夢小説

□ぶかぶかセーターと、体温
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ある晴れの日の昼休み。
風のない屋上は何故かいつもより人が少なかった。

上を見上げれば、広がる澄んだ青空。
今は11月だけど風が無いせいかそこまで寒くない。


しかし横にいる俺の彼女は
なんかすげぇ寒そうに縮こまってパンを食ってる。



「……奏」



ぶかぶかセーターと、体温




「んー?」


呼ばれた奏は、口をもぐもぐしながらこちらを向いた。

口元についていたチョコクリームを手で取ってやりながら
俺は小さくため息をつく。


「制服なのに体育座りしてんじゃねーよ。
 スカートん中見えてっぞ」


…まぁ見えてんのは体操服の短パンなんだけどな。


「だって寒いんだもん」

「冬の屋上で飯食おうって言った奴誰だよ」

「だって今日はあったかい1日だって朝のニュースのお姉さんが」

「寒さに震えてるのは誰ですか」

「…私です」



ちょっとだけムッとした顔で、膝を抱え直す奏。

そして食べかけのパンをずいっと突き出してくる。
なに?と言えば、あげる、と声。


「いらねぇの?」

「美味しいから3分の1おすそ分け」

「嘘つけ、飽きたんだろ」

「あれ、あま〜いチョココロネは嫌い?」

「どんだけ甘いんだよソレ」

「甘党の私が飽きて清志にあげるぐらい」

「相当甘いな」


そう言って笑い合う。


パンを受け取った俺は、
これ間接キスだよなとか頭の片隅で思いながら口に含んだ。

うん、普通にうまい。甘いけど。





「てかそれにしても寒いーーーっ」



そう言うと奏は、俺の正面から隣に移動してきた。
そしてぎゅーっと身を縮める。


「清志を風よけにしてみた〜」

「風吹いてねぇだろ」

「びみょーに吹いてるの〜」


軽く触れ合う、肩。
本当は俺に甘えたいんだろ、って言ってやろうと思ったけど
絶対拗ねるからやめた。




「つか俺全然寒くないんだけど」

「ええーっ、じゃあセーター貸してよ〜」

「ん、いいぜ」

「い、いいの!?」

「だって寒くねーし」

「え、いや、でもやっぱ悪いから……」


俺がセーターを脱ぎ始めると
突然おろおろし始める奏。

それを無視して、脱いだセーターを渡した。


「……いいの?」

「おう。着てろよ、寒いんだろ?」

「……ありがと」


そう言うと、心底嬉しそうに笑って
モゾモゾと着始める。



しかしまあ当然、俺のセーターは奏のそれより大きいわけで。



「めっちゃでかい」

そう苦笑いする本人は、
指先さえも見えない袖を見せてくる。


俺のセーターを着てる姿を見て、
なんだかくすぐったい気分になった。




「…ねぇ清志」

「うん?」

「これめっちゃあったかい」

「まあセーターだからな」

「そんでめっちゃ清志のにおいする」

「俺が着てたしな」

「…なんか、今凄い幸せな気分かも」



そんな事を言うから、少しだけ驚いて奏の顔を見る。



「清志にぎゅーってしてもらってる気分」


そう言うと、まるで溶けるように
へにゃっと照れ笑いをした。




「…っ」


胸の奥が、きゅんと締め付けられる感覚。

なに、今の。こいつこんな可愛い笑い方したっけ。




じわっと顔が熱くなってくのが分かる。


そして何故か無性に愛しさがこみ上げてきて
自分でもよく分からないまま
隣に座る奏をぎゅっと抱きしめてしまった。





「えっ、ちょ、清志」

「んだようるせーな」

「…どうしたの?」

「別に何も」



鼻をくすぐる、シャンプーと奏のにおい。

あー、駄目だ。俺めっちゃドキドキしてる。





「清志あったかい」

「奏もあったけえ」

「清志ー」

「んだよ」

「好き」


腕の中の奏を見ると、
俺の胸に頭を押し付けているのが見えた。


おずおずと背中に回される、腕。





「……俺も」


そっと優しく頭をなでた。




「好き」










〜End.

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