夢小説

□君が、大好き。[前編]
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午後6時。場所は俺ん家のリビング。
奏はカーテンの隙間から外を見ていた。


外は真っ暗で、暴風が吹き、土砂降りの雨が降っている。



《この非常に強い嵐の影響で、各鉄道がいつ復旧できるか分からない状態です》


そんなニュースキャスターの声を聞きながら、俺は奏の頭をポンポンと撫でた。




「ねえ、今日は俺ん家に泊まってけば?」






君が、大好き。






「……え」



俺がそう言うと、びっくりしたように声を上げる相手。



「だって電車動いてないみたいっスよ?
 奏帰れないじゃん」

「うん……まあそうだけど」

「今日は俺の家族帰ってこないし、泊まってってよ。ね?」



そう言って、カーテンを掴んでいるほっそりした手に自分のそれを重ねる。

すると顔を上げてこちらを見
ためらいがちに、でも……と言った。


「でも?」

「財布と携帯以外、何も持ってきてない。
 着替えとかも持ってきてないし」

「洋服なら俺の着ればいいじゃないスか」

「あんた身長差考えろ」

「え、でも170cmあるんでしょ。いけるいける」

「168cmだよ!!」

「変わんないっスよ」

「2cmは大きいよ!!」



背が高いこと気にしてるのに……とむくれる奏。
モデルみたいで俺はいいと思うんだけど本人は嫌らしい。


ってかモデルにならない?と誘いたいぐらい奏は美人でスタイル抜群だ。
性格も、明るくて優しくて、努力家で。
柔道部員として、相手を瞬く間に床に組み伏せる姿なんて本当に凛々しくて
男の俺でもかっこいいなあって見惚れてしまう。

俺の内面をきちんと見てくれるし、男子に対する媚も全くない。


………まぁつまりはベタ惚れなのであって。


一緒にモデルの撮影とかしたらスゲー楽しんだろなとかちょっと考えていると、
シャッとカーテンが閉める音が聞こえた。



「……やっぱ悪いし、帰るわ」

「え!?ちょ、無理でしょこんな嵐の中じゃ風邪引くっスよ!?」

「大丈夫、引かない自信ある」

「だから電車も動いてねーし!」

「きっとどうにかなる」

「誰かに誘拐とか痴漢とか!」

「まずそんなのされないし、されたら組み伏せる。つかそれは嵐関係ないよね」



そう可笑しそうに笑うと、玄関に行こうとする奏。



「えっ、ちょ、待って!」


俺はとっさに腕を掴む。
振り返ったその顔は、少し驚いた顔をしていた。



「涼太?」

「本当に風邪引いちゃうよ……?
 ……てか奏、今風邪引きかけてるっスよね」

「え」



朝から軽く鼻すすってる。
そう言って片手で額を包み込む。



「熱はないみたいっスけど……
 外ハンパ無く寒いし……ね?お願い、泊まってて。風邪引いて欲しくねえの」

「……気づいてたんだ」

「当たり前」



少し困ったふうに笑う奏を、
何が風邪引かない自信がある、だかと軽くこづく。



「……じゃあ泊めてください」

「もちろん!」

「そして着替えどうしよう」

「だから俺の貸すってば」

「いや、下着」

「……」



相手はめっちゃサラッと言ったけど、
年頃男子の俺の前で、ソレってちょっと無防備な発言だなぁと小さく苦笑。



「すぐそこにコンビニあるっスよ。
 ついでに夕飯もそこで買おっか」

「あ、うん」

「寒いから俺一人で行ってきてもいいけど……えっと、色々選ぶのとか、あるし……どうする?」

「もちろん私も行くよ」



第一、彼氏に下着買ってこさせるとかそんな恥ずかしいこと出来ない、と笑いながら奏が言う。


それに俺は小さく笑って、ソファにかけてあったウィンドブレーカーを無造作掴んだ。
そしてリモコンを手に取りテレビを切る。






そうして俺たちは嵐が吹く外に出た。





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