夢小説

□なんだかんだ、可愛い
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[※2月なのに何故か3年が部活やってます]



「……なぁ」

「ん?」

「お前チョコ貰いすぎじゃね?
 誰から貰ってくんの」

「だから女子だっつってんじゃん」

「モテすぎだろ」

「チョコいっぱいの紙袋を部室に持ってきたあんたに言われたくねーな」

「そういうお前も持ってきてんじゃねぇか、轢くぞ」

「同性の人に渡す方が抵抗ないじゃん?
 だから沢山貰えたんだよ」

「そうだとしても、お前のその量は異常だろ」

「彼女持ちなのにそんなに貰うあんたも大概じゃね?」

「お前、俺の彼女として見られてねぇのかもな」

「女子力無いって?知ってる」





なんだかんだ、可愛い




2/14、バレンタイン。
放課後の部室で。

俺は一人のイケメンと話していた。
その手には、一つ一つ丁寧にラッピングされたチョコでいっぱいの紙袋。

それなりに大きな紙袋にぱんぱんに入っているのだから、
相当な数だろう。


まあそのイケメンは俺の彼女なんだが。


……あ?ゲイ?
ちげーよ俺にそんな趣味はねえ。

ちゃんと女子。
ただ、イケメン(いや、美男子のほうが合ってるか?)なだけで。


172cmという女子の中では高い身長と、綺麗な顔立ち。
癖の無い艶やかな黒髪は、肩にかからない長さでシャギーカットがかかっている。
成績も優秀、加えて女バスの主将。

気さくで明るい元気っ子だし
同性でも憧れの対象になるのは頷ける。

あとは言葉遣いさえ汚くなければ完璧……まぁ俺も人のこと言えねぇけどさ。




「ちわーっす……あれ秋月先輩」


奏と話をしていると、不意に部室のドアが開く音がした。

そちらに目を向ければ
黒髪と緑髪の後輩の姿。

その二人の後輩は、久しぶりに部室にいる奏の姿に驚いたようで
少し目をしばたかせていた。



「あ、高尾と緑間じゃん」

「こんにちは!」

「こんにちは〜。
 おーおー高尾ー、お前ちょっと背ぇ伸びたんじゃねー?」

「えっ、マジっすか?」

「うん、さすが男子は伸びるねーこの時期」



くしゃくしゃと頭を撫でられ嬉しそうな顔をする高尾。

犬かお前は。



「今日は事情アリで女バスは練習休みだからさ、久しぶりに練習の手伝いするよ」

「おおー!」

「助かります」

「礼なんて言う事ねえって、そいつただ単にボール触りたいだけだから」

「清志うっさい」

「あ?」

「相変わらずwwwwケンカップルwwww」



爆笑する高尾。


そんな奴を無視して緑間が口を開いた。



「宮地先輩、大坪先輩と木村先輩は」

「あー……委員会で遅れるってよ」

「そうですか」



一人納得したようにコクリと頷く緑間。

よくよく考えれば、あいつが先輩の居場所を聞くなんて随分変わったよな。
前は他人なんて興味ないって感じだったのに。
パス練習にも参加するようになったし、堅物の奴がよくもまあここまで成長したもんだ。


……って、何親みてぇなこと考えてんだ俺。




「あっ、そうだ宮地サン秋月先輩!」


高尾が、はた、と何か思い出したかのようにエナメルバッグをごそごそとしはじめる。


はい、と綺麗にラッピングされた包みを渡された。

俺には青色のと黄緑色、奏にはピンク色のと橙色。



「これ、クラスの女子達からです。
 渡しといてって」

「……ほんとモテるなお前」
「……ほんとモテるなあんた」

「ハモったwww
 ってちょ、今気づいたけど先輩らめっちゃチョコ貰ってるじゃないですかwwwすごwww紙袋ぱんぱんwww」


それぞれの荷物の傍に置いてあった紙袋を指さして、
ぶふぉっと吹き出す。

笑い上戸め。ツボ浅すぎんだろ。



「高尾お前さっきから笑いすぎ。埋めんぞ」

「私の場合、友チョコで交換した分もあるけどなー。
 高尾は?貰った?」

「何個か貰いました!真ちゃんほどじゃないですけど」

「え、緑間何個貰ったの」

「数えてないです」

「そんなに貰ったの」

「真ちゃんおしるこ味のチョコとかも貰ってたんですよ、凄くないっすか」

「ぶっwwおしるこ味ww凄いwww」

「ですよねwwwぶふぉwww」

「作った人何者www……いてっ」



あー、コイツも笑い上戸だったっけか。

むすっとした顔の緑間の前で爆笑している2人の頭を軽く叩く。

2人いると、うるささ倍増だな。




「いってーな、何だよ」

「そろそろ着替えんのに部室使うから、お前は先にコート行ってろ」

「あー、ごめんごめん」


けらけらと笑って、ボールが入った籠に向かっていく奏。


「……あ、そだ」


しかし、何かを思い出したのか
自分のバックの方へ歩いていった。



「なんだよ」

「いや、そういえば私男バスのみんなに作ってきたんだよな。
 今渡そうかなぁと」



大坪と木村は部活後だなー、とか言いながら
一つの、これまた紙袋を取り出す。

女子らしい可愛い柄じゃなくて
スポーツショップの紙袋なのがなんとも奏らしい。

てかお前チョコ紙袋に詰めるの好きだな。
確かに便利だけど。



「ってことで、緑間高尾あげる」

「ありがとうございます」

「わー!あざっす!
 ……って何これすげぇ」

「凝ってますね」

「おーどれどれ……うわ、すげえな」

「でしょでしょ?頑張ったんだぜー」



オレンジのリボンがついた透明なラッピング袋に入っていたのは
チョコのパウンドケーキと一枚のプレーンクッキー。

四角いそのクッキーの表面には、オレンジ、黒、白のチョコペンで秀徳のロゴと
それぞれのポジション、背番号が入っていた。

綺麗な線で仕上がっているそれは、正直かなりのクオリティだ。



「奏の女子力久しぶりに見た」

「蹴り飛ばすぞ」

「俺には?」

「清志には…これ」



手に、さっきのものより一回り大きい不透明な袋が渡される。

ついてるリボンはオレンジ。
多分秀徳カラーを意識してるんだろう。




「なんで俺だけ袋不透明?」

「気にするな」

「気になる。つかロゴとか見てえし。開けていい?」

「えっ、だ、駄目」

「なんでだよ」

「なんでも」

「はあ?」

「後で開けて!
 私はもう練習行く!!」

「あ、ちょ、待てって!
 ……あー…何なのあいつ」



逃げるように出て行きやがった。

バタン!と閉められたドアを見ながらため息。

少しだけ見えた頬が赤かったような。
気のせいかもしんねーけど。


しっかし、後でって言われてもなぁ……と呟きながら貰った袋を眺めていると、
隣から「ぷっ」と吹き出す音が聞こえた。



「……何だよ高尾」

「いや、宮地サンも鈍いなって」

「んだとコラ轢くぞ」

「多分開けたら分かると思いますよ、逃げた理由」

「……」



にこにこと無邪気な笑顔を向けられる。
そんな表情に少し気持ちを押されて、
俺は指先で丁寧に袋のリボンをほどいた。

開けてみると、ふわっと甘い匂いが香る。

中には、後輩にあげていた量の2,3倍の量のケーキとクッキー、
それとカップチョコが入っていて。


“SHUTOKU SF #8”

相変わらず綺麗すぎるその文字と、

もう一枚。


「…っ、」


丁寧な、英字。


“To my darling who has been marking efforts of countless”

(数え切れない程の努力をしている、最愛の貴方へ)



……やばい、すげー嬉しい。

にやけそうになる口を手で覆う。

その英単語一つ一つが、
頭の中で日本語訳されていく度に

胸の奥がきゅっと締めつけられる。



「……あれ」


パウンドケーキの後ろから覗くピンク色。

そっと取り出してみると、それは一枚のカードだった。

二つ折になっているそれを開くと
見慣れた恋人の文字が目に映る。


”    “



「…………あー、くっそ……」



じわ、と顔が熱くなる。
鼓動も速くなって、少しくらくらした。


こんな可愛いこと書くんじゃねえよバカ。
いっつもツンツンなくせに。

俺の心臓持たねぇだろうが。



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