いろいろお題倉庫

□クロワッサン
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親が決めた結婚なんてものはドラマや小説、マンガの世界だけの話だと思ってた。
仮に現実にあったとしてもごく一部てしかないと思っていた。
それがまさか事もあろうに自分に降りかかってりくるなんてユフィは思いにも寄らなかった。

「・・・ご趣味はナンデスカ」
「・・・読書などを少々」

今自分は何をしているのだろう。
綺麗な着物なんか着て美味しそうな食べ物を前に初めて会う男と二人っきりで何を話しているのだろう。
いや、落ち着け、落ち着くんだ。
ゆっくり数日前の事を思い出すんだ。
そう、アレは大学の講義がなかった日の事だ。
やる事もなくて家でゴロゴロしていた時―――

『ユフィ、ちょっといいか』

居間で友達にLINEを返していると親父が何やらあら給った様子で襖を開けて入ってきた。。
しかしユフィは振り返らぬまま生返事をする。

『んー?』
『今度の日曜日、空いてるかの?』
『これから頑張って予定入れるから空いてない』
『頑張って入れるとはなんじゃ!!』
『だって嫌な予感しかしないんだもん。オヤジが前振りをする時は絶対ロクな事じゃないし』
『ワシがロクな事にお前を巻き込んだ事があるか!?』
『あるから言ってんだろ!過去に何回巻き込まれた事か!』
『ええ〜い!過去の事は水に流さんか!』
『流せないから言ってんだろ!』
『とにかく!予定がないなら今度の日曜日に見合いをするぞ!!』
『ふざけんな!アタシは絶対に嫌だからな!誰が見合いなんかするか!!』
『仕方ないじゃろ!!母さんが決めた事なんじゃからな!!』
『はぁ!?えっ、ちょっ、母さんが決めたってどーいう意味だよ?』
『ヴァレンタインさんを知っとるか?』
『親父がよく迷惑電話かけてる知り合いでしょ?』
『迷惑電話ではない!そこのヴァレンタイン夫人と母さんは古くからの知り合いでな。
 その関係でワシもヴァレンタインさんとは懇意にしとるんじゃ。
 それでどうも、母さんとヴァレンタイン夫人がお前と息子さんをいつか結婚させると約束してたらしいんじゃ』
『証拠は?』
『母さんとヴァレンタイン夫人が残した遺言書じゃ』
『ちょっと見せて』
『後でな』
『今見せろ』
『後でな』
『ふざけんな!!』

とまぁ、なんやかんやありつつユフィはヴァレンタイン家の息子・ヴィンセントととりあえずはお見合いをする事になった。
本当はお見合いなんてしたくもないのだが、大好きだった母の遺言とあっては仕方あるまい。
とはいえ、お互いが乗り気でなければ破談にしてもいいという許可が降りたのでさっさと破談にしたいのがユフィの本音。

実際に顔を合わせてみたヴィンセントという男は長身の美しい顔立ちで、その辺の女なんか霞むくらいの美男子だった。
こんな人と自分が釣り合うなんて到底思えない。
もしもで付き合う事になって並んだりでもしたら周りからいい笑い者にされてしまうだろう。
ユフィ自身はともかく、ヴィンセントが自分の所為でそうなるのは気持ちが良くない。
お互いの為にもこのお見合いの話をなかった事にしようとユフィは他人行儀をするのをやめて切り出した。

「えっとさ・・・ぶっちゃけ、今回のお見合いどう思ってる?」
「・・・正直戸惑っているのが本音だ」
「やっぱり?アタシもなんだよね。いくら親同士仲が良くてもアタシら子供同士はこれが初めての顔合わせだってのに」
「お前が生まれる前に私の家がアイシクルに引っ越してしまったからな。無理もない」
「それでさ、このお見合いどうする?」
「差し支えなければ破談という事にしておこう」
「じゃ、それで決まり〜」

ユフィは決定と言わんばかりに海老の天ぷらに塩を付けて齧った。















あれから数日。
ユフィは今日も今日とて大学に通っていた。
現在は食堂で親友のセルフィ・リュック・ケイトたちと四人で昼食を摂っている所だ。

「なんて事があってさ〜」
「でもイケメンなんでしょ?」

トンカツ定食をモグモグと食べながら尋ねるケイトにユフィは首を横に振る。

「イケメンでも中身が伴ってなきゃダメっしょ」
「その為にもまずはお付き合いすれば良かったじゃん」

カレーをパクパク食べながらリュックが言葉を返す。

「えー?それで親父たちが勘違いして結婚って事になったら目も当てられないよ」
「確かにな〜」

うんうんと頷きながらセルフィはズルズルととんこつラーメンを啜る。

「ま、相手の人と相談して破談って事にしたからいいけどさ」
「な〜んて言ってたら運命の再会を果たしたりしてな〜」
「あはは、ありそう!」
「それでなんやかんやあって恋に落ちるんだよ」
「んな訳あるかっての」

セルフィたちと冗談を交わしながらユフィはハンバーグを一口食べる。


そう、この時は本当に冗談で笑っていたのだ。
ちょっとした冗談だったのだ。
それなのに・・・



「・・・今日からこの研究室に配属されたユフィ・キサラギでーす」
「・・・院生のヴィンセント・ヴァレンタインだ」
「・・・ヨロシク」
「・・・宜しく頼む」



偶然ってあるんだな。













続く

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