萌えcanですよ

□コーヒー
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「ヴィンセント!」
「すまない、遅くなった」
「いいって!それよりも仕事は大丈夫なの?」
「ああ、問題なく終わった。お前の方もケジメは着いたのか?」
「とっくに終わってるよ!ずっとヴィンセントのこと待ってたんだから!」
「私を?」
「そ!早く中に入って!」

ユフィに腕を引っ張られてやや強引に中に入れられる。
用心の為にと鍵をかけるとヴィンセントがいつも座ってるボックス席に押し込まれた。
けど、いつもと違うのはその隣にユフィも座る事だった。

「あの、さ・・・その、ハッキリ言っちゃうとさ・・・前からヴィンセントのこと、好きだったんだ」

唐突な爆弾発言にヴィンセントの思考は一瞬真っ白になる。
頰を掻きながら恥ずかしさから目を逸らして告白するユフィの何といじらしいことか。

「・・・ちゃんと」
「へ?」
「ちゃんと私の目を見て言ってくれないか?」
「なななな!そんなこと・・・!」
「私の目を見て言ってくれ」

肩を掴み、りんごのように真っ赤に染まっている頰を上向けてこちらの方を向かせる。
するとユフィの顔は暗がりでもほぼハッキリと分かる程に赤く染まった。
「イジワル・・・」なんて呟く唇が可愛らしくて、塞いでやろうかと一瞬動きかけた体をなんとか押しとどめる。
最後まで話を聞かせてほしいと目で促せばユフィは伏し目がちにポツリポツリと話し始めた。

「き、きっかけはさ・・・わかんないんだけど、多分一目惚れなんじゃないかなって。
 それで、ヴィンセントは毎日ここに通って来てくれてさ・・・
 アタシが風邪引いた時は看病してくれたし、あの時にアタシの淹れたコーヒーを飲みたくて来たって言ってくれたの凄く嬉しかった。
 それがまぁ、なんていうか・・・決定的だったかな、って」
「それで?」
「え?」
「お前はどうしたい?」

努めて優しく、ユフィの気持ちを受け入れているという意思が伝わるように語りかける。
するとユフィは瞳を美しく潤ませてその言葉を呟いた。

「ずっと・・・一緒にいたい・・・!」
「ユフィ―――」
「でも、アタシは明日から遠くに行っちゃうからさ・・・アタシの事は忘れていいよ。遠距離恋愛とかしんどいでしょ?」

茶化すように笑うユフィだが、そこに本当の笑顔はない。
あるのは寂しさと悲しさだけ。
そんなものはユフィには相応しくない。

「だから・・・」
「ユフィ」
「ん?」
「私は・・・お前が淹れたコーヒーが飲みたい」
「は?」
「これからも・・・ずっと」
「それって―――」
「私の傍でコーヒーを淹れてくれないか?」

言葉で、目で、全身で想いを伝える。
ユフィが愛しいと。
ユフィが必要なのだと。
すると、キラリと涙を輝かせながらユフィは震える唇で囁くように言葉を口にした。

「・・・アタシで・・・・・・いいの・・・?」
「お前でなければ駄目だ」

音が乗っていないユフィの唇が動き、言葉を紡ぐ。
当然その言葉はヴィンセントの目と耳にしっかりと届いている。
届いているからこそ、ヴィンセントは小さく頷いた。
それを受けてユフィはヴィンセントのシャツを震える指先でキュッと掴み、潤んだ瞳を静かに閉じた。


窓から差し込む満月の光を受けながら二つの影は一つとなった。














END
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