萌えcanですよ

□火の神の子孫と雪女
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『12月24日に【くりすます】っていうのをやるからアタシへのプレゼントを用意しといて!』

そう言われたのがつい2週間前のこと。
ユフィはいつも突拍子もない事を言ってヴィンセントを振り回す。
大方また人間界にでも降りて何かに触発されたのだろう。
全く仕方のない娘である。
ヴィンセントは溜息を吐きつつ山の中を歩いて行く。
すると、木と木の間に黒い大きな渦が現れているのが目に入った。
この渦は地獄へと繋がる入り口だ。

「・・・」

ヴィンセントは右手を前に出し、赤いオーラを纏わせながら妖力を使って地獄の入り口を塞ぐ。
彼は火の神・カグツチの子孫で地獄の出入り口の管理を任されている。
地獄の出入り口・空間の歪みは主に山などの磁場が安定しない地で起きやすく、ヴィンセントはこうして山の中を歩いては塞いでいた。
たまに人間が誤って地獄の入り口に入る事もあるが、その時はなんやかんやしながら現実世界に戻してやっている。
しかし今日はそういった事もないし、もう日も暮れてきたので人間がいる気配はしない。
ユフィとの約束もあるからとヴィンセントは己の家である小屋へと戻る事にした。

(・・・寒いな)

小屋へと戻る道中、冷たい空気が段々と満ちてきてヴィンセントの体温を蝕もうとする。
オマケに雪がチラチラと天から舞い降りてきて地面に溶けると共に空気の温度を下げていく。
火の神の子孫なのでその気になれば体温を上げて寒さを凌ぐ事も出来るが、そんな事をしまっては彼女が近づけなくなってしまう。
そう、この冷たい温度と雪の原因である彼女が―――

「あ、いたいた、ヴィンセンとー!」

長いマフラーをたなびかせながら一人の少女が駆け寄ってくる。



IMG_3387



彼女の名前はユフィ。
『くりすます』とやらを提案した張本人で、雪女である。
今こうして雪が降ったり空気の温度が低下しているのは彼女の力によるものだ。

「よっ!相変わらずアンタは熱いね〜!」

無邪気にヴィンセントに抱きついてくるユフィ。
本来であれば雪女であるユフィに抱擁されればたちまち氷漬けになってしまうのだが、火の神の子孫であるヴィンセントにそれは効かなかった。

「お前も相変わらず冷たいな」

薄く笑ってユフィの頭を撫でるヴィンセント。
こちらも本来であれば髪などはあまりの熱さに消し炭になるのだが、雪女であるユフィにそれは効かないのであった。
頭を撫でる時にユフィが背中に四角形の分厚い氷を背負っているのが見え、それについて聞いてみる事にした。。

「その背中の氷は何だ?」
「ん?これ?それは後のお楽しみ!それよりアタシへのプレゼントの用意は出来てる?」
「ああ、プレゼントはな。それ以外は何をすればいいのか分からなくて何もしていないが」
「それについてはおいおい説明してくから心配しなくてもオッケーだよ!とりあえずヴィンセントの家に行こうよ」

ヴィンセントは静かに頷き、ユフィと共に小屋もとい家へと歩き出した。
家へと向かう道中、ユフィと他愛もない話をしていたが、その間ずっと雪は降り続いており、今ではかなり積もってきた。
今日に限っては気合を入れて降らせているように見え、その事について尋ねてみた。

「今日は随分力を入れて雪を降らせているな?」
「まーね。『くりすます』は雪が降った方が盛り上がるらしいから」
「人間界の情報か?」
「うん。なんか人間は『くりすます』に雪が降ると『ほわいとくりすます』って呼んで喜ぶみたいなんだよね〜」
「雪が降っただけでか?変わっているな」
「もしかしたら可憐な雪女ユフィちゃんへの信仰心の顕れだったりして。いや〜アタシもすっかり人気者だね!」
「それだけはないと断言出来るな」

バシッと腕を叩かれたが勿論訂正なんかしない。
と、そんなやり取りをしている内にほどなくしてヴィンセントの住む小屋に到着した。

「お!丁度良い木があるじゃ〜ん!」

小屋の隣に小屋よりもやや高めの木が生えており、ユフィはそれに近づいて軽く見て回った。

「その木をどうするんだ?」
「『くりすますつりー』にするんだよ!」
「『くりすますつりー』?」
「『くりすます』には木に飾り付けをするんだって。キラキラしててすっごい綺麗なんだよ!」
「ほう。で、その飾りとやらには何を使えばいいんだ?」
「なんか色とりどりの丸い玉とか星とか、後お菓子みたいなのも飾ってたかな〜」
「丸い玉?マテリアか?」
「んー、分かんない。でもマテリア飾ったら盗まれそうだから絶対やだ、パス」

ユフィはキラキラしてて綺麗だという理由でマテリアをコレクションしている。
マテリアはあらゆる力をもたらしてくれるのだが、まぁユフィのようにコレクションして眺めている者も少なくはない。
しかし丸い玉のような物が飾れないとなると何かで代用しなければならない。
果たしてそんな代用品をユフィは用意しているのだろうか。

「では、代わりに何を飾るんだ?」
「何かいい考えある?」

やはり用意していなかったか。
ある意味予想は出来ていたが今すぐこの場で代用品を用意する事は流石に出来ない。

「諦める他あるまい」
「テキトーにその辺の花凍らせて飾ろうかなって思ったんだけど咲いてなくてさ〜」
「この時期ではな」
「しょーがないから丸い玉はナシにして星飾ろっか」
「星はどうするのだ?」
「そこはアタシにおまかせ!」

えっへん!と胸を張るとユフィは木のてっぺんに向かって掌を差し向けた。
すると、木のてっぺんに白い妖気が集中し、やがて氷の星を形作っていった。

「じゃじゃ〜ん!氷の星の完成!どうだどうだ?綺麗だろ〜?」
「綺麗は綺麗だが透き通っていて見えにくいな」
「うぐっ・・・こ、細かい事は気にすんなよ!それより次!お菓子みたいなの飾るよ!」
「代わりになる物はあるのか?」
「そこなんだよね〜。ヴィンセントなんかない?」
「鬼の頭蓋骨や骨、獣の牙などがあるが」
「んー・・・じゃあもういいや、それで。それ飾ろ」

『くりすますつりー』の飾り付けが少し面倒になったユフィはあらぬ物で済ます事にした。
その結果『くりすますつりー』はユフィが言っていた物とは真逆のおどろおどろしい物になり、見る者を圧倒させたという。

さて、『くりすますつりー』の飾り付けを適当に終えた二人は小屋の中へと入っていった。
扉を開ければ温かい空気が二人を迎えるが、ユフィは嫌そうに眉根を寄せた。

「うぅ・・・相変わらずアンタの家は暑いね・・・」
「温度下げてもいいぞ」
「そーさせてもらう・・・」

室内に入ったユフィは己の妖力を使って室内の温度を下げた。
その温度は普通の人間が入れば「寒い寒い!」と叫んで震え上がるほどのもの。
本当は室内が氷漬けになるくらいキンキンに冷やしたかったのだが、それでは今度はヴィンセントが寒がって温度を上げようとする。
そうなってはイタチごっこなのでお互いがギリギリ許せる範囲まで温度を調節するようにユフィは心がけていた。
そして今のところ、ヴィンセントからは何の苦情もきてないので温度調節は成功したものだと思われる。

「それで『くりすます』とやらは木を飾っておしまいか?」
「まさか。『くりすます』は美味しいご馳走を食べるんだって」
「ご馳走か」
「そ!ちょっと冷蔵庫見させてもらうね」

ヴィンセントの許可を貰うよりも早くユフィは冷蔵庫を勝手に開けて中身を物色する。
冷蔵庫の中は可もなく不可もなしと言ったところで、ヴィンセントの性格が現れている感じだった。

「ここにある食材沢山使ったら困る?」
「ある程度は残しておいてくれ」
「そーなると有り合わせ程度のしか作れないんだけど」
「・・・それもまたご馳走と思えばいい」
「んー・・・ま、いっか。ヴィンセントの言う通り、この可愛いユフィちゃんが作るんだから十分過ぎるほどご馳走だよね!」
「・・・」
「こらそこ!ここで急に黙るな!!」

ビシッ!と指差してくるユフィの指をどけて一緒に有り合わせのご飯を何品か作る。
しかしご飯を作っている間、ユフィはずっと氷を背負っていた。
いくら自分の手足も同然の氷を背負っているとはいえ、重いのに代わりはないだろうに。
それとも自身を冷やす為に背負っているのだろうか。
ユフィは後のお楽しみと言っていたが・・・。

「そんなに暑いか?」
「へ?」
「暑いならもっと温度を下げて構わないが」
「何だよ急に」
「背中の氷、いつまで背負っているつもりだ」
「ん?ああこれ?違う違う、これはヴィンセントへの『くりすますプレゼント』だよ!」
「『くりすますプレゼント』?」
「なんか『くりすます』にはプレゼント交換ってのをするんだって。で、これはその為のプレゼントってわけ。
 でも迂闊に床の上に置いて放置するとすぐ溶けちゃうでしょ?ヴィンセントの家、温度下げても暑いのは暑いし。だから背負ってるんだよ」
「なるほどな」
「でもちょうど料理も出来たし、ちょっと早いけどヴィンセントにあげる」

ユフィは背負っていた氷の塊を床の上に置くとヴィンセントに「氷溶かしてみて」と言った。
言われるままにヴィンセントは氷に触れて溶かしてみると、中から白い酒壺が姿を現した。
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