜」

洗濯が終わるまでの間、二人はソファに座ってのんびりと寛ぐ事にした。
ユフィに関しては正確に言うと座る、というよりは寝転がってヴィンセントの膝に頭を乗せている。

「・・・お前はよく私の膝に頭を乗せてくるが硬くないのか?」
「ちょっと硬いけどそこまででもないって感じ?」
「ならばいいが」
「洗濯物干し終わったら今度はアタシがしてやるよ」
「そうしてもらうとしよう」

ニヤリと悪戯っぽく笑うユフィの頬を撫でて微笑を返す。
洗濯物を干し終わった後の楽しみが増えた。
早く洗い終わってくれないだろうか。

「・・・」

少し手持無沙汰になって、とりあえずユフィの頬を摘んでぐに〜っと引っ張ってみた。

「ら〜にすんらよ〜」
「・・・なんとなく」
「や〜め〜ろ〜」

ユフィの言う通りにパッと離してやれば白い頬は赤い痕を遺して元に戻った。
その頬をさすりながらユフィが睨み上げてくるが可愛いだけでしかない。
一度悪戯をするともう一度したくなるもので。
今度は剥き出しのお腹を人差し指でとんとん、と軽く叩くと「にゃっ!」と猫のような拒絶の声と共に指先を払われた。
次に脇腹をつっついてみたらペシッと叩かれた。

「あんまし悪戯すると膝枕してやんないぞ!」
「お前がよくやるちょっとした悪戯だろう?」
「ちょっとどころじゃないっての!ヴィンセントのはセークーハーラー!」
「都合が良いな」
「普通です〜」

ピー!ピー!ピー!

「洗濯が終わったようだな。干すぞ」
「なんかはぐらかされた」
「気の所為だ」

口の端に笑みを作ってヴィンセントが立ち上がるとユフィも起き上がって洗濯物を取りに向かった。
洗濯機の蓋を開けて服やタオルを大きなカゴに、ユフィの下着は小さなカゴに入れて入れ替えに第二段を投入する。
が、こちらも予想通り許容量ギリギリまでとなり、それ以上の投入は不可能となった。
仕方ないので洗剤と柔軟剤を入れて再びスイッチを入れて回す。
洗い終わるまでの間、二人は第一弾の洗濯物を干す事にした。

「物干し竿にパンパンパ〜ン、と」

バスタオルを広げながらユフィが口ずさむオリジナルの歌に頬が緩む。
ユフィは洗濯物を干す時、大抵こうして音程が適当で短い歌を口ずさむのだ。
洗濯物を干す時にヴィンセントはそれが密かに楽しみだったりする。
いつもいつも歌の内容が違っている時もあれば同じ時もある。
ちなみに今日のは違っている奴だ。

「今日は気持ち良いねぇ」
「ああ」
「風も吹いてるし、絶好の洗濯物日和だね」
「干場はあまり残されていないがな」
「こりゃ第三陣は無理か」
「午後に入れ替えで干すのであれば何とかなると思うが」
「え〜?午後に干すのめんどくさ〜い。それに乾くかどうかも微妙だし」
「ならばやはり明日に回すしかないな」
「だね〜。あ、干し終わったんなら中入ってて。アタシ下着干すから」
「分かった」

ユフィは自分の下着を見られたくないのでメインの洗濯物を干し終わったらヴィンセントを中に入れてその間に素早く自分の下着を洗濯ピンチにかけてタオルで囲んで隠す。
正直、夜にベッドの中で見ているので今更隠す必要もない事もないかもしれないがデリカシーの問題なのでヴィンセントは素直に部屋の中に引っ込んでいる。
それにそうやって隠すユフィもまた可愛いのだ。
ちなみに雨が降って来た時などの緊急時を除いてユフィの下着が干されているピンチに触るのは当然禁止されている。
さて、ヴィンセントがソファに深く座ってぼんやりとしているとユフィがベランダから戻ってきて隣に座ってきた。

「はぁ〜終わった終わった」
「・・・ユフィ」
「ん?・・・あーはいはい、いーよ」

流石はパートナー。
声と目だけで言いたい事を訴えれば察してくれた。
ヴィンセントは遠慮なくユフィの膝の上に頭を乗せた。

「別に断らなくてもいーのに」
「先程の悪戯で禁止されてしまったかもしれないから念の為の確認だ」
「あはは、ヴィンセントは真面目だな〜」

笑いながら細い指が頬に伸びてきて摘んでこようとする。
先程の仕返しだろう、しかしそれを容易に許すヴィンセントではない。
ユフィの手首を掴んで頬から遠ざけ、代わりに自分の口元まで持ってきて細く白い指に小さく口付ける。

「っ!」

予想通り、ユフィの顔はみるみるうちに赤くなっていった。

「ず、ずるい!」
「何がだ?」
「何がって分かってる癖に!」
「さて、何の事だろうな」
「こんの〜!」

悔しがるユフィの頬に手を添えて意地悪く笑ってやる。
そんな二人のやり取りは洗濯機が第二陣の洗濯を終えても続いたという。











END

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