夢小説

□照れたら負けの、そのゲーム
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お正月の遊びといったら、


羽つきとか凧あげ、コマ回しや福笑いとかが無難だよね。


うん……………そのはずだ。
そのはずなんだ。


「ねぇねぇ奏〜」

「だからうーるーさーいー」


私は間違ってない。
間違えてるのは、きっと隣の……涼太。


「愛してるよゲームしよ!」

「却下!」



照れたら負けの、そのゲーム



「なんで駄目なんスかぁ〜!」

「だっておかしいでしょ!
 それ正月にやるゲーム違うし!」

「正月にやっちゃいけないっていう法律があるわけじゃないし、いいじゃないっスか!」

「ずいぶん無茶苦茶な屁理屈だね!」

「てかなんで正月の遊びをそんなにやりたいの!?」

「いや別にそこまでやりたいわけじゃないけど!」

「じゃあいいじゃん!」

「却下!」

「えーっ!?」



和室に2人の声が響く。


初詣のあと、涼太は私の家に遊びに来ていた。

リビングでは、私の家族と彼の家族がわいわいと話をしている。
なんだかんだこの二家は仲良しで、今回の初詣も一緒に行ったのだった。


おせちとか色々な美味しいものをたくさん食べた私たちは
何かで遊ぼうということで和室に移動。

そして今に至る。



「愛してるよゲームやろー?」

「アンタもしつこい!!
 お正月なんだから、かるたとかにしようよ」



そう言って紙製の箱から絵札を出す。



「かるた2人じゃできないっスよね」

「……」



そして、しまう。



「だから愛してるよゲームやろ!」

「いやいやだからなんでそうなる!」

「俺がやりたいから!」

「ふざけんな!
 ってかなんでそんなにやりたいの?」

「そ、それは――――」



突然口ごもる涼太。
視線が少しそっぽを向いて、少し頬が赤くなる。



……奏にたくさん愛してるよって言ってもらえるから

「え?何ごめん聞こえなかった」

「〜〜〜〜っっ!!
 もー言わない!!」

「ええ!?なんで……わっ、」



体がふわっと浮く感覚。
背中と膝裏には、細くてもたくましい腕の感触が。

そして背中に触れていたものが
腕から硬くて温かな胸板に変わる……って、


「ちょ、涼太!?」

「こうやんねーと奏逃げるから」


あぐらの上に座らせられ、体をぎゅっと包むように抱きしめられているこの状況。
腰にしっかりと腕が回されているから身動きが取れない。

離して、と言うと
やーだ、と返事が返ってきた。


片肩に尖った顎を乗せられ、さらさらの金髪が頬や首をくすぐる。

長い睫毛がそろった瞼は閉じられ、
唇は緩やかに弧を描き、口角は少しだけ上がっていた。

酷く整った美しい顔に安心したような微笑みを浮かべたその顔は
まるで……天使みたいだ。絶対に口にはしないけど。



「んー……この体勢、落ち着く」

「…まったく涼太は甘えんぼさんですねー」

「…奏」

「うん?」

「…愛してるよゲーム」

「……………分かったよ」

「まじ!?よっしゃ!」


小さくため息をつく私とは裏腹に、
にぱっと嬉しそうに笑う彼。

その姿を見てわんこみたいだなぁとか思ってしまい、ちょっとだけ緩む頬。




「じゃあルール確認するっス!
 男女が交互に輪になって座って、」

「2人しかいないけどね」

「照れたり笑ったりしないで片横の人に『愛してるよ』って言う。
 で、言われた人は次の人に同じように『愛してるよ』って回していく」

「片横も何も、横一人しかいないけどね」

「言われた人は「え?」と言った人に聞き返すのも可能で、
 言う人は再度照れずに「愛してる」と言わなきゃならない。
 ……………こんなとこっスかね?」

「聞き返すのは何回まで?」

「無制限で」

「マジかよ」



……涼太に面白がって何回も聞き返される気がしてやまない。

まあいいけど。
私も聞き返してやる。



「じゃあ俺からね!
 照れたら負けよ、愛してるよゲーム!」


私を抱きしめたまま、元気良くそう言う声が耳元で聞こえた。

横を見ると、さっきのにぱっとした笑顔を必死で引っ込め
真面目な顔を作ろうとする姿が。


……真面目な顔したらめちゃめちゃイケメンなんだよなあ。


やっと真顔になった彼は、小さく咳払いをして口を開ける。


「奏」

「うん」

「愛してるっス」

「うん」

「……」

「……」


……正直言うと、ときめいた。
でも意地でも顔には出さない。目もそらさない。
平常を装う。


よし、私のターン。


「涼太、愛してるよ」



何度か、瞬き。
真顔のその顔。

しかし次の瞬間、口元が動くのが見えた。
唇が横に引き結ばれ、力が入る。

……あきらかに、にやけるのを堪えてる顔だ。



「……頑張ってるみたいだけど、
 普通ににやけてるよ?」

「………〜っ、」

「涼太の負け〜」

「……うー」



なんか、意外だ。
自分からそのゲームをやりたいと言ってきたのだから
てっきり自信があるものだと思ってたんだけど。


と、いうか



「なんか……そういう系のこと言われ慣れてるかと思ってた。人気モデルさんだし」

「奏から言われるのは……特別だもん」


口元を手の甲で押えて、拗ねたように照れる彼。
でもその瞳はどこか嬉しそうな色をしている。



「もう一回やる?」

「……んー……やめとくっス。
 今ので分かった、俺勝てない」

「涼太が言いだしっぺなのに」



漂う穏やかな空気。

自然と頬が緩んで笑みがこぼれた。

それを見て、彼の照れ顔もへにゃりとした笑顔になる。
その照れ笑いまでも綺麗だとか、
イケメンは本当にずるいなぁとか改めて思う。





「思ったんだけどさ」

「うん」

「愛してるよっていう言葉
 笑って言いたいタイプっスわ、俺」

「…うん?」

「奏」



真正面から見つめられる。


透き通っていてどこまでも澄んだ、
けれど強い意志を芯に持ったその向日葵色の瞳。

両目は優しく細められ、潤いのあるその水面は私を映した。



伝わってくるのは、友情と親しみと。

ひたすらに深い、慈愛の想い。





「愛してる。
 ……これからも、ずっと」




――――甘い甘い幸せを溶かしたように、微笑みは優しく柔らかく。

それは私の胸の奥に、小さな灯を落とした。


それはみるみるうちに沁み広がり、心すべてを温かく包んでゆく。





「……私も愛してる」



今、私はどんな顔をしているのだろう。

ゲーム中だったら確実にアウトになるような顔をしているに違いない。






――――私の今の表情が

貴方が私に向けてくれている、

幸せと慈愛に溢れたその笑顔と

同じだったらいい。








〜end.

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