萌えcanですよ

□クッキー
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「ルクレツィアという科学者の女性だ。彼女は明るく聡明で・・・美しかった」
「・・・いつ知り合ったの?」
「大学の時にサークルでな。サークルで共に活動をする内に私は彼女に惹かれていった」
「・・・告白、したの?」
「ああ。見事に玉砕したがな」

ヴィンセントは自嘲の笑みを浮かべたがユフィには当然笑えなかった。

「その人、他に好きな人がいたの?」
「同じ科学分野で研究をしていた宝条という男と親しくしていたらしくてな。
 それに彼女は科学一筋の女性であったから私の恋愛は始まる前から終わっていた」
「同じ科学者の人じゃないと好きにならないってこと?」
「彼女は科学について一晩中語りたい質らしくてな、科学に精通していない私では役不足という事だ」
「ふーん・・・でも、仲良くサークル活動してたんでしょ?」
「私が一方的に想いを寄せていただけで、彼女は私の事を良き友人としてしか思っていなかったらしい」
「・・・そっか。ごめんね、昔の事聞いちゃって」
「気にするな。この間のお前の祖父の事について聞いたのだからこれでお相子というやつだ」

とは言うものの、ユフィは悲しそうな切なそうな表情を浮かべて沈黙してしまっている。
あまり場を明るくするのが得意ではないヴィンセントもこの状況には困り、とりあえず間を持たせる為にコーヒーを一口飲んだ。
どうしたものかと思考を巡らせていると、ユフィが急に顔を上げて窓の外を見た。
つられて窓の外を見てみれば、この間の赤毛の男とサングラスをかけたスキンヘッドの男がユフィに外に出るようにサインを送っていた。
するとユフィは「ごめん!またちょっと店空けるね!」とポットを置いて急いで外に出て行ってしまった。

(また、あの男・・・)

だらけきっている表情を浮かべながらもパッと見はチャラついているようなあの男は一体何者なのか。
ユフィがあんなに慌ててるのを見るとユフィにとって重要な人物なのだろうが、あまり良い意味での重要人物ではない気がする。
そういえば、ユフィは祖父が亡くなってから一人でこの店を経営している筈だ。
活発な娘とはいえ、非力な女性だ。
それをいい事に脅しなどをしているのではないだろうか。
もしそうなら・・・許す訳にはいかない。

「はぁ・・・あ、常連さん、店番ありがと」

戻ってくるなり重い溜息を吐くユフィは、力なくヴィンセントに礼を言った。
けれど、ヴィンセントが好きではない表情で言われても嬉しくない。

「・・・先程の男たちは何だ?」
「え?あ、あー・・・別に大した事ないよ、うん」
「大した事がないなら話せるんじゃないか?」
「それは、まぁ・・・」
「強請られてるのか?」
「そんなんじゃないって。ホントに大した事ないから!」
「私に話せない事なのにか?」
「・・・話したら常連さん来なくなるもん」
「何?」

話すと自分がこの店に来なくなる?
自分はあの男たちとは全くの赤の他人なのに何故自分が関係してくるのだろうか。
全く意味が判らない。

「でもまぁ、その内話すよ。遅かれ早かれ言わなくちゃいけない事だし」
「・・・ならば心の整理がついたら話してくれないか」
「うん・・・」

悲しそうな表情でユフィは頷く。
そろそろ笑顔が見たいが、一体どんな話を振ればいいのやら・・・。
クッキーを1枚食べるのと同じタイミングでヴィンセントの携帯が着信を報せる。
ディスプレイを見てみれば、それは編集のリーブからだった。

「もしもし・・・ああ、そうか。判った。後でな」

ポチッと電話を切ってカバンにしまう。
すかさずユフィが尋ねてきた。

「何々?編集さんからとか?」
「ああ、取材旅行がなんとか通ったそうだ」
「取材旅行?どこ行くの?」
「ヒーリンだ」
「マジ!?じゃぁさじゃぁさ、ヒーリン名物のメロンゼリー買ってきてよ!アタシあれ大好きなんだよね〜!」

先程の悲しそうな表情とは打って変わってユフィはキラキラと輝くような瞳でヴィンセントにおねだりをしてくる。
客におねだりをする喫茶店の店員など聞いた事がないが、ユフィが笑顔になったのならそれでいい。
何かと切り替えの早いユフィだが、それがユフィの良いところだと思っている。

「なるべく覚えておくとしよう」
「絶対だかんね!絶対買ってきてよ!!」

強く念を押され、これは何が何でも買ってこなければならないとヴィンセントは内心苦笑するのだった。











END
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