お題倉庫

□安らげる場所
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夜に長期任務から帰宅したヴィンセントが最初にやる事は寝る事である。
それも、ユフィを後ろから抱きしめて―――。

「スー・・・スー・・・」

長らく離れていた温もりを大事そうに抱いて眠るヴィンセント。
棺桶の中で眠っていた頃は温もりなどなくても眠る事は出来ていた。
むしろそれが当たり前で、棺桶から出た後もずっとそうだと思ってた。
しかし、ユフィという大切な恋人が出来た今は違う。
この温もりがなければ眠る時にどこか寂しいような物足りないような気持ちになる。
そう思うほどにヴィンセントはユフィに溺れていた。


しかしそれはユフィも同じ。

「ふぁ・・・ん〜・・・朝ぁ・・・?」

カーテンの隙間から差し込む日差しに起こされてユフィは目を覚ます。
固くなっている体を伸ばそうとして思うように動けない事に気付く。
寝ぼけた頭を緩く回転させた所で漸く体に回ってる二本の腕の存在を知る。
それで、ああ、と一人頷くと寝返って腕の主の寝顔を見上げた。

「・・・・・・」

瞼を閉じて静かに眠る恋人のヴィンセント。
寝ている時まで仏頂面なのが面白くないが、付き合い始めた頃のような眉間に皺を寄せた顔で眠っているよりは大分マシだ。
最初は自分の寝相やいびきの所為でストレスでこんな寝顔になっているのではと不安になったが、そうではなくて本当は寝ている時に悪夢を見ているからだと後で分かった。
過去の清算をしたばかりだというのにまだ悪夢を見るのかと驚いたものだが、ユフィと付き合い始めてからはそれも段々見なくなったと聞いてとても喜んだのを思い出す。
少なからず自分がヴィンセントに対して良い影響を与え、夢の改善も出来ているというのだ、喜ばずにはいられない。
これからももっとヴィンセントに良い影響を与えられればと思う今日この頃だ。

「ボーナスターイム」

大きな声を出すと起きてしまうので、音になるかならないかレベルの声量で呟いてからユフィは思いっきりヴィンセントの胸に顔を埋めたりスリスリと頬擦りをした。

「ん〜!」

鼻腔いっぱいに広がるヴィンセントの香り、そして逞しい筋肉。
普段でもその気になれば出来ない事もないのだが、如何せん任務が忙しくてそれどころではないのだ。
出来たとしてもすぐに用事や邪魔が入ったり、かといって夜のベッドの中だとそれをやっている暇なんか別の意味でない。
だからこうした休みの日のこの時間はユフィにとってはかなり貴重なのだ。

「久しぶりのヴィンセントだぁ・・・」

寝ながら自分の事を抱きしめてくれているヴィンセントを抱きしめ返す。
ユフィはこの腕の中が大好きだった。
こうして宝物のように大切に抱きしめてくれて、どんな脅威からも守ってくれるこの強い腕がいつでもユフィを安心させてくれる。
何度この腕に救われた事だろうか。
もうヴィンセント無しでは生きられない。
ユフィはそれを確信していた。

「はぁ〜・・・幸せ・・・」
「それは何よりだ」

突然降って来た言葉に驚いて弾かれたように顔を上げれば、じゃれる子猫を見下ろすような表情のヴィンセントと視線がぶつかった。

「ヴィ、ヴィンセント!?いつから・・・!」
「お前が私の胸に擦り寄ってきた辺りからだな」
「ほぼ最初っから起きてたのかよ!!」

カーッと顔が一瞬で熱くなり、逃げ出そうとするが大好きな腕にがっしりと抱きすくめられて逃れる事が出来ない。
更にヴィンセントの胸に顔を埋めるようにして頭を撫でられればもうお手上げだ。

「私もこうしてお前と寝られて幸せだ」
「恥ずかしい事言うなー」
「先に言ったのはお前だ」
「アタシはヴィンセントが寝てると思って言ったからいいんだもーん」
「では、私は普段からお前が『思った事は素直に口にしろ』と言われていたから言ったという事にしよう」
「なんだよそれ〜」
「それよりも私はまだ眠い。もう少し寝るぞ」
「じゃあ朝ご飯は外でなんかテキトーに食べよ?」
「ああ、いいぞ」
「決まり!んじゃ、おやすみー」
「おやすみ、ユフィ」

どちらからともなく目を瞑り、お互いの隙間がなくなるくらい身を寄せ合う。
二人の幸せな朝の時間はまだまだ続くのであった。










END

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