自警団

□夜の遊覧
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本日の業務を終えたエルオーネは管理棟を後にした。
夜空は既に漆黒に染められていたが、多くのビルやマンションなどの建物のお陰で街は明るい。
その明かりの元へ入ろうと数歩踏み出した所でエルオーネは足を止め、後ろを振り返った。
ギルド都市の中央であり、ギルドを象徴する建物として現在建設されている『くもりなき塔』。
その塔は全面ガラス張りで且つ四面に時計を付けた時計塔になる予定である。
現在では着々と工事が進んでおり、天高く鉄骨とそれを覆う灰色の布が被せられている。

「いつ終わるのかしら」
「まだまだ先だ」
「ひゃっ!?総長!」

独り言のつもりで呟いた台詞に思わぬ答えが返ってきてエルオーネは思わず飛び上がる。
後ろを振り向けば、そこには同じように塔を見上げているセフィロス総長がいた。

「い、いつの間に!?私を暗殺しに来たんですか!?」
「お前を殺した所で私に一切の得も幸福もない。刀が無駄に汚れるだけだ」
「喜ぶべき事なのでしょうけど素直に喜べないのは何ででしょうか」

笑顔でピクピクと青筋が浮かべるエルオーネだがセフィロス総長は全く意に介さない。
まぁ、いつもの通りの事である。

「ところで、本当にどうしたんですか?こんな時間に。マンションはこっちじゃないですよね?」
「塔の上での夜景を眺めに来た」
「登って大丈夫なんですか?」
「鉄骨はしっかり組まれていると聞いた。問題はない」

まぁ、何かあろうとも総長なら余裕で大丈夫だろう。
しかし塔から見る都市の眺めはさぞかし豪華なものであるに違いない。
それを羨ましく思っていると、思わぬ台詞がセフィロス総長の口から出てきた。

「お前も来るか?」
「いいんですか?」
「・・・いや、やはりダメだ」
「えー?何でですか?」
「重そうだからな、お前は。鉄骨から鉄骨へ飛ぶ事が出来ないかもしれん」
「失礼な!そこまで重くありませんよ!」
「どうだかな。自信を持って体重計に乗れるか?」
「の、乗れますよ・・・」

エルオーネの目が徐々にセフィロス総長から逸らされていく。

「太ったな」
「ふ、太ったとしても1キロです!誤差ですよ、誤差!」
「誤差、か」
「セクハラで訴えますよ!!」

涙目で抗議するエルオーネを軽く鼻で笑うと、セフィロス総長は歩み寄って来た。
そして何の前触れもなくエルオーネを抱き上げる。
エルオーネは反射的にセフィロス総長の首に腕を回した。

「いじめはこの辺にして行くか」
「今いじめって言いました?言いましたよね?」
「黙ってろ」

エルオーネの追及を制してセフィロス総長は早速建設中の塔へと向かった。
塔の周りには工事用のフェンスが置いてあったが、そんな物は軽々と飛び越える。
次に塔を覆っている布を潜り、後は鉄骨から鉄骨へ飛ぶ。
セフィロス総長の身のこなしは軽く、次々に他の鉄骨へと飛び移って行く。

(ユフィちゃんと勝負したらどっちが勝つかしら?)

ユフィは忍の末裔なだけあって動きは軽い。
しかしセフィロス総長も同じくらい動きが軽いので勝負したらどうなるのだろうか。
もし勝負するとしたらある意味白熱した戦いが観れるかもしれないと小さく盛り上がっていると、徐に視界が変わった。
それまで布越しの見難い景色が続いていたのが、今ではどこまでも広がる景色がそこにあった。

「わぁ・・・!」

眼下には都市の街並みが広がっており、建物の明かりが夜の暗闇を彩る。
まだ絶景と呼ぶには遠いが、それにしても素晴らしい眺めである。

「まだまだしょぼいな」
「言わないで下さいよ、台無しじゃないですか」

本当にこの男はムードクラッシャーだ。
そんな事を言われてはこの景色が段々しょぼく見えてきてしまう。
そうならない為にもエルオーネは頭を振って、しょぼいという言葉を振り払おうとした。

「100億万ギルの夜景まで後どのくらいかかりますかね?」
「さぁな」

適当に相槌を打ってセフィロス総長はクルリと背後を振り返った。
後ろにも広がる街並みも負けず劣らず明かりで彩られており、賑やかに見える。
断じてしょぼくなどない・・・筈だ。

「今しょぼいと思っただろ?」
「・・・思ってません」
「思ったな」
「思ってません!」
「フン、まぁそういう事にしておいてやろう。―――これで思い残す事はないな」
「え―――?」

セフィロス総長の最後の言葉に不穏なものを感じたエルオーネだったが、聞き返すよりも早く異変に気付いた。
それは、セフィロス総長の体が後ろへとゆっくり傾き、重力に従って落下していく所だった。

「っ・・・キャーーーーーーーーーー!!!!」

それはまるで坂を上っていたジェットコースターが一気に落ちていくような感覚。
けれど今の状況は少し違う。
安全レバーもなければ掴まれる物もない。
掴めるものと言えば、今現在共に落下中のセフィロス総長くらいだ。
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