萌えcanですよ

□火の神の子孫と雪女
2ページ/2ページ

「これは・・・!」
「へっへーん、どーだ!ヴィンセントの大好きな氷酒だぞ!!」

氷酒とは、澄んだ空気と不純物が一切ない氷と水、そして三日三晩妖力を込める事によって作る事の出来る三酒の神器と言われる酒の一つで、雪女などの雪の一族にしか作れない幻の酒だ。
そして種族の位が上位に位置すればするほどその旨味は増し、中毒になるほどの味になる。
ユフィは雪の一族の時期族長でもあるので、最高の氷酒を作る事が可能なのである。
しかし三日三晩妖力を込めなければいけない事もあってユフィはあまり氷酒を作りたがらない。
妖力を込め続けるのはかなりの体力と精神力と集中力と根気などが要求される。
それを知っていてヴィンセントは氷酒を作ってもらう事を頼めていなかったのだが、こうした機会で頂けるのは嬉しい限りである。

「・・・本当にいいのか?」
「もっちろん!ヴィンセントの為に丹精込めて作ったんだから!」
「ありがとう・・・ユフィ」
「いいってことよ!それよりヴィンセントはどんなプレゼントを用意してくれたのさ?」
「これだ」

そう言ってヴィンセントは長方形の桐の箱を渡した。
何が入っているのだろうとワクワクしながら開けてみると、中には水色の水晶の中で炎が揺らめくペンダントだった。

「わっ、綺麗!いいの!?」
「ああ」
「やった!サンキューヴィンセント!えへへ、熱くないや!」

ユフィは嬉しそうに水晶の表面に指で触れる。
雪女なので火には弱く、どちらかというとあまり好きではないがその輝きにはどうしても惹かれてしまう事もしばしばある。
けれど熱くて近づく事が出来ない。
だが、ヴィンセントがプレゼントしてくれたペンダントは別で、熱の心配をする事なく触れる事が出来る。
ユフィにとってはとても嬉しいプレゼントだった。

ちなみにこのペンダント、実は作るのがかなり大変だったりする。
まず最初に水晶の部分はクリスタルベヒーモスを倒さなければ手に入れる事が出来ない。
クリスタルベヒーモスは神獣に例えられるほどの強さを誇り、これに挑もうとして命を落とした者は数知れず。
そして何故、この水晶でなければいけないのかと言うと、水晶の中で炎が宿っていても溶けないのと、宿した炎が永遠に燃え尽きないようにする為だ。
簡単に手に入る水晶では炎に内側から溶かされてしまうし、何よりも熱気も放ってしまう事になる。
炎が苦手なユフィにそんな物を渡す訳にはいかない。
ちなみに補足すると、水晶の内側に炎を宿すのは簡単な事ではない。
脅威の集中力と精神力、細かな微調整と多大な妖力が必要だ。
大抵の者は途中で挫折して放り投げるのだがヴィンセントは一発で炎を宿すのに成功している。
それだけで彼がどれだけの集中力や精神力、その他能力を持ち合わせているかが伺える。
勿論ユフィはそんな事知らないが、ヴィンセントも言うつもりはないので特に触れる事はしない。

「んじゃ、プレゼント交換も終わったしご飯食べよ!アタシお酌するよ」
「悪いな」

おちょこを差し出せばユフィが恭しく酒壺を傾けて酒を注いでくる。
氷酒はとても冷たく、注がれただけで一瞬にしておちょこが氷のように冷たくなった。
ヴィンセントはおちょこを勢い良く傾けてそれを飲み干す。
芯まで冷えそうなほどに冷たい酒が喉を滑り通り、体の奥深くに流れて沁み込んでいく。
じわりじわりと内臓を凍りつかせようとするその冷たさはしかし体の底から徐々に熱を上げてくる。
酒自身の味わいも深く、いつまでも飲んでいられそうだ。

「プレゼント交換をしてご馳走を食べた後はどうするんだ?」
「ん?『くりすます』?」

チーズの乗ったベーコンとじゃがいもを食べながら聞き返すユフィに「そうだ」と頷く。
ユフィは箸を止めないまま考えながら答えた。

「えーっと、子供は靴下を吊るして寝て、『さんた』がプレゼントをくれるのを待つんだって」
「『さんた』?」
「良い子にプレゼントを配ってくれるおじいさんなんだって」
「ほう。大人は?」
「貰えないみたい」
「そうなると私達はやる事がなくなるという事か?」
「まぁそーなるね」

ご飯を食べ終え、冷たいお茶を飲みながらユフィは答える。

「つまり『くりすます』とやらはこれで終わりか」
「・・・『くりすます』ってさ、色々な過ごし方があるんだよ」

冷たいお茶が入った湯呑みを置くと、ユフィはいそいそと身を寄せてきた。

「友達や家族、親しい人たちと一緒に過ごしたり一人で過ごす事もあって・・・勿論、恋人同士で過ごす事もあるんだって」
「ほう。それで?」
「一つ屋根の下で恋人同士の男女がいたらさ・・・やる事は一つじゃない?」

自分との経験はまだまだ少ないくせに女性の色香を匂わせながら上目遣いで誘ってくる。
全く、どこでこんなのを覚えてきたのやら。
ヴィンセントは氷酒の最後の一口をグイッと飲み干すとユフィを抱き寄せた。

「もしも『さんた』とやらが間違ってきたらどうする?」
「うーん、見せつけちゃう?」
「見せつけるにしてもお前の体は絶対に見せないがな」
「どーやって見せないつもり?」
「その時になったら教えよう―――」

ヴィンセントは薄く笑って静かにユフィの唇を奪う。
雪がしんしんと降り積もる聖夜、二人の男女が甘く激しく溶け合うのであった。














END
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ